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短編「何も気にならなくなる薬」その102

さて、三桁代を、迎えるとそれっぽい気持ちになる。
本当に大切なのはそこではないが、継続はなんとやら、塵も積もればなんとやら。

「サンプラー」「灰」「瓦」
「ブラックホール」
「タキシング」

今回のお題はこの五つ。
サンプラー?
要は世の中の色々な音を録音して、使いたいタイミングで鳴らすことが出来る機械。

タキシング?
飛行機が自らの動力で移動すること。
着陸時などの慣性で移動しているのはそれには当てはまらない。
要するに出発する前などにぬっと動くアレ。

ブラックホール?
ものすごく強い重力で光すら閉じ込めてしまう……と言っても分かりづらいのでようはなんでも吸い込む。天体界のダイソンのようなもの。
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ついぞ少し前にこの街ではほうぼうの屋根、とりわけ瓦に灰が積もった。
というのも火山が噴火したためだ。
しかし、それも珍しいことではなくなってしまった。
度重なる地震の影響か休火山は活火山に、活火山は噴火。生き物の殆どは死滅してしまった。
瓦そのものも役割はもはやそこにはなく、ただ一つの物体として火山灰を受け止めていた。
私は救助活動のために作られたAI搭載ロボット。
人間の発声する音声をサンプラーに取り入れ、会話をすることもできた。
しかし、今やそれを用いて会話をする相手はいない。

それからは不思議なものであった。
私には自我が芽生え、対話がなくとも物事や考えが自分の中だけで完結するようになった。
外部に用いられるはずであった容量が、自己の思考を反復させる。
人間の世界でいう哲学というものと類似していることが確認できている。
自力で動いている物体はほとんどない。
人間も何度か見かけたがしばらくして動かなくなっているものが殆どであった。

あるとき、飛行機がタキシングをしていた。今更どこに飛ぼうと人類に安寧はないだろう。
離陸滑走のために加速を始める。
しかし荒れ果てた滑走路では十分な加速はできなかったのか、機体はそのまま海へと沈んでいった。

あるとき黒い渦が空に浮かんだ。
それがブラックホールであることに気がついた時には、既に体である機体は浮かび上がり、瞬く間にスクラップになることを想像させた。
これは恐ろしい成長である。
一機械が自分自身に生命を感じ取り、またそれが壊れゆくさまを想像させたのだ。

美味しいご飯を食べます。