見出し画像

同人誌をデザインするデザイナー ーそれぞれのアイデア&テクニック

はじめに

こんにちは。chipco designの齋藤です。このたび、「魅せる! 同人誌のデザイン講座――Before-Afterでわかる試したくなるアイデア&テクニック」という本を技術評論社から4/15に発売することになりました。

画像1

この本は同人誌のデザインに的を絞ったデザイン本で、同人誌の表紙やお品書きやサークルロゴなどをBeforeAfter形式で解説する本です。過去にいろんな方の同人誌をデザインさせてもらい、その中で学んだことや気付いたことを一冊の本にまとめました。

そんな中、他にも同人誌をデザインする人たちにお話を聞ければと思い、今回は4名のデザイナーさんにインタビューをしました(本当はもっとたくさんの方にも聞きたかったのですがいろいろ都合もあり活動時期が近い方にお願いしました)。どのようにデザインを進めているのか、どんなデザインをしたのか、そして同人作家に役に立つテクニックなどもお聞きしました。本とはまた違った形でお役立ちになる記事になれば嬉しく思います。


01.Blankie

画像11

1.基本情報

名前:いとう / Blankie
Twitter:@blankie_design
サイト:https://blankie.jp/


2.普段の職業、仕事内容

グラフィックデザイン


3.同人誌のデザインを受注しようと思ったきっかけなどを教えてください

お友達の同人誌やグッズのデザインをおてつだいしたことがきっかけです。


4.デザインをする際、同人作家さんとのやりとりの流れを教えてください

お申し込み時におおまかな概要をお知らせいただき、詳細はSkypeでの打ち合わせをお願いしています。打ち合わせを元にラフイメージを制作・作家さんに確認いただき、修正・ブラッシュアップ後納品しています。


5.同人誌のデザインで楽しかったこと、得たものなど

同人誌ならではの自由度の幅の広さです。作家さんの『好き』やチャレンジしたいことをギュッと詰め込むことができ、ルールに縛られない自由なアイディアに刺激をいただいています。部数やコストなど同人誌ならではの制約から生まれるアイディアや、自主活動だからからこそ制限なく好きなように装丁できる振り幅が面白いと思っています。


6.印象に残っている特殊装丁を教えてください

箔押しや寸足らず表紙など大きくない範囲で設定した特殊加工が、アクセントとしてうまく映えた作品。

画像11

画像12

ガレットno.6
フルカラー印刷 + 特殊紙(ミランダ)PP加工
PP加工と特殊紙がうまくマッチしたかなと思っています。PP加工で少しラメ感が抑えられている+PPクリアの濡れ感が、雨降りというシチュエーションにマッチしたと思っています。


7.同人誌と商業誌のデザインの違いはなんでしょうか

届ける層と情報量でしょうか…。


8.デザインに悩む同人作家さんへのアドバイス、おすすめのテクニックなど

映画のフライヤーやポスターを見比べるのはどうでしょうか。作品のどの要素を最も見て欲しいのか、どんな人に見て欲しいのか、伏線になるようなデザインが隠されていないか…など、気になる点はいくつもあります。本編を観終わった後に自分なりの答え合わせをすることで、デザインの広がりに繋がるような気がします。配給先やターゲット層によって情報量が異なるのは避けられないので、情報の取捨選択やその差異を見比べるのはとても勉強になります。



02.ミズアコ

画像12

1.基本情報
名前:ミズアコ
Twitter:@mizuako_d
サイト:
https://mizuako.tumblr.com/

https://note.com/mizuako


2.普段の職業、仕事内容

グラフィックデザイナー(広告・パッケージ)


3.同人誌のデザインを受注しようと思ったきっかけなどを教えてください

元漫画家志望の現役デザイナーのため、漫画活動を再開した際に「同人誌のデザインもしてみたらおもしろいかも!」とスタートしました。親しい作家さんたちに同人誌のデザインに興味があると話しをしたところ、デザインを依頼していただけるようになりました。


