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中国ラップ④中国新说唱第三季(2020年) 〜プロデューサーを刷新、マンネリ脱出なるか?〜


皆さん、こんにちは。
過去三年に渡りシーンを盛り上げてきた中国有嘻哈,中国新说唱ですが、
ついに4年目に入ります。
途中に継続が難しい状況に陥りながらも、なんとか復活し4年目を迎えた2020年。

↓ 2019年以前は以下の記事をご覧ください↓
中国有嘻哈2017

中国新说唱第一季(2018)


中国新说唱第二季(2019)


出演者から見るシーンの状況を見ていると、ステレオタイプのラッパーのスタイルが多かった以前よりも、よりバラエティに富んだ、さまざまなスタイルの出演者が多くなった気がします。トラック選びに関してもTrap、FUNK、JAZZ、そしてRockなどの要素が取り入れられ、さらには中国らしさといえば、それぞれ地元の方言を使った方言ラップなどもヒットし、よりヒップホップ/ラップという解釈が自由にされていいるように感じます。ただ、そのぶん、出演者の新陳代謝は減ったように感じます。2年前にも出演していて2度目だとか、毎年出演している、など、“夏の甲子園状態“は否めないかなと思います。

さてそのぶん今シーズンの審査員(プロデューサー)はかなりガラリと変わりました。吴亦凡、潘玮柏、张靓颖、GAI(周延)、朴宰范 の5名。
MC HotDog、张震岳、G.E.M.邓紫棋の3名が外れ、新しく2017年の中国有嘻哈の勝者、GAI(周延)と元2PMの朴宰范が選出。どんなジャッジをするのか非常に楽しみな選出ではあります。
GAIに関しては、自分がスターになるきっかけを掴んだ番組ですから、その後輩となる出演者たちをどのようなジャッジをし、アドバイスをするか注目されていました。さらにはG.E.M.邓紫棋に変わって、中国人で初のグラミーノミネート歌手、张靓颖がプロデューサーに。

2017年からの中国有嘻哈~中国新说唱。2020年で4年目になりましたし、審査員(プロデューサー)の入れ替えで番組の雰囲気が結構変わり、マンネリを脱出できるのか要注目なシーズンです。

そんな番組のマンネリはありつつも、シーンとしてもラッパーの活動領域に関しても幅が広がり、一般的なクラブでの活動から、番組や映画の主題歌への採用や、国民的なスポーツイベントでのライブ出演など、より世間に浸透し、1音楽ジャンルとして受け入れられ始めたのではないかと思います。

それでは2020年の勝者を見ていきましょう。
今回は5名。


▫️KAFE.HU

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今までもたくさん勝者を輩出してきた四川省成都出身。成都といえば皆さんご存知「HIGHER BROTHERS」をはじめとした数多くのラッパーを輩出している中国ヒップホップ震源地の一つ。そんな成都出身の彼は2013年に自身のデジタルアルバムをリリースしデビュー。

いわゆるステレオタイプのヒップホップ/ラップスタイルとは一線を画している彼のオリジナルスタイルは非常に個性的で、ラッパーという括りに収まらず、まさにアーティストという感じ。

そんな彼は商業化し画一化されたラップシーンに対して非常に懐疑的で、いわゆるメイクマネーを目指した最短距離を行くようなスタイルを毛嫌いしているように感じます。

2017年にはベストアルバム賞も受賞した『Kafreeman』では全曲生演奏にこだわって制作されていてその辺りが非常にオリジナリティがあり、彼らしいこだわりのように感じます。

2020年には中国新说唱に参加。そして見事3位に。大手レーベルModernSky(摩登天空)所属。

中国新说唱出演シーン



▫️GALI

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上海出身。13、14歳の頃からラップにふれ始め、18歳の頃に自分でもラップをし始めました。中国人男子に大人気のバスケを彼もこやなく愛し、しょっちゅうバスケをして過ごす青春時代だったそうです。その流れでヒップホップに触れるようになります。

