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「ヘ」ッドショット

 俺は生粋の戦場カメラマン渡部陽一。いつもは中東などの紛争地域にて過酷な戦争の一場面を撮り、世界に平和の必要性を訴える活動をしている。紛争や戦争が起きている地域に生きる無辜の民は劣悪な環境下でも懸命に生きている。それは余りにも悲劇的で、憐れに感じることだろう。
 シリアの内戦に巻き込まれた青年にあったことがある。彼は老いて動けない母親と一緒に危険地帯で暮らしている。彼はいつ生きるか死ぬか分からない状況でも屈託のない笑顔で家族を支えているんだ。俺たち日本人はそんな理不尽なことに遭わなくて済んでいるから、この青年が実際に直面している様々な出来事を実感しきれないかもしれない。だから俺は出来るだけ写実的に人々に彼が生きる現実を伝えようとしている。
 写真は言葉よりも確実な重みを持つ。「百聞は一見に如かず」という言葉があるし、仮令ディープフェイクのような技術が進歩したとしても、俺はこの写真の強みというものを信じてこれからも活動していきたい。





 しかしこれは表の顔だ。俺は戦場カメラマンとして活動する反面、戦場アサシンスナイパーとしても活動している。つまり暗部にて俺は様々な要人を殺してきたことになる。おっと心配はいらない。俺は金なんて興味ない、ただ正義のために、平和のために活動しているだけさ。
 どうして俺が最近テレビに出てないか分かるか?出たら特定されるリスクがあるからだ。正直ネットで俺を調べたときに出てくる顔ではない。守秘義務がちゃんとした整形外科で目や鼻から骨格まで全て変えた。だから昔テレビで見た人間でも俺だと気づくことは不可能だ。だからこそ顔を出すのはリスキーなんだ。
 俺は暗殺の依頼を受けたとき、いつも持っているキヤノン EOS-1D MarkIVを置き、代わりにMcMillan Tac-338を担いで目的地に向かう。出先では煙草なんて吸えないから、いつもLevi Garrett Extraを嚙みながら仕事をする。そして目的を始末したら家に戻る。そういう生活だ。
 これが裏の顔、つまり「渡部陰一」の顔だ。ところで最近気づいたことだが——意外とスナイパーとカメラマンというのは共通点が多いんだ。例えば、照準とピントはとても似ている。自分が理想とする瞬間にトリガーをひく。長い事この世界にいると、一見関係ないもの同士でも、その実多くの共通点があるということが分かったりするもんだ。こういう面白い共通点が見つかる。
 しかし特に面白いのは——俺はヘッドショットを好む。

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