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デザインの本を出版するまでの話

こんにちは。chipco designの齋藤です。普段は漫画関係のデザインをメインに活動しているグラフィックデザイナーです。そんな私が4月15日発売の「魅せる! 同人誌のデザイン講座――Before-Afterでわかる試したくなるアイデア&テクニック」という本を技術評論社から商業出版することになったので、出版までのメイキングなどを書いてみることにしました。この本は同人誌のデザインに的を絞って、同人誌の表紙、お品書き、ロゴなど同人関係のデザインを解説している本です。本を出版するってこんな感じというのが伝わればと思います。


1.依頼が来る

まずは依頼のメールが来るところから。
忘れもしない「アイカツフレンズ」75話を見ながら夕飯の支度をしていたとき、スマホからメールの通知が届きました。そこには技術評論社の編集さんからこういう本を出したいと構成案が細かく書かれていて、部数などもしっかりと明記されていました。あまりにも具体的な話をいきなり送られてきてにわかに信じられず、テレビを消してしまうことに。テレビを消す、ということはアイカツを見るのをやめた、ということ。それくらい信じられない出来事だったのです。
出版に関しては自分から何かをしたということはなかったため、全く想像していませんでした。過去の同人誌やnoteが決め手になったようなので何がきっかけになるかわからないものです。


2.一応悩む

よく技術書典(技術書の同人イベント)界隈では技術書を商業出版するか否かという話が出てきて、他人事のように見ていたのですが、いざ依頼が来ると確かに悩みました。
悩む理由としては

A.同人誌で自費出版したほうが割がいい
B.執筆に時間がかかる
C.内容に出版社が関わるため自由に書けない

あたりでしょうか。
まずAですが、確かにお金だけで考えると同人誌の方が遥かに割がいいのは事実。お金というより同人誌はページが少なめでも問題なく、修正もなく、妥協もできるので時間がかからないというのが大きいです。次にBですが、時間を確保するため仕事を断ることもありその分の収入を失ってしまうことになります。

とはいえ、依頼が来た時点でほぼ気持ちは決まっていました。
A、Bの様な経済的な問題もあれどマイナスだと思ったら次の同人誌を出せばいいし仕事をすればいい。またCにこだわる人も多いみたいですが、デザインの技術書をひとりで自由に書く理由はあまりないのでこれに関してはむしろ手を入れてほしいくらいでした。

そして、決定的なのは本を出すという経験ができること。いままでデザイナーとして本に関わってきましたが、著者の立場にもなればより深く関われるのではないか。今後も本のデザインをしていくのならそれは知っておくべきなのではないかと。新たな世界を見られるという部分にとても惹かれるところがあったのです。

結果的にはあまり悩んでないというか、同人誌の延長上みたいに考えていました。というわけで数日で返事をして話を進めることになりました。


3.構成案を決める

本というのはいきなり1ページめから書き始めるわけではなく、まずは構成案を決めなくてはいけません。構成案というのは目次や台割のようなもので、この内容をこの順番で何ページ書くというもの。同人誌ではかなりアバウトにやっていたため、この時点でかなり新鮮でした。

ある程度の構成案は先に作ってもらっていたとはいえ、200ページ分しっかりとネタ出しをするというのは思いのほか大変で、かなり時間がかかってしまいました。しかし編集さんからの修正などでブラッシュアップされていくのがわかり、これが完成したら立派な本になるのでは!? という気持ちにもなりました。

ありがたかったのが編集さんの「デザインをわからない人の視点」。わからない人の視点に立つのは得意だと思っていたのですがどうしてもわかった上で書いてしまうため、どんなに配慮しても一方的な目線になってしまう。そこに「ここはわかりずらいです」と言ってくれるだけで本を出す価値はあったと思います。もちろんわからない視点だけでなく「何を書くべき、伝えるべきか」という主軸になる部分を考えさせてくれて、導いてくれたのも大きかったです。この導くというのはかなり重要で、あくまでも方向性を指し示すくらいで具体的に道を作るわけではない。この塩梅が絶妙で、プロの編集さんって偉大だ…と思わせてくれたのでした。


4.執筆開始

構成案がしっかり決まってから数項目お試しで制作し、そして執筆開始に。
……が、思ったより大変でした。
スラスラ書けるもんだと思っていたのですが、とにかく書けない!!!

まずは言葉が出てこない。
専門分野だし構成案も決めたのに、びっくりするくらい言葉が出てこなくて焦りました。すべて事実を書かなくてはいけない、すべてのデザインを言葉にしなくてはいけない、というのが思ったより難しく、しかも文章を仕事にしたことない人間が一冊分書き下ろすというのは骨の折れる作業でした。

例えばなぜこのフォントを選ぶのか、このレイアウトにするのか、ということにはちゃんと理由がありますが、いままではそれを誰かに伝えるということはほとんどありませんでした。むしろ語らずにデザインのみで説得力を持たせるのが仕事なわけです。それをゼロから人にわかるように文字にしていくというのはあまりにも大変で呆然としました。

昔の漫画で作家が真っ白な原稿用紙の前で苦悩する…というのがありますが絵にするとまさにあのような感じです。SNSでたくさん文章を書いているから自分でも執筆できそう、と思う方もいるかもしれませんが、まったく別物ということがわかりました。

次に大変なのが執筆に専念すること。
かなり長い時間がかかってしまったため、もの凄い量の仕事を断ってしまいました。また、感染症の件もあり仕事は減るのかなあと思いきやレギュラー以外の仕事もどんどん入ってきてそちらに時間をかなりとられてしまい、専念というのは実質的に不可能でした。