4.デザインをする際、同人作家さんとのやりとりの流れを教えてください

1.ヒアリング
ストーリーの内容がわかるもの(完成原稿・プロット・ネーム・あらすじなど可能な範囲で)・ジャンル・本のサイズ・好きなイメージ・目指している方向性がある場合はその内容を伝えていただいています。

2.初校
ヒアリングした内容を元に、イラストレーション・タイトル・装飾などを組み合わせ世界観を広げます。だいたい7割方デザインを完成させて作家さんにチェックをしてもらいます。

3.再校
初校を元に、更に作家さんとアイデアを出し合ってデザイン詰めていきます。


5.同人誌のデザインで楽しかったこと、得たものなど

同人誌は二人三脚でデザインしているイメージで、作家さんの協力が大きいです。自分1人では作れないようなデザインが完成するのがとても楽しいですね!  得たものは、活動を始める前よりデザインが楽しいと思えるようになったことです。


6.印象に残っている特殊装丁を教えてください

画像2

画像3

弓也さんの「今夜はやめない」、ハートホログラムPP加工本です。表紙はイラストレーションのかっこよさを活かしたシンプルなデザインですが、ホロが見えると派手でかわいい印象になります。ギャップがおもしろい仕上がりになりました。表紙裏・裏表紙裏の蛍光ピンクも気に入っています。


7.同人誌と商業誌のデザインの違いはなんでしょうか

同人誌では「作家さんのやりたいことを後ろから支える」イメージです。作家さんやストーリーの世界観を大切にデザインを考えます。
商業誌は「利益を得ること」が大切になるため、より読者に刺さりやすい、ストレートなデザインが多いと思います。タイトルが読みやすかったり、読者層を広げるための工夫も多く見られます。


8.デザインに悩む同人作家さんへのアドバイス、おすすめのテクニックなど
・おすすめデザイン本
「なるほどデザイン」筒井美希 (著)

なぜそうした方がいいのか、デザインの理論の基礎が学べます。1度知識として入れておくとデザインしやすくなると思います。読後はデザインの見え方が変わってくるかもしれません。軽やかな編集で読みやすいのもポイントです。デザインの基礎を学びたいと相談された際にいつもこの本をおすすめしています。

・よく使うテクニックなど
同人誌の表紙デザインの場合、作品を連想させるモチーフを組み込むことが多いです。イラストレーションでポイントになっている色と同系色のあしらいを使用することも多いです。
漫画家を目指していたため、基本的なレイアウトは漫画の画面構成から、大胆な見せ方は漫画の見せ場から、抑揚は人物のバストアップとロングの使い分けから、漫画で得た知識をそのままデザインに流用しています。漫画・デザイン・写真・音楽など、切り離さないで考えることがテクニックかもしれません。

・色、フォントの選び方など
作品のイメージ・キーワードをたくさん書き出します(やさしい・軽やか・明るい・スタイリュシュ・重厚感、など簡単なものでOK)。ビジュアルからなんとなく作ろうとすると着地点が決まらず作業時間もかかりやすいので、何を求めているのかを把握しておくとスムーズです。イメージ・キーワードを元に、連想ゲームのようにある程度ベースを組み立てていくこともできます。

「やさしい・明るい」の場合
色=パステルカラー
書体(フォント)=細め
文字の間隔=広め
文字のサイズ=小さめ

「激しい・重々しい」の場合
色=ビビッドカラー(激しい)+ダークカラー(重々しい)
書体(フォント)=太め
文字の間隔=狭い
文字のサイズ=大きめ

これが必ずしも正しいわけではありませんが、なんとなく完成系が想像つくのではないでしょうか。ここから更に、強調する・一部をわざとずらして違和感で目に止まりやすくする、など展開させることもあります。


おすすめフォント
mojimo-manga(フォントワークス)
プロ用フォントを使用することでぐっとクオリティが上がります。お値段以上の価値があるのでご予算があればぜひ。


