見出し画像

ピアノのおじさん

昔実家には母の古いピアノがあった。
母が独身時代に購入したもの。

長年実家で弾いていたが壊れる事無く、音は一音一音ずっと美しく、常に鍵盤も問題無く弾けていた。

その影には

(ピアノのおじさん)

とひそかに呼ぶ
数ヶ月毎に自宅にやって来る調律師の存在があった。


ピアノ調律師のおじさんは
幼少期から自宅に時々来る家族にとって長いお付き合い。
少し髭を生やし都会的で、いつも笑顔の穏やかな方。静かな感じでお話する方。
本当にピアノが大好きな様子だった。

ピアノの調律には数時間かかるのだが、じっとピアノと向き合っている姿。
ピアノの蓋を開け弦を見て、音を一音ずつ出しながら調整している。
一音ずつ何度も同じ音を弾き、確かめる。
時折少し長めの美しいメロディーを奏でたりもしている。

音が家中に響き、何とも神秘的な不思議な時間だった。

調律を終えるとお茶を飲みながら家族と雑談し帰って行く。
お出ししたお菓子は必ず奥様へのお土産にして持ってゆく優しい人。

調律したピアノはまるで生き返った様に澄んだ音がして、鍵盤も軽くなり、毎回弾くのが楽しみであった。

そんな優しいピアノおじさんはだいぶ前に、病に倒れ他界してしまった。

長年御世話になっていたので、家族全員がとてもショックを受けた。


いつも依頼していたピアノの持ち主の母はそれ以来、他の方に調律を依頼する事は無かった。

そのまま数年が経ち実家は移転する事になり、大切な古いピアノも処分する流れに。。

街では防音室が無ければどうしても近所迷惑になってしまう。


悲しいけれど、いつかは手放さなければならない。
ちょっと早かったかもしれないが。

ピアノ調律のおじさんは、天国でもピアノを弾いているだろうか。
音楽を楽しんでいて欲しい。

ありがとう。おじさん。
ありがとう。母のピアノ(⁠◍⁠•⁠ᴗ⁠•⁠◍⁠)

私もいつか自分のピアノが欲しい。
小さくて構わない。
私のピアノの周りで皆が歌ってくれたなら、それだけで幸せだ。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?