その後、大人になった彼は就職し9時から5時のサラリーマン時間を過ごしますが、退職しラッパーとして生きていく決意をします。その理由として、友人のラッパーを見ていると自分の社会人としての生活に刺激や魅力を感じなくなり、そんな夢のような生活を送る友人ラッパーたちが羨ましく思ったからだ、とのちに語ります。そして彼は音楽なしではもう生きてはいけないと悟ったのです。

2017年に中国有嘻哈に出演し、吴亦凡(Kris Wu)からゴールドチェーンを獲得するも、番組サイドからシーズン中に規定量以上にゴールドチェーンが配られた、という理不尽な理由から没収され、それ以降、パフォーマンスをするチャンスを失った彼は、番組をDissった曲『Illusion Freestyle』を発表し、物議を醸します。番組の評価基準に対し、曲を使って堂々と抗議し、さらに2020年に中国新说唱へ参加した際には、番組中にこの曲を披露します。(若干リリックは変わっていましたが)

メンタル強すぎ!な彼には、番組のチーフディレクターでさえも賞賛の声をあげ、2020年の番組を代表するラッパーへと勝ち残っていたのです。

彼はラッパーだけでなく、DJ、そしてモデルとしてNIKE、CONVERSE、G-SHOCKなどの契約もあり、雑誌にも引っ張りだこの人気者に。

中国新说唱出演シーン

飞檐走壁 (ғᴇᴀᴛ. ᴍᴀᴄᴏᴠᴀsᴇᴀs,ᴋᴇɴɴʀᴏʙʙ)



▫️王齐铭

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重慶を中心としたラッパーたちで構成されるレーベルGO$Hのメンバー。やっぱり四川・成都と重慶はラッパーの層が厚く、ホットなエリアの一つ。

幼少期は、ラッパーあるあるな典型的な、勉強嫌いの問題児だった彼は、親が大学進学を進めるも、受験に失敗し、人生がわからなくなり、次第にお金をとにかく稼ぎたいと感じるようになっていきます。そしてジムの呼び込み、美容室の呼び込み、その後はアルミ工場などで働き始めます。しかしアルミニウム工場の仕事は彼にとってはつまらなく、向上心のない職場の人間たちに愛想をつかし仕事を辞める決心をします。

そして2012年頃からライブ配信を開始し、フリースタイルラップを1日7時間も毎日配信し始め、同じくライブ配信をしていたGAI(中国有嘻哈2017年の勝者)の収入を見て、自分もお金をもっと稼ぎたいと思い始めます。

その後、2015年にGAIから誘われ、重慶へ移りGO$H所属に。(当時の王齐铭の出身地は重慶近郊の小さなエリア)

そして2017年、中国有嘻哈が始まりますが、なんと彼はIDカードを紛失しエントリーができずという凡ミスでチャンスを失います。(番組エントリー時に身分証明としてIDの提出が義務付けられているようです。中国のアプリや色々なサービスはこのID認証が義務付けられています)
そして満を辞して2018年の中国新说唱にエントリーしますが、結果が振るわず悔しい敗退。彼は非常に後悔したといいます。

2020年に2年ぶりの挑戦で中国新说唱に参加した彼はパワーアップを果たし、見事に決勝へ進出。2位に。ただし優勝候補同士が潰し合い、ラッキーな2位と言われているため、『最弱の2位』という残念なレッテルを貼られることに。

さらにGO$H所属ということもあり、良くも悪くも他のGO$Hメンバーと比較され、ディスられることも多々あります。他のメンバーが個性的かつ実力者揃いでもあるため、彼自身のキャラクターや個性は埋没しがちなので、仕方がないことでもあるかもしれません。

どうでもいい話ですが、僕の小学校の同級生にめちゃくちゃ似てるんですよね。
間違いなく別人なのですが、ちょっと応援したくなります。




中国新说唱出演シーン







▫️李大奔

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湖北省出身。13歳より浙江省杭州の学校に通い始めました。なんと当時から一人暮らしをしていたため、早くから自立心が養われたようです。13歳で一人暮らしって、なかなかだと思いませんか?

