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“LET’S GO LET’S GO LET’S GO” (Cleo Qian)

英語の小説の読書感想文を日本語で書くのは変なやり方だと思われるかもしれません。でも、今まで筆者のCleoさんとのやり取りがほとんど日本語なので、日本語で書いても大丈夫だと思います。

初めてCleoさんに出会ったのはコロナの間のオンライン日本語クラスでした。他に十数人の同級生もいましたが、二人組で宿題をディスカッションする時間もありました。ある時、2週連続でCleoさんと組に分けられて、宿題の話が終わってちょっと話をしました。二人が遠くない箇所に住んでいることがわかって、カフェで会って、お茶をしました。まだコロナの間でしたし、僕の言語交換パートナーさんもすでに本帰国したので、新しい知り合いというか、元々の友人もあまり会っていない時期でした。それで、Cleoさんとの「オフ会」が結構印象に残っています。僕の母国語は広東語で、Cleoさんの母国語は英語です。どの言語で話すか決めていなくても、まるで共通認識があったかのように、二人とも外国語である日本語で自然とお喋りをしていました。

Cleoさんが物書きであることを知ったのは後の話です。Cleoさんのサイトで掲載されている短編小説を読んだら、Cleoさんの文章が気になって、この“LET’S GO LET’S GO LET’S GO”が出版されたら、すぐに買ってきました。それから、この本が「Time」に選ばれて、「The 100 Must-Read Books of 2023(2023年に読むべき100冊)」の一冊になっています。知り合いが書いたので、ちっとも「買ってあげようか」という気持ちがなかったです。読むかいがある一冊だ、と有名な「Time」もそう分析しているようです。

「2023年に読むべき100冊」の他の99冊は読んだことがないので、「評論」をする資格がないですが、一応「読書感想文」として、感想を書こうと思います。

“LET’S GO LET’S GO LET’S GO”は、11編の短編小説からなっているコレクションです。ちなみに、タイトルの文字は全部大文字で、そしてそれも短編小説の中のタイトルの一つです。掲載された短編も入っているし、新しい短編もあります。全部「フィクション」ですが、実際の生活のネタや経験を多少入れていると推測できます。Cleoさん本人と会ったことがあるので、小説を読んだ時に「これ、本人の話だ」と思い出したことが何回もありますが、それらを除いて、せめて公開されている作者プロフィールの「南カリフォルニア出身」と「ニューヨークに住んでいた」のようなネタは、ストーリーにもよく載っています。

日本文化に関わることは、元日本語クラス同級生のCleoさんも小説にたくさん書いています。「ramen(ラーメン)」や、「anime(アニメ)」や、「tamagotchi(たまごっち)」などの日本文化産物がよく出ています。そして、僕がここ数年間学んだ「tsundere(ツンデレ)」も書いてありますし、僕が知らなかった「yandere(ヤンデレ)」という単語も教わりました。本の「lackadaisically(情熱に欠ける)」のような難しい(僕にとって)英語の単語も勉強になりましたが、日本文化まで勉強になれるのは予想以上の収穫でした。

小説の主人公は、ほとんどアジア系アメリカ人や、或いはアジア人の若い女性の成長を描写する共通点があります。読者の僕は、女性でもないですし、もう若くないですし、主人公たちのような出身地と人種の間の違いもないと思います。それでも、主人公の気持ちが伝わってきたから、この小説集の文章の上手さが表われていると思います。「Messages from Earth」で、主人公のLunaは中国に行ってばあちゃんの家で夏を過ごしました。辛うじて上手く話せない中国語で「Grandma, I love you(おばあちゃん、愛している)」におばあちゃんに言ったら、皆に笑われてしまいました。「The reply was that no one ever just said that to their family members. How was she supposed to know?(だれもがそんな言葉を家族に言わないっていうことを、彼女が知っているわけがない!)」とLunaは感じました。それは夏目漱石が訳した「月が綺麗ですね」(「I love you(愛している)」の翻訳)と同じような文化の違いです。この相違で生まれたLunaの葛藤が、上手に描かれています。