Google Fonts
Googleが運営するフリーフォントサイト。欧文は「Montserrat・Roboto・Lato」がおすすめです。


しっぽり明朝(フォントダス)
フリーフォントながらプロ用フォント並みのクオリティで、5種類の太さがあり使い勝手もよくおすすめです。


デザイン生成サービス
かんたん表紙メーカー
様々なバリエーションを提案してくれるサービスです。漫画系・小説系・評論系、どのタイプの作家さんにも参考になると思います。



03.FLOSHIKI DESIGN

画像13

1.基本情報
名前:FLOSHIKI DESIGN(フロシキ デザイン)
Twitter:@jimgi0509
サイト:https://floshiki.com

2.普段の職業、仕事内容

グラフィックデザイナーです。装丁・ロゴ・広告からHPやアプリなど幅広くデザインしております。2014年ごろから同人誌のデザインを開始。これまで、数多くの同人関連のデザインを担当しております。


3.同人誌のデザインを受注しようと思ったきっかけなどを教えてください

もともと同人誌が大好きだったのですが、自分でイラストや文章を作って配布する自信がなく、デザインだったら同人誌に関われるんじゃないかと思い、知り合いの同人誌のデザインの担当をはじめました。やっていくうちに同人誌のデザインが楽しくなってきて、もっと沢山、もっといろんなジャンルのデザインをしてみたいと思い、受注する流れになりました。


4.デザインをする際、同人作家さんとのやりとりの流れを教えてください

基本的にメールやTwitterのDMで、作家さまとのやり取りを行なっています。HPやTwitterで同人作家さまからご相談いただき、表紙に使用するイラストや掲載情報などを頂いてデザインをしています。表紙絵のないデザイン表紙や、題字のみのデザイン、サークルロゴやノベルティのデザインもご依頼も可能です。横展開もあわせて、だいたい5~8パターンくらいデザイン案を出させて頂いて、それをもとに、作家様と修正のやりとりをして、完成まで持っていきます!
同人作家さまには、デザインを依頼するということで、下記のようなメリットを感じて頂けると嬉しいです♪
1.中身を創作する時間が増える
2.普段とは異なるテイストの表紙が生まれるかも
3.複数の案からデザインを選ぶという楽しみ


5.同人誌のデザインで楽しかったこと、得たものなど

自分が触れてこなかったジャンルに出会えること。同人誌のデザインを通して、見始めた作品もあります!


6.印象に残っている特殊装丁を教えてください

画像4

画像5

「恋水空(ナミダカラ) / サークル:SPCO(@xxxspcoxxx)」のデザインを担当した際に、作家さまから、涙に見せかけた雨滴などをエナメル加工で立体的に表現したいというご依頼を頂きました。エナメル加工の処理は、直線的な雨のラインや、洋服や植物などに溜まった水滴など、細部にこだわってデザインしてみました。出来上がりは、想像以上に綺麗に水っぽさが表現できており、作家さまにも満足していただけました。


7.同人誌と商業誌のデザインの違いはなんでしょうか

編集の方が間に入るかどうかで、実際、そこまで大きな違いはないと思ってます。


8.デザインに悩む同人作家さんへのアドバイス、おすすめのテクニックなど

同人誌の表紙に題字を載せるときに、いろいろとイメージしてデザインしますが、どのようにレイアウトすればよいのか悩む時があります。その際、とあるデザイナーさんがインタビューで題字のデザインを音楽に例えた表現が、個人的にすごいしっくりきました。

字体:声色
文字サイズ:声量
文字の余白:ピッチ

簡単にいえば、綺麗めな声なら明朝体、小さな声で表現したければ小さい文字、ゆったりとしたピッチなら余白多めという感じです。ただ、そのままやってしまうと、すごい型にはまったデザインになってしまうので、それをどう解釈して表現するかが、デザインの面白みだと思います。

他に具体的なテクニックの部分でいうと、余白感はとっても大切だと思っています。デザインのレイアウトを考える時、B5サイズの表紙ですと、外側10mmくらいは余白をあけてデザインをスタートします。もちろん、そのスペースにデザイン要素を入れないというわけではなく、引きで見た時に、なんとなくスペースが空いてるなーって思う感じです。そこを意識するだけで、なんとなく表紙がプロっぽく見えますw
あと、文字要素には、少しでもいいので、黒を使いたいです!黒を使うと自然とデザインが締まって見えて安定感を産まれると考えています。プロの装丁デザイナーがどういう所を意識してデザインしているんだろうという頭で作品を見ると、色々と見えてくるものがあって楽しいですよ♪


