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慎重に身長を測った話

 大学生5回目の健康診断に行った。

5回目ともなると慣れたもので、空いている時間を見計らい受付をし、空いているルートを歩むことができるようになる。

受付を済まし身長体重を測りに行く。

空いているタイミングで行ったため、部屋に入ると測定士3人に僕一人というドラクエ序盤のスライム状態となった。

スライムが青い理由なんて考えたこともなかったが、あれはきっと1人の心細さから青ざめているのだと思う。

かわいそうに。

優しそうな女性の測定士のところへと誘われ、3対1からタイマンへと場面は移り変わる。

これならスライムでもワンチャンあるのではないかと錯覚する。

ドラクエは未履修のため詳しくないのだが、あいつらは戦うとき何ができるのだろう。

スライムでできた手足が生えてきて、相手を包みこみ窒息死でもさせるのだろうか。

可愛い見た目に反しなんとも恐ろしい。

 これまでの人生で幾度となく乗ったことのある台に乗り、背筋を伸ばし、上から抑えられる。

こんなに幾度となく身長を測ってきたのに、抑えてくるかまぼこの板みたいなヤツの名前は知らない。

なんだあれ。

そもそも日本は平和だからこんなことを見知らぬ人にやられても受け入れられるが、あまりにこの瞬間は無防備すぎると思う。

相手に背を向け、背筋を伸ばすことだけに集中する時間。

頭上に付いているものが仮に刃物だとしてもきっと気づかないし、気付いたころには桃太郎よろしくすでに真っ二つだろう。

身長と体重を測り終え、記入された紙が渡される。

169.1cm
昨年と変わらない。

「本当にこれでいい?」

測定士が言う。

「本当にこれでいい…?」

意味がわからず聞き返す。

次の瞬間、時間を持て余した測定士が親指で測定器を2回指さした。

スーパーカーを自慢する時と激痛大学生がタバコを吸いに行くのに友人を誘うときにしかしない動作だ。

指されたからには乗らざるを得ず、本日2度目の身長測定。

先程に比べてゆっくりと降りてくる板。

頭上で止まったと同時に測定士が呟く。

「あーダメだ、もう一回」

すぐに戻される板。

「はい、背筋伸ばして!」

言われるがままにできる限り伸びる。

先ほどよりも慎重に降りてくる板。

なんとなくふわっと止められ、一言。

「うーん、ダメだ」

瞬時に戻される天井。

「えー、伸びますかね…?」

情けないことにこちらはただ聞くことしかできない。

「大丈夫、まかせて」

めちゃくちゃ心強いが、ずっと身体測定で聞くことのない言葉が飛び交っている。

「よし、次でラストにしよう。はい、息吸って!」

本当にできる限り伸び待ち構えた。体感では198cmはあったと思う。

ゆっくりゆっくり降りてくる板。

ピタッと止まり、目盛りを読む測定士。

「よし、できたよ」

数値が書かれた紙を受け取る。

169.1cm

「いや、同じじゃねぇか!」

測定士と笑った。

気づけば後ろには行列ができていた。

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