上記の「Luna」という人物の名前は、4つのストーリーに出てきますが、同じ人物に限られていないですし、他のストーリーに他の名前の人物もいます。そして、たまに一人称視点の「I(わたし)」で書いてあったり、たまに三人称視点で書いてあったりします。一人称視点の場合は、「主人公の名前は何?」と僕は疑問に思いながら読んでいて、他の人物のセリフでやっと主人公の名前を知ったら、なんとなく主人公の薄い存在感と孤独感を感じました。「We Were There」という別のストーリーのLunaは、「I vaguely imagined saving up and moving, out of this city, out of this country, to somewhere where I wasn't known, though I couldn't even say that I was known here.」と言いました。かつて一念発起して、仕事をやめてアメリカに移住してきた僕は、強く共感できました。僕のような人がいなくなることは、他人に忘れられるというより、そもそも気づかれていないと言ったほうがいいです。小説のLunaの心境を読んだら、僕のその移民の気持ちも蘇りました。

主人公の周りにいた、あるタイプの人物の存在が気になりました。その人物は、たまに「Melissa」、たまに「LiLi」、たまに「Lily」として本のあちこちに出てきます。共通点は、主人公の学生時代の友達で、主人公よりモテていて、存在感が強い同級生なのです。でも、それぞれのストーリーのある時から、その「Melissa/LiLi/Lily」という友人が主人公の生活から消えて、その後でもう一度話をしてみても、昔の関係には戻れないのです。成長に「出会いがあれば別れもある」と言っても、小説集では疎外感のほうがもっと伝わってきます。

「感情を抑える」のもテーマの一つです。一つ目の短編の「Chicken. Film. Youth.」のLunaは、「I stepped up, tilted my face, kissed Henry squarely on the mouth.(踏み出して、頭をちょっと傾けて、Henryさんの唇にきちんとキスしてしまった。)」で、ストーリーが不意に終わりました。最初はその「ヨーロッパ映画風」のような結末が何を伝えてくれているかあまりわからなかったけど、多分それは「Youth(青春)」の一環として、まだそのどうしても感情を抑えられない時期を描いていると思います。別のストーリーの「Wing and the Radio」に進んだら、「We all have intense desires, and feel confused about how to act on those desires.(人には強い欲望があるし、その欲望に混乱させられてしまうこともある)」で、その感情をコントロールできない時期をはっきり説明しています。後の「We Were There」のLunaは、「He made me think of my childhood, which I knew was dangerous.(彼にわたしの子供時代のことを思い出させられるのは、(恋に落ちる)危険性がある!」という危うさの自覚もあるし、「These are the feelings of someone at sixteen… and I wish I could say I was that young, but I was twenty-six(そういう気持ちを16歳ぐらいなら誰もが持っているだろう。まだそんなに若いと言いたかったけど、その時もすでに26歳だった)」という過去形の気持ちもあります。そうですね、「Chicken. Film. Youth.」で感情を抑えられないLunaは、「We Were There」で自覚できるLunaに「成長」(*)しました。成長とは、青春ならではの感情を抑えることを学ぶことです。「We Were There」、振り返れば、自分もそういう「青春」の時期にいました。

(*ちなみに、人物設定上、「We Were There」のLunaは「Chicken. Film. Youth.」のLunaより年下ですが、コレクションの順番で、こう感じさせられました。)

後書きで、Cleoさんは手伝ってくれた人に感謝してから、「I did a lot of this alone, and it was hard. Thank you, also, to myself.(ほとんどを一人で完成させるのは、大変だった。自分自身にも、ありがとう)」と書いています。この後書きだけで、Cleoさん本人が小説の人物たちの孤独感と繋がっているようです。この感想文を機に、人物の暗さ、辛さ、寂しさを共有してくれたCleoさんに、日本人ぽい「お疲れ様でした!ありがとうございました!」を伝えたいと思います。

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