14歳からヒップホップに目覚めた彼は、学校前のビデオ店でアウトキャストやリルウェインの曲を聴いて過ごしたそうです。当時学校には誰もヒップホップを聴いている人はいなかったようで、それが彼にとってはクールだと感じていたようです。その後、徐々に自分でラップをすることにハマっていきます。

それと同時に絵も大好きで、ラップで言葉を紡ぐこと、絵を描くことは同時に彼には自分の人生を表現することだ、と感じるようになっていきます。

そして中国美術学院でファッションデザインを選考し、2年生の時に自分のブランドを立ち上げ、そのブランドでも成功を収めます。

2020年に中国新说唱に参加。

彼のファッションスタイルはおしゃれでK-POPの要素も多分にとり入れたスタイルがファッションアイコンとしても魅力的で、ともすれば派手な性格と思われがちですが、内面はラップとデザインを愛する詩人のような感性を持ち合わせています。

いわゆる「メイクマネー、俺、地元じゃ権力あるぜ自慢、女性をはべらせパーティー」のようなラッパーにありがちなMVやイメージをあまり好まずに、敦煌の砂漠で行ったMVの撮影などは、自然が織りなす綺麗な風景を全面に押し出し、俗っぽいものを排除した彼らしいMVの仕上がりになっています。この辺りはKAFE.HUと共通しているところかもしれません。ラップスタイルは似ていませんが、共通する価値観や理念を持っているふたりのように感じます。


中国新说唱出演シーン

为你 / 你不是我爱人,不能去我家/LOVE THUG ROSE

日本で撮影されたMV


敦煌で撮影されたMV『WHOEVER』 (※クリックして飛んでください)



▫️李佳隆

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中学2年の時にバスケットボールの試合を通じてヒップホップと出会いったそうです。前出のGALIと同じですね。中国では国民的人気のスポーツであるバスケットボールは、多くのラッパーがバスケ好きを公言していますし、中国ヒップホップカルチャーへ与えた影響も大きいように感じます。

そうしてまずはTIやエミネムなどの洋楽アーティストの真似をし始め、徐々に自分の曲を作り始めます。そして2016年に重慶のレーベルWAVE MUZIKに加入。よく2017年に中国有嘻哈に同じレーベル仲間a$enと参加するも残念ながら敗退。

2018年には、中国のラップドキュメント番組に参加し、カナダのラッパーと共同作業で曲を作り上げます。そして同年、再度中国新说唱に参加するもまたしても敗退。この敗退はかなり悔しかったようです。

そして2020年、長年の挑戦が身を結びついに中国新说唱で優勝しました。

彼のラップだけでなく歌い上げる甘いメロディは高評価されていて、特に「Berry」という曲は中国国内のラッパーたちによって100曲以上もリミックスされ、NetEaseCloudにアップされています。純粋にメロディの良さを押し出したスタイルは多くのファンを魅了しています。


中国新说唱出演シーン

リミックスされまくっている曲『Berry』

半山



▫️最後に

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2020年の上位メンバーをご紹介してきました。2020年で4回目を迎えたこの中国新说唱(中国有嘻哈から含めると4年目4シーズン目の放送)ですが、今回より顕著になったのが、出演者の多くが既に1度、ないしは2度、3度と中国新说唱(もしくは中国有嘻哈)に出演したことがあるということです。それにより出演者の新鮮味が失われ、これは同時にシーンが飽和し始めたことを意味しているように感じます。中国ではこれを“回鍋肉“状態(1度調理したものを再度調理することを表す)だとの表現をされています。

今年2021年のシーズンでは、番組自体の見直しが迫られているのは間違いなさそうです。

とにかく新しい才能の発掘が急がれるとともに、テンセントも独自でラップオーディションのバラエティショー(女性に限定した番組『黑怕女孩』)を始めるので、うかうかしているとそちらにファンを取られてしまうかもしれません。視聴者としてはいずれにしても新世代のラッパーの出現に期待に胸を膨らませていきましょう。


それでは再见!

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