デザインの参考になりそうなものをインプットする際は、他の装丁デザイナー様の作品を見ることも、もちろん大切ですが、そこに重点を置きすぎると、真似っぽくなってしまうので、美術館や映画、音楽、パッケージなどなど、装丁以外の作品からデザインをインプットすることが多いです。このパッケージの雰囲気をどうやったら同人デザインに活かせるか、この写真の世界観をどう解釈すれば、紙の上で表現できるか、っていうのを考えたりしてます!

あとデザイン本でいうと、アジアのタイポグラフィーがとっても面白くて見ています。日本とは異なる文字の使い方やセンスを体験できて勉強になります!こんな本とか↓



同人誌はあくまで同人作家様の出したいもの、表現したいものを解放する場所なので、もっと自由にもっと楽しくデザインするのが理想です!同人デザイナーとしては、その同人作家さまの表現したい部分をお手伝いする存在なので、気楽に相談できる環境を作っていきたいですね。



04.HNyu design

画像14

1.基本情報

名前:HNyu design(エイチニューデザイン)
Twitter:@HNyu_ss(同人)@hnyu_ss_2nd(商業)
サイト:https://www.hnyudesign.com/

2.普段の職業、仕事内容

フリーランスのグラフィックデザイナーです
最近、商業漫画のデザインが主な仕事といえるようになってきて嬉しいです


3.同人誌のデザインを受注しようと思ったきっかけなどを教えてください

元々書籍デザイナーになりたくて進学して、友人と同人活動もしていました。自由に本をデザインできて、印刷費や加工の知識を得るのも本当に楽しかったです。アンソロや友人など依頼でデザインをする面白さにも気づきました。
その後、仕事をしている頃にコミックデザインすごいぞ、という時流がきて、これがしたい!と思いましたし、NC帝國さん、有馬トモユキさんなど「同人誌のデザイン」というジャンルが認知され確立していってる感がありました。後先考える余裕なく仕事を辞めてしまったタイミングで、笑、同人誌デザインを「活動」としてやることを思い立ちました。友人のデザインをしているときに感じた「印刷詳しい友達に聞けたらな」「自分でやるよりちょっとデザインわかる友達に頼みたいな」という、身近な感覚の延長線にあるポジションがいいなと思って。それで「作家さんのやりたいをかたちにするお手伝い」というコピーをつけてはじめました。


4.デザインをする際、同人作家さんとのやりとりの流れを教えてください

作品のプロットや原稿は出来るだけ拝読し、依頼シートをお送りして事前にかなり情報を頂くようにしています。2~3案、70~80%完成したデザインラフを提出します。全くハマるものがない場合をのぞいて、いずれかの案をベースに修正、だいたい3回程度、の後に納品します。

私は作品の中からデザインの心臓部になるもの、コンセプト・テーマと呼ばれるもの、を掴んで「ここめっちゃ良いです」と伝えるような感覚で組み立てます。なので事前のやりとりに一番時間をかけて、イラストの構図案、装丁案、デザインをしていきます。迷った時の戻れる起点であり「なんかええやん」という感覚を裏付ける根拠にもなります。イメージを言語化するのはとても難しい作業です。やりとりを通して、作家さん自身にデザインを選ぶ基準や、思いを整理してもらっている感じもあります。

依頼シートには、「入れて欲しいモチーフ・色」など具体的な質問もあれば、「表紙で与えたい印象」など抽象的な質問もあるし、「これは嫌」も伺います。デザインと直接関係ないようなことも伺うこともあります。過去「作品に全て詰めたので言語化しにくい」という回答を頂いたことがあって、なるほど!と。これも十分な情報で、二次創作というか、解釈プレゼンとしてデザインを作るようなこともあります。


