鉄拳ニックと鳥人軍団

 俺の体は鋼鉄製。だから、大抵のことは平気だ。
 撃たれても切られても、猫に引っかかれたようなもんだ。
 今まで散々撃たれたり切られたりした俺が言うんだから間違いない。

 それでも、高度3,000mから落っこちるっていうのは、何度やっても慣れないな。

 そんなことを考えながら、俺はクレーター状にへこんだ落下地点から起き上がった。
 周囲は草木一つない荒野。
 殺風景だが、溶岩の沼に落ちたりするよりはマシか。

 ここは、モザイクゾーンなんだ。
 「何もない」っていうのは何よりの幸運だ。

 慣れた手つきで左腕のカバーを開いてタッチパネルを操作、ナビゲーターに接続する。

『うん?ああ、ニックか。』
 軽薄を、そのまま音にしたような声が頭の中に響いた。
『もう着いたの?調子どう?』
 こいつはジョニー。ナビゲーターだ。直接、会ったことはないが、どんな奴かは良く知っている。
「ぼちぼちだ」
『今回も飛行機から飛び降りたの?』
「まあな」
『無理せずに、パラシュートなりジェットパックなり買えば?』
「いろいろあるんだ」
 ジョニーは放っておくと、際限なくしゃべり続ける。
 さっさと本題に入るに限る。
「目的座標は、どっちだ?」
『そこから南西に真っ直ぐ』

 俺は、南西に歩き出した。

 その矢先のことだ。

 目の前の地面が大きくひび割れたかと思うと、中から大きな影が俺に飛びかかってきた。
 牙をむき出しにしたティラノサウルスが。

『ワオ』
 ジョニーが無責任な歓声を上げる。

 俺はとっさにティラノの奴を思い切り殴りつけた。

 ガギン

 鉄と鉄がぶつかり合ったような、鈍い音がした。
 少なくとも、恐竜を殴って出る音じゃない。

 その意味を考える暇も与えず、ティラノサウルスは大きな口で俺の胴体に喰らい付き、持ち上げた。
 そのまま、顎を閉じて締めあげてくる。

 上等じゃないか。

 俺は恐竜の口に手をやって、ゆっくりと力を込めはじめた。

【続く】

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