見出し画像

義母のケース8 コロナ禍での看取り

「叔母さん、きっと納骨行きたいよね?」

 火葬が終わって家に帰ってから、顔を合わせたT某が言いました。

「でも、抗がん剤も始めるし、体調と相談になると思うんだよね。二週間のサイクルだから、次の投与の直前になれば、だいぶ薬が切れて元気になってると思うんだけど」

「別に四十九日なったらすぐってわけじゃないんでしょ。相談して決めようよ」

 T某は、義兄の三周忌にあわせた墓参りに、叔母を連れて行ったときのことがよほど印象深かったらしいのです。義実家の墓は、叔母が以前住んでいた町の側にあるので、そこを通ったこと自体を喜んでいました。死ぬまでにまた見られてよかった、と。

「T某が納骨一緒に行きたいんじゃないかと気にかけてます。体調と相談して予定をすりあわせませんか」

 ラインで叔母に伝えたら、やっぱり嬉しそうでした。T某、老人キラーぶり半端ない。

 これが28日、火葬が終わった夜のことでした。

「気負わず来て下さい」

『簡易保険のことで話し合いたいです。都合のいいとき電話下さい』

「(中略)疲れちゃったので、明日でいいでしょうか」

 ラインでの最初のやりとりのときは、義父との関係を心配した叔母が、慌ててフォローに入ろうとしているのだと思ってました。

 しかし、当日中の電話を断られた叔母が続けた文言は、判りやすくまとめるとこんな感じでした。

『義兄(義父)に相談して、受取人をH(夫)に変えて貰おうと思ってたの。(義兄の死のあとから)あなたたちと親しくお付き合いするようになって、あなたたちご家族が、とても好い人たちなのに安心して、名義を変える予定を立てていました。証書を渡すので、都合のいいときに取りに来て下さい。私が受取人になった経緯もお話ししておきたいです。

 腹を割って話し合えば、利発なあなたには判ってもらえると思います。気負わず来て下さい』

 ……んー?

 私はこの時まで、受取人を変更する直前に私にシメられた義父が、腹いせか、判断がつかなかったか、あるいは今後も面倒を見てもらいたいという打算かで、勝手に叔母に変更したのだと思っていました。

 だって、認知症入りかけ、暴言に暴力も振るうのに家事は一切出来ない義母より、頭も体もしっかりして、銀行等のお使いもしてくれる、家事も上手な叔母の方が頼れると判断するのは、強いものにつく卑怯者義父のいかにもな考え方です。

 どんなにか弱い振りをしても、騙されないどころか、平気で怒鳴りつける(笑)怖い嫁になんか、近寄って欲しくないでしょうし。

 だから叔母も、姉の夫であると言うだけで全くの他人のこの害悪老人に振り回されて、迷惑だろうなぁと、素で思ってました。

 でも、よく考えてみたら私、叔母と仲良くなったの、義兄が死んでからなのです。

 私にとって、義父をシメたのは、家族を守るための正当防衛でしたし、今は叔母もそれを判ってくれていますが。

 よく知らない、姉の息子の嫁が、姉の夫を怒鳴りつけるのを見たら。しかも金のことで。

 こら怖いわ。

 下手に姉の息子に保険金が渡って、それを嫁がいいように使ったら。それなら、自分が受取人になって、しばらく様子を見よう。

 そんな風に警戒するのも判る。私もそう判断するかも知れん。

 そうは思うけど。

 私、叔母、好きなのよね。

 正直、実の母でも、義母でも、血のつながった親戚でもないからこそ出来る、「距離感のある親子のようなお付き合い」がとても楽しくて。

 お野菜とか、想定の三倍以上持たされて、周りに分けたり食べきったりがちょっと大変だけど、それも親心みたいなものだろうし、実母とも出来なかった友達のような(まぁ、関係的にはお友達か)楽しい付き合いが出来て嬉しかった。

 だから実母が亡くなって、帰ってきて、一番に会いに行ったのは叔母だった。母が亡くなったんですって、話したかった。

 その叔母が、大腸ガンの兆候らしき話をしてくれたのに、気づけなかったのが悔しかったし。

 叔母が抗がん剤を始めたら、母みたいに弱っていってしまうのかと考えたら不安だし。

 そういう関係を今まで培ってきたのって、実は「試されてた」 のかなって。

 もちろん、時間が経てば人との関わりも、印象も変わっていくから、そんな穿った見方はしなくていいのだと判っているし、一晩経てば自分がけろっとしているのも知っているのだけど。

 今は、結構悲しいので、気分のままに泣きながら寝ようと思います。

ひかれるもの、たされるもの

 やっぱり起きたらわりとスッキリしていました。

 叔母とは二日に会う約束です。今日は病院で、ポート作成の予後を見るとのこと。

 高齢で傷の治りもそんなに早くはないだろうから、綺麗にくっついてくれてればいいなぁ。

 そして今日も私は朝から電話。

 義母の通帳、引かれるものを止めるだけではないのです。振り込まれる、主に年金関係を止めなくちゃいけない。こっちが払いすぎた分はなかなか返さないのに、向こうが払いすぎると、「すぐ返せ」って言われますからね。

 介護保険関係は役所の手続きが済んでいるからOK。国民年金は今書類待ち。

 このほかに、義母が現役だった頃に入っていたらしい「企業年金」が、年一回、微々たる額ですが支給されます。これは別の手続きでたまたま払い込み明細を見つけたものです。

 検索するとHPがヒット。死亡届けに関する書類もHPから申請できます。書類を申請すると、支給額の再計算をしてくれるようで、振り込まれてから返す心配はしなくてよさそう。

 朝から申請を一件片付け、今日は仕事。

 帰ってくると、葬儀屋さんの事後フォローパンフレットと、介護施設からの請求書が届いていました。

 介護施設の担当は、精算が終わったら連絡をくれると言っていたのですが、考えてみたら義母が亡くなってまだ一週間。気を利かせて郵送して下さったのでしょう。毎月の請求書に同送する予定だったらしい、居室担当者さんのお便りも同封されていました。

 毎月写真と一緒に簡単なお便りを入れてくれる、丁寧な施設でした。

 で、請求書ですが、今月めっちゃ安い。介護施設で死亡診断書も出して貰っていたので、その請求書も同封されていましたが、それを加えても安い。

 本当であれば、救急車に乗せられて行った先で、処置料やら死亡診断書やらを別に払うはずだったのだろうから、義母は本当に最後の最後で綺麗に旅立ったのです。

 いい思い出のない人だったけど、終わり良ければ全て・・・いや騙されない(正気に戻る)

 まだ施設に荷物を残したままなので、直接伺って精算と、荷物の引き取りと、ご挨拶をしようと思っています。

 ということで、次の更新は四月二日の予定です。ほんとは箸休めに、別のネタをUPするつもりだったのだけど、ちょっとお預けです。

電子書籍の製作作業がんばります。応援よろしくお願いします。