見出し画像

#カワイクイキタイ28「ずっと忘れませんように」

 あの最低のヒロインは、残される人のことなんて何も思いやらず、他人の人生を呪うだけ呪って、自分勝手にいなくなった。

 羨ましかった。

 あんな風に生きられたら。あんな風にいなくなれたら。最低だからなんだ。どうせあなたは、私を嫌いになれないでしょと。誰かを信じてみたい。それがどんなに、キレイな形じゃなくても。

 命は季節とおんなじで、ただ過ぎ去ってゆくもので、春は努力で冬にならないし、ずっと夏がよくてもいつか終わって秋になる。いつか必ず終わっていなくなる。あなたも私も。

 いつか私がいなくなったら。すぐに忘れてくれますように。ずっと忘れませんように。これはどっちも、ちがう言葉の同じ意味。

 この人生の終わりはどんなんで、誰と一緒にいるんだろう。

 最後に一緒にいる人は、たくさん写真を撮ってくれる人がいい。

 写真が欲しいわけじゃない。撮ろう、と思ってくれる人がいい。なかったことにしないと、あったことにしようと、残してくれる人がいい。覚えていられないくせに、覚えていようとしてくれる人がいい。

 なんでもないことを、なんでもない時間を、ずっと忘れないでいたい。爪を切っている姿、髪を乾かすところ。寝言。寝巻き姿で食べる朝ごはん。どこかに行ったことより、どこかに行った時の、私を撮るあなたを忘れたくない。一緒にいた時間を残そうとする、私を忘れないでほしい。

 そういう意味で。
 あなたが私を、ずっと忘れませんように。

 一緒にいた時間がどれだけどうしようもなくても。
 なかったことになりませんように。

 深夜2時を回った頃、昔の恋人から電話がかかってきた。深夜の街を、歩いて帰っていると言った。一緒にいたころの話になった。もちろん、知ってるよ。だって一緒にいたからね。

 しばらく話をした後で、彼が突然、知り合いの男の苗字で私を呼んだ。電話の向こうで、帰りが遅いことを心配する女性の声がした。「じゃ、またかけるわ」と言い切ろうとする彼に、私は男性のような声で「おう、二度とかけてくんな」と言った。

 さっきまでも静かだった部屋は、とても静かになった。さっきまでもひとりだった部屋で、本当にひとりになった。本当のひとりは、ふたりから生まれるって知ってるかい。

 なんて夜だ。散々だ。

 二度とかけてくんな。二度とかけてこないでいいから、勝手に、いっぱい笑って健康でいろ。そんくらい勝手にできるでしょ。こんなに自分勝手なんだから。

ひとくちメモ

浅野いにおという人が書いた『おやすみプンプン』という作品がありまして。タイトルはその中に出てくる言葉からお借りしました。

ヒロインの愛子ちゃんはそれはそれはどうしようもない女なのですが、私は彼女がだいすきで、最低で、ずっと憧れのヒロインなのです。浅野いにお作品はほとんど読んでて、昔は知る人ぞ知る作家さんだったのに、今やグラニフ(Tシャツ屋)とコラボするほど。嬉しくて色々買っちゃいました。

エッセイの後半部分は事実とは少し違う。
男と電話してることにしたかった元恋人の思惑を察した私は、仕方なくその場では合わせてやって(声漏れ気にして男声にしてあげたのは本当)、電話を切った後に「まじでごめんな!」みたいなLINEが来たので「二度と連絡してくんな!」と返したのでした。ね、途端にロマンが無い。

ずっと別れたころのことを謝りたかったそうですが、知らんがな!!!
その後むしゃくしゃしてお酒飲みました。

そばにいる人がいなくなることや、人生の最後について考えるけど、先のことなんて全然わかんないね。今と自分に正直に、自分勝手でよろしい。元恋人も、愛子ちゃんも、本当に自分勝手で人間らしくて、全然いやじゃないです。

自分のことを好きだと言われると、嬉しさももちろんありますが、当たり前だと思えず、戸惑いや恥ずかしさが勝ります。多い数ではないけどいらっしゃる、いつも応援してくださる方に会って話すと、その愛情に驚くとともに、がんばって生きようという気持ちになります。

「私より先に死なないでください」「先に楽しみを作ってくれるからそれまで頑張ろうと思える」「人生を彩ってくれる」って、いただいてしまっていいのだろうかと思う光栄な言葉をいただくことがあって、何を一番に思うかって、慣れたくないということです。

ずっと言葉に詰まるほど驚きたいし、涙が出るほど感動してたい。この先、もし人数が増えても、もし言われることが多くなっても、人に呆れられても、人間同士でいたいです。

ありがとう、がんばるね。
当たり前じゃないものとして受け取った愛は、ありったけで返してゆきたいです。一緒に楽しいことしましょう。長生きしましょう。そういう時間をたくさん作れるようにがんばりますね。

「#カワイクイキタイ」読んでます、ってのもいつも嬉しい。
自分自身より、自分が作ったものや自分がしたことを褒めていただく方が素直に喜べて困る。嬉しい気持ちには変わりないというのにまったく。

エッセイの前半部分はその通り。
ふとした瞬間を撮りたいと思ってくれるって、愛だよなと思います。

撮影日:2023年5月14日
撮影場所:木漏れ陽スタジオ(目黒区)

いつも読んでくださりありがとうございます。 サポートしていただけたらとってもとってもうれしいです。 個別でお礼のご連絡をさせていただきます。 このnoteは、覗いて見ていいスカートの中です。