最後に、本を書くということに関してはやっぱり初心者なのだということ。
本文中のデザイン作例はサクサク進んだのですが、もう少し経験値があれば……ということが多かったです。とにかく何もかもレベル1からのスタートという感じでした。

執筆に関しては簡単なレイアウトを自分で作ってInDesignに直接文字を打ち込んでいました。本文の組版は後ほどお願いしてもらったのですが、デザインの作例は自分で作ったためInDesignだととてもやりやすかったです。

こんな感じでInDesignで作っていたのが…

名称未設定 1


本文ページをデザインしてもらいこのようになりました。
いままで人にデザインしてもらう経験がなかったため、とても不思議な感じで別の人の本のような気になりました。

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5.イラストレーターさんに依頼をする

ある程度執筆が進んでからイラストレーターさんを決めることになります。てっきり出版社の方で決めると思っていたのですが自由に決めることができました。12人選ぶのは楽しい作業でしたが内容にあった方をひとりひとり選ぶのは思ったより時間のかかる作業でした。さらに全員分のイラスト指定のラフを考えて書いたりしたため執筆が止まってしまう時期もありました。

イラストの依頼ラフ

たいやき様02

できるだけ友人やTwitterの相互さんやお世話になった方に声をかけたのですが描いてもらえることになったのはとても嬉しかったです。そして出来上がったイラストが送られてくるたびに感動して、本に強い説得力が生まれてくるのを感じました。ここらへんでようやく本になる実感が湧いてきました。

今回は合計12人の方にお願いしたのですが、12回「うぉぉ~最高!!!!!!!!!!!!!!」と感動して贅沢な時間でした。本はひとりで作るものではないし、人の力を借りたほうがずっといいものになることも理解できました。


6.修正をする

全ページの初稿ができたら修正に。いつもは修正が入った人の文章を打ち直すだけなので、自分の文章を修正してもらうというのは初めての体験でした。言い回しが変なところはかなり直してもらったため文章の何がおかしいか、ということを学ぶことができました。

また、単なる修正ではなく書いたことに対しての深堀りをすることも多かったです。ということは文章が浅いということでもあり、自分が心の中では理解しているけど全然人に伝えられてないということに気付きました。

これってきっと多くの人に当てはまるので、自分は伝えるのが上手いとか文章が書けるとか自負のある人ほど経験してほしい作業かもしれません。商業誌と同人誌の違いはここら辺がいちばん違うかなと思いました。


7.カバーデザインをする

カバーデザインをする著者というのは珍しいかもしれませんが、デザイナーによるデザインの本のため、そこらへんは当たり前というか最初から決まっている作業のひとつでした。

流れとしては
1.編集さんに向けて、こんな感じのカバーにしたいというイラストの構図、レイアウト、装丁(特殊加工)を数パターン提案する

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(実際のラフの一部分です。他の画像も同様)


2.その中から選んでもらい、さらにラフをブラッシュアップして特殊加工も決定する。

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3.決定したラフをイラストレーターさんに渡してイラストを描いてもらう

カバー依頼

4.編集さんにキャッチなどの文言を決めてもらう

5.すべての素材が揃ったらデザイン開始。また数パターン提案する

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ふたつめの案が採用になりました。個人的には白が多いひとつめかなと思っていましたが、3つめも好評だったようです。

6.デザインやキャッチの修正をして、完成

7.完成データを入稿して色校チェック

8.再度入稿する

という感じで意外に長い工程となります。とはいえここら辺は本業であるためとてもやりやすく、自分の中ではスムーズに進めることができました。

それにしても特殊加工は厚盛ニスを使うことになって個人的にはとても嬉しかったです。同人誌(個人)で厚盛ニスって値段的にも敷居が高いし、出版社の予算でやってもらえるなんて贅沢だなあと。本屋で見かけたときはぜひ確かめてみてほしいです。

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あとやっぱり本の表紙を作るのが好きだなあと改めて思いました。本書には表紙の作例がたくさんあってすべてひとりでデザインしたのですが思い返すと作例を作るのもとても楽しかったです。


8.宣伝をする

発売日が近くなってきたあたりで宣伝の準備を始めました。
宣伝に関しては著者がやる分には許可もなく自由にしていいとのことなので
できる範囲でいろいろやってみました。

具体的には
・このブログ
・同人誌のデザイナーさんにインタビュー

・過去の同人誌の無料公開

などです。
また、編集さんによるインタビューも多くの人に見てもらえました。

あとは何故か普通のツイートがバズってしまったため、恥をしのんで「バズったので宣伝します」というやつ(バズったツイートにツリー状にして宣伝ツイート)もやってみたり、Amazon用の画像をデザインしたりしました。

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宣伝も楽しんでもらいたい! という気持ちがあったので、もし楽しんでもらえたらうれしいです。あと発売後にも何かやる予定なのでそちらも見てもらえればと思います。


9.増刷が決まる

発売日の2日前、増刷の連絡がありいわゆる「発売前増刷」ということになりました。何度も宣伝し続けて予約数が増えたせいかもしれません。入稿後もずっと宣伝活動をしていてなかなか終わった気にならなかったのですが、この時にようやく一区切りついた気持ちになりました。


10.最後に

大体これで本の作業は終わりとなります。約200ページの書き下ろしは長い道のりでした。スケジュール的には切羽詰まることはなかったものの、ゴールの見えないマラソンのようでもありました。とても長かったので、その長さを理解してもらいたくて長々ブログを書いたのかもしれません。

いままでデザインした中で学んだことをこれでもかと掘り起こして詰め込んだので、見てもらえたら嬉しいな~と思います。

というわけで、
魅せる! 同人誌のデザイン講座――Before-Afterでわかる試したくなるアイデア&テクニック」は本日発売です! よろしくお願いします!!

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