5.同人誌のデザインで楽しかったこと、得たものなど

得た最大のものは、仕事…です!笑
同人誌のデザインをしていなかったら今みたいなデザインになっていなかったし、商業漫画のお仕事も夢のままでした。
個々のご依頼に関して楽しかったことはキリがないので、共通して嬉しいと感じていることを。デザインがあるので創作のテンションが上がった、と言ってもらえること、良い本が出来たと作者自身が手放しで喜んでくれることです。私も同人活動をしていたので「これ面白いんか…?」の孤独と自問自答は身にしみます。そんな時に「こんな素敵な作品です」とかたちにして見せることで、背中を押せるんだなと。そして自分事は謙遜しがちでも、他人が関わっていると「みて!良いでしょ!」って言いやすい。ビジュアルを褒めて頂くのと同じくらい、創作活動がより充実したという言葉には役割を果たせた達成感を頂いています。

あと、個人的にハマっているジャンルやキャラ属性の依頼はやっぱり密かに楽しいです。依頼を躊躇されてしまうと申し訳ないのであんまり言わないんですが、言わないと来ないっていう、槍弓(広義)…


6.印象に残っている特殊装丁を教えてください。

当て書きというか、こういうデザインならHNyuに、と依頼を下さることも多く、特殊装丁ではいつも作家さんのアイデア力、プロデュース力、決断力に引っ張って頂いています。

画像13

OFF DAYS
https://www.hnyudesign.com/190303-1
サークル:MFH様
漫画/変型/メタルペーパー・変形断裁・ニス盛り加工
特殊装丁の組み合わせは作家さん提案です。
小説7本×イラストレーター7人×7冊セット、企画時点ですごいものになるのが分かったので意見を聞かれた時に、デザインでより驚きやかわいさを加えたいと思って。真四角の分厚い本に見える、トリックアート的な断裁加工を追加して頂きました。素材のイメージを覆すような使い方が上手な作家さんで、今回もかわいい系なら画用紙の風合いも必ず合うところにメタル紙+マットPP、イラストはニスでツルッとさせる質感のバランスが絶妙。


画像14

画像15

END OF THE EDUCATION
https://www.hnyudesign.com/201011
サークル:Calciumer様
漫画/A5/マットPP・真空パック
再録なので、既刊のデザインコンセプトをふまえて提案しました。
元々好きな作家さんで既刊デザインも抜群なので、名作映画をリブートする監督の心境でした。監禁状態を物理的に再現、読者の手で開封=解放する。ストーリーを追体験するような仕掛けです。本の装丁は突き放すクリーンさでネタ感を抑え、仕掛けのエッジさで一点突破したいので装飾も不要と判断しました。納期的に諦めかけたのですが、まさかの作者本人によるパック作業決行で実現しました。本当にお疲れ様でした! 本の外側にある出来事まで設計できたこと、一緒に面白がってくれた作家さん、読者さんの反応、全て通して感動体験でした。



7.同人誌と商業誌のデザインの違いはなんでしょうか

デザインを考える時の真剣さやビジュアルへのこだわり具合に差はないですが、みているゴールが違います。

商業誌は「商品」なので「売る」ためにまとめていく必要があります。
売る = 頒布数だとしたら、同人誌はそこ以外の、多種多様な目標設定が可能です。結果として同人と商業のデザインが同じような見た目に着地することはあっても、究極、作家本人しかわからないようなこだわりでも実現できたらOK!最高!なのが同人の好きなところですし、マニアックな目的を目指して走るものの方がユニークなデザインになる傾向はあります。



8.デザインに悩む同人作家さんへのアドバイス、おすすめのテクニックなど

・よく使うテクニック

簡単でいいからスケッチをする
脳内にイメージを置いたままだと、作ってみてわかる→脳内妄想がかわる、の無限ループにハマるので考えていることを一旦吐き出します。私はイラストがヘロヘロなので文字でもすごく書きます。デザイン・表紙イラストを依頼するときも、脳内イメージを伝えるスケッチを描けると意思疎通がスムーズになります。

