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「いえーい!」なんて言えない

 皆さんは山手線ゲームというものをご存じだろうか?

よく移動中の暇な車内や大学生の飲み会で催されるこの遊び。

ルールはシンプルで、お題として定められた1つのテーマに該当する答えを、参加者が順番に1つずつ言っていき、詰まったり同じものを言ってしまった人が負けというゲームだ。

実際にやったことはなくともYouTubeやテレビなどで1度は目にしたことがあるだろう。

このゲームに対して長年疑問に思っていることがある。

とりあえず実際にゲームの流れを見て頂こう。

「山手線ゲーム!」
「いえーい!」
「お題は『都道府県』!」
〈まばらな手拍子〉
「茨城!」
〈まばらな手拍子〉
「佐賀!」
〈まばらな手拍子〉
「滋賀!」
〈まばらな手拍子〉
「えーあーあれ!」
「はい、アウトー!」
「うぇーいうぇーい」

だいたいこんな感じ。なんとも手軽な遊びだ。

暇を潰すためなら県名を次々言うことだっていとわない、人間とは強欲な生き物である。

 さて、本題に入ろう。私が疑問に思っているところというのは冒頭。

「山手線ゲーム!」
「いえーい!」

これの

「いえーい!」

ここである。

いや、「山手線」の「ゲーム」で「いえーい!」なわけあるかい!

この遊びに「いえーい!」とか言っている人間は朝のあの惨状を知らないのだろうか。

押し合いへし合いする電車内。

これから仕事へ向かう乗客の死んだ目。

人が密集しているため明らかに薄くなっている酸素。

春、新生活に心を躍らせていた人々の目から光が消える。

夏、他人の汗ばんだ肌が触れるこの上ない不快感と車内に漂う異臭。

秋、学生の夏休み期間が終わり再び人が溢れる車内に辟易とする社会人。

冬、寒さ故の厚着により普段以上に密度が上がる車内の気持ちの悪い生暖かさ。

列となって順番に乗車すればいいものを、どこからともなく現れて颯爽と抜かしていくバカ。

どう考えても降りてくる乗客を優先すべきなのに、空いた席しか見ておらず肩をぶつけながら押し入っていくバカ。

開くドアの目の前を陣取り、停車した際に1度降りるのではなく少し右にずれるだけという実に微妙な心遣いを見せてくるバカ。

挙げればきりがないが、朝の通勤ラッシュというのはこの世の地獄である。

さて、これを踏まえた上であのゲームの名を言ってみよう。

「山手線ゲーム」

口が裂けても「いえーい!」なんて言えないだろう。

きっとこれからはこうなるはずだ。

「山手線ゲーム!」
「きゃーーーーーーーー!!」
「お題は『都道ふ…』え、おい大丈夫か!」
〈倒れる参加者〉
「救急車!」
〈震え出す参加者〉
「水!水!」
〈逃げ出す参加者〉
「落ち着けって!」
〈全てを諦めた参加者〉
「あー、もうダメだーー!!」

なんと恐ろしい。一瞬でパニック映画の完成だ。

こうなりたくなければ今後は「古今東西ゲーム」で我慢してほしい。

それなら私も「いえい!」って言える気がする。

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