友情出演でお願いします

美容室で雑誌を読んでいたら「!?」と釘付けになった。
それはモデルの菊池亜希子さんのエッセイで、Netflixの「初恋」を観た上での自分の初恋の話だった。
私も「初恋」は大変心を揺さぶられたドラマだったので、非常に興味深く読ませていただいた。



菊池さんは、自身の初恋で思い出深いアイテムに、ネルシャツやマルボロのタバコの箱など書かれていた。ドラマも確かマルボロだったし、テーマ曲である宇多田ヒカルの「First love」歌詞の中にも「最後のキスはタバコのflavorがした」とあるし、世代的にもドンピシャらしい。ああ、想像しただけで胸キュン。エモエモ。彼女自身の初恋エピソードもドラマになりそうな内容で、もうエモすぎて読んでる私のパッションMAX、雑誌片手にパーマのロッドを付けたまま、「エモーーーーーイ!」と叫びながら走り出すところだった。

ああきっとこんな風にみんな心の中に初恋の思い出は消えずに残っていて、何かのトリガーで鮮明に思い出し心が狂おしくなるのものなのだろう。


そして初恋の定義は人それぞれ。初めて好きになった人、初めての経験の人等々。

菊池さん定義の「初恋」で思い出される私の中でのアイテムは、ローソン、自転車、ポケベル、身長差…。初めて付き合った人ではないけれど、恋人とする初めてのほとんどのことをその人と経験した。若くて眩しくて一瞬で、永遠の時間。初めてばかりの、一生に一度しかないあの恋がやはり私の「初恋」かなあと思う。

(ちな、以前書いた初恋は初めて好きになった人のつもりで書いています)


さて私の「初恋」の彼はバイト先が同じの同級生だった。

彼は背が高く、とにかくハンサム、イケメンが代名詞のカッコいい男の子、

なのに性格はとんでもなくピュア。純度高すぎて透明感半端ねぇ、むしろもう見えないんじゃ?ってくらいに。

神から与えられたその整った顔面を持ちながらそれを利用することも無く、汚されることなく奇跡的にスクスクと素直に成長したのかと、その完璧な産物にもはや泣きながら祈りたくなるほど。あの歳で顔も心も美しいなんて、もう国家で保護すべきレベルである。

しかしそんな天然記念物がそばにいるにもかかわらず、私は高校3年間遠距離で付き合っていた人が居り、キャアキャア言われていた彼のことは全く眼中になかった。むしろ彼が進学した沖縄にどうやって行くかしか頭になかった。ハイサイ。


そしてまあそれ以前に、みなさまご存知の通り、私はブスだ。


更にプラスオプション、その頃の私と言ったら、若気の至りもあるけれどとにかく強気で頑固で独りよがりで、プライドが高く協調性もない。友達もほぼ居ない。本当に性格の悪いブスだった。


なので彼がなぜ私を好きになったのか、未だ謎。人類最大の謎。謎を追ってアマゾンの奥地へ向かわねばならない。もはやアマゾン奥地の珍獣に近づく感じのとっかかりだったのだろうか。いやまたは神様が私にくれた一生に一度のプレゼントだったのかも。


何がどうなったのか。特に弱みを握った記憶もないし、大金を貸した覚えもない。舞踏会でガラスの靴を片方落とした記憶もないし、猟師に撃たれた瀕死のツルを救ったこともない。

なのになぜだかいつしか私たちは恋人同士になったのである。


あまりの格差カップルに、彼のファンの同級生がバイト先に来て「(ブスのくせに)マジで付き合ってんの?????」と聞かれたこともある。彼の妹さんも私がブスなので認めてないと聞いた記憶がある。書いていて思い出して涙が出るレベルである。いや泣いてないけど。



外野はガヤガヤしたが、私たちはお付き合いを続けた。
恋人とするほぼ全てのことは彼と経験した。映画、遊園地、ダブルデート、海、花火大会… 絵に描いたような甘酸っぱい初恋だった。


彼はおそらく私のことをとても好きでいてくれたし、私も彼のことを大好きだった。

彼はへそ曲がりの私の悪いところを、そういうところはよくないよ、と叱ってくれたし(しかし当時素直に聞く私ではないことはお分かり)私を普通の人の仲間に入れようとしてくれる。彼自身がみんなから好かれる、優しくて素晴らしい若者だった。

いまだに私の母は「◯◯くんが1番良い子だったのにね〜」というレジェンド。「あんたみたいなブスを彼女にしてくれたのにもったいない〜」もセットで耳タコ。



しかしこんな素晴らしい彼との初恋に終わりを告げたのは、なんと私である。彼とは正反対のタイプの同じゼミの同級生と仲良くなり、押しに押されて私は彼に別れを告げた。


菊池さんも書かれていたけれど、思い出というものは時間の経過とともになぜか綺麗なものばかりが凝縮されて、純度が高くなり残って行く。楽しかった思い出ばかり都合よく記憶に残っているものなのだ。



おそらく彼側から話を聞くならば全く違う話になるのではないかと思う。なんなら彼の中での初恋の相手は私では無い可能性も高い。願わくば彼の初恋の相手も私であって欲しいが、多分違うかもしれない。



そしてあの初恋からもう30年近く経つ。
人生は不思議なもので、この彼とはなんと、数年前からSNSで繋がる仲である。

彼とはたまにLINE等でやり取りもするのだけれど、残念ながらみなさまが期待するような色っぽい話もない。


それはきっと彼の根本的に変わらない誠実さと優しさが大きいけれど……けれど……そう。
多分、彼も大人になり、アオハルのフィルターが外れて改めて見た私がブスであることにだと気がついてしまったのだと思う。そりゃもう一度手を出す気にもならない。アオハルフィルター恐るべし。


焼け木杭に火も点かない、種火さえないので、全く色気のないどうでも良いネタや出来事をたまに送りつける。非常に楽しい。

(確認していないが、たまに突然送られてくるメッセージは彼としては迷惑かもしれない。一度ちゃんと確認してみなければと思っているけれど)



私は彼が初恋の相手で本当に良かったし、今も大好きな人である。この先おそらく永遠に会うことはないであろうけれど、私の人生が終わる時、エンドロールには彼の名前が確実に、主役級に流れる。

ただ、夢から覚めた彼側からの希望で、名前の横にカッコ書きで「友情出演」がつくかもしれないな。


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