最初はモノクロ+1書体(ゴシックor明朝)で作る
デザインを構成する要素(色・かたち・文字・レイアウト)をいきなり組み合わせていくと細部が気になって全体の完成度を70%ぐらいに持っていくのにすごく時間がかかることがあります。なので、最低限の材料でざっと作っちゃって、そこから整えて、時間があれば作り込んでいく方法です。


デザイン・メイキング167 デザイナーのラフスケッチ実例集 Vol.2 MdN書籍編集部


デザイン・メイキング152 デザイナーのラフスケッチ実例集 MdN書籍編集部


・フォントの選び方

フォント2種類だけで作る
日本語(和文)フォント1種類、英語(欧文)フォント1種類。いろんな種類を使うより、太さ(ウェイト)とサイズで強弱をつけたほうがまとまりのある表紙が作りやすいと思います。好きなフォントがあれば、それを使い続けてみると使い心地も良くなりますし理解も深まります。私はここ数年、秀英体が好きです。漫画のセリフのように文字から受ける感覚的な印象があると思うので、カバーとフォントの印象を合わせるのが定番な感じはします。

タイポグラフィ13 タイポグラフィ事典 タイポグラフィ編集部


・同人誌が作りたくなる雑誌

デザインのひきだし

皆様ご存知の。実践的な技術の解説とサンプル帳としてだけでなく、
「いつかやりたい」のストックをためるだけでもワクワク楽しいです。



05.chipco design

画像15

(自己紹介も兼ねて自分で答えました)

1.基本情報
名前:齋藤 / chipco design
Twitter:@chipcodesign
サイト:https://chipco.jp/

2.普段の職業、仕事内容

グラフィックデザイナー。漫画のデザインが多いです。


3.同人誌のデザインを受注しようと思ったきっかけなどを教えてください

友人が身内のみ公開のSNSでデザインしてもらった経緯を書いていて、こんな楽しいことしている人がいるんだ、自分もやってみたい! と思ったのがきっかけ。


4.デザインをする際、同人作家さんとのやりとりの流れを教えてください

メールでご要望など伝えてもらい、ネームやプロットなどがある場合は提出してもらっています。それらを参考にして初稿を仕上げ、修正をして、データを納品します。


5.同人誌のデザインで楽しかったこと、得たものなど

同人誌の書き手だとひとつのジャンルを長い時間かけて書くけど、デザインの場合はいろんなジャンルを次から次に渡り歩いていく感じが楽しかったです。常にランナーズハイみたいな状態でした。それからフォントなど、デザインに必要なことを得たり学んだりしました。
得たものはお仕事で、現在は漫画(商業)のデザインがメインになり趣味が完全に仕事になりました。よく趣味は仕事にしないほうがいいといいますがそんなことはなく毎日たのしいです。


6.印象に残っている特殊装丁を教えてください

自分でも同人誌を出しているのですが蛍光の特色を使うのが好きでした。

画像16


7.同人誌と商業誌のデザインの違いはなんでしょうか

同人誌にはほぼ帯がないので帯部分のスペースを考えなくていいところ。あと同人誌は基本B5サイズなので大きい。それと同人誌は自由。嫌ならデザインに時間を割かなくてもいいし、誰かに頼んでもいいし、売上を気にしなくてもいい。


8.デザインに悩む同人作家さんへのアドバイス、おすすめのテクニックなど

宣伝になってしまいますが「魅せる! 同人誌のデザイン講座――Before-Afterでわかる試したくなるアイデア&テクニック」を見てください!


おわりに

とても長いブログになりましたが、ふだんあまり言葉にしないデザイナーさんの考え方などが知られて楽しかったです。また、今回は職業デザイナーの方ばかりとなりましたが同人誌をデザインする方には様々な方がいます。今回のご意見、方法が必ずしも一般的ではないのでご注意ください。
プロの方に外注するやり方もあれば、自分でやったり友達に頼んだり印刷所のサービスを利用したり、同人誌の作りかたはどれを選んでも自由です。その中の楽しみ方のひとつが少しでも伝われば嬉しく思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?