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アニメ「進撃の巨人」(2022-02-28 #83まで)

(アニメネタバレあり)

ここでは、一般的に作品の放送終了の後に感想文を書くのですが、ウクライナが侵攻されているこの時期で、まだ放送中のアニメ「進撃の巨人」の感想を書かざるを得ないように感じています。

2013年にアニメ放送が始まった「進撃の巨人」は、今はもう第4期です。漫画の方はもう終わりましたが、この作品の漫画を読んだことがない私は、興味津々でアニメを観ています。制作は鬼滅の刃に劣らずクオリティーが高く、主題歌や背景音楽も素晴らしいです。第1期の主題歌「紅蓮の弓矢」は、人気が高まり、その歌を歌ったLinked Horizonは紅白に出演したこともあります。

「進撃の巨人」の魅力はその世界観です。ストーリーの最初は、巨人という天敵が現れ、生き残った人類が壁を築き、壁の中で百年の平和を実現させたという世界観を表しています。壁に囲まれた人類が、ある日、外の巨人に襲撃され、僅かな土地もほとんど失ってしまいました。エレンを含めた主役たちは「この世から巨人を駆逐する」ために、兵団に入り、自由のために、「心臓を捧げよう」として巨人と戦っています。

ストーリーが進むとともに、「巨人は敵」という観念は、段々覆されていきます。巨人の正体が人間の変身ということも、巨人に変身できる人間がスパイとして数年間兵団にいることも、主役たちはわかるようになりました。そして、長年壁の中で統治している政府を打倒して、人間が人間から政権を奪還したということは、「進撃の巨人」が「ヒーローVS怪獣」という戦隊モノではないことは明らかになっています。そもそも、主役のエレンも謎のパワーを持っていて、巨人に変身できるのです。

この作品の真のインパクトは、アニメ第3期の後半で明かされた世界の真相です。主役たちがいる中世風のような地方は、ただ広い世界の島の一つなのです。壁の中の庶民たちは、統治者に洗脳されていて、他の国と隔離されています。壁の中の民族は、「ユミルの民」であり、巨人になれる特殊な人種で、かつて巨人の力で世界を支配していましたから、今でも世界中の人に「悪魔」とみなされています。つまり、第3期まで、視聴者はずっと「悪魔」の視点から「進撃の巨人」のストーリーを観ていました。

未知の物を怖がり、未知の物を排除したいのは、自然な気持ちです。第3期の最終話に、真相を初めて知ったエレンは、島の岸から海に向かい、「向こうにいる敵…全部殺せば、オレたち自由になれるのか?」と疑問に思いました。

「自分の世界以外の人は全員悪魔だ」ということは、現実にもよくある概念です。私の小さい頃の教育で、「第二次世界大戦は日本の悪行だ」と教科書で書かれていて、それはみんなの常識です。軍票や、慰安婦問題や、731部隊の人体実験や、南京大虐殺など、よく教科書やニュースやテレビの番組に出ています。私の出身地の高齢の人にとって、「日本」はまるで「悪魔」のような存在です。祖母は「日本の鬼のせいで教育を受けられず、いろいろひどい目にあった」と何回も言いました。原爆で多くの日本の方がなくなったと知っていましたが、その時の私はその教育の環境で、「それは単なる日本の因果応報だ」と思っていました。

考え方が変わってきたきっかけの一つは、映画「火垂るの墓」を観た時です。東京や日本の一般市民のひどい状況を、「火垂るの墓」の兄妹を見て少しずつ知るようになりました。「もし私がその時の一般市民なら、なにかできることがあるだろうか?」と初めて考え、一般市民の無力感にちょっと共感できるようになりました。それから、日本によく旅行にいったり、ネットでも現実でももっと日本人と繋がったりして、「みんな人間だ」と思い、戦争の悪行と普通の人間を分けて考えるようになっています。「向こうに敵がいる」と思った私も、「向こう」にも被害者がいることに気づきました。

「進撃の巨人」のキャラクターはまだそう簡単に「向こう」の世界と繋がることができないから、極端な思想になりがちです。世界中の「ユミルの民」は、巨人の力を兵器として政権に利用されていながら、現実のナチス強制収容所のような場所で隔離され、管理されています。主役のエレンは、島を出て、世界の首脳が集まっているイベントでテロのような事件を起こして、全世界に宣戦布告しました。一方で、同じ民族のある人が、大義名分で自身の全民族安楽死の自滅計画を企んでいます。エレンがその安楽死の計画を潰し、「地鳴らし」を発動させ、壁の中の巨人を最終兵器として世界中に行かせました。「地鳴らし」とは、普段は単に敵対勢力を威嚇しているようですが、発動させたら核兵器のように世界を破壊してしまいます。こんな恐ろしいエレンと彼の戦法を支えている人は、現実での侵略戦争を支えている人と同様、少なからずいます。

先週末の第83話で、両陣営の反戦の人がやっと手を組んで、「世界を救いに」を目指してエレンの戦争を阻止しようとしています。現実で、私の微力でロシアのウクライナ侵攻を阻止できるわけがないですが、ロシア国内の反戦デモのニュースを観たら、「向こう」にも戦争に反対する人がたくさんいると確信しています。人種への憎悪をせず、戦争を発動した政権をピンポイントに非難します。

「進撃の巨人」の結末も、現実も、良い展開になることを願っています。

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