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イギリスのパブで友人と過ごした時間:思い出の味ギネスビール

イギリスのカンタベリーに留学していた頃、友人とよく酒場に行っていた。そこでいつもオーダーしていたのは、ギネスビールだ。

一目みただけでわかる黒い色と濃い味のインパクト。苦味の中に感じる深い味わいと香ばしい香り。まるでイギリスでの体験を凝縮しているような、私にとっての思い出の味だ。

パブ行こうよ!

友人とよく酒場に行っていたといっても、私は最初から人付き合いが良かったわけではない。それこそ留学最初期は目の前の英語に必死になっていて、友人からのお酒の席の誘いも断っていた。

ならば「アジア出身の人達で遠足にいこうよ」ということで「まぁ皆が行くなら……」ってことで参加した。この時から少しずつ自分の中でも変化があったのだろう。

「とりあえず英語頑張る!」と目の前の事だけに必死になっていた私は、ほんの少しだけ顔をあげてみると、すぐ身近に自分が求めていたものがあったのだ。

今までの苦労はなんだったのかと、なんだか馬鹿みたいに思えた。この時にようやく私は、私自身が握りしめた拳のようガチガチにだったことに気付いたのかもしれない。

イングリッシュパブ

「飲みに行こう! イギリスのパブは一度いってみたほうがいいよ」と何度か友人から誘われていた。パブという響きにあまりよい印象を持っていなかった日本人の私は「まぁそのうちね」と曖昧な返事をしていた。

一緒に遠足に行ったこともあり、私には聞き返す余裕もできていた。

「パブ(PUB)ってどんなことろ?」

「お酒を飲むところだよ」

「そんなことは分かっている!」と内心叫びたい気持ちを抑える。

そうだ。こんな時は同じ日本人に聞けばいいのだ。

「少なくとも日本のようなパブの意味はないから大丈夫 ♪」

イギリスでパプというと、本当に「酒場」という意味しかない。台湾や韓国の友人達が言っていたことに間違いはなかったのだ。

イギリスの習慣や言語の違いもある程度は勉強してきたのだが、机の上の知識と自分丸ごとで感じる経験はまるで違う。

何はともあれ、友人とともにイングリッシュパブへ行った。

着いた場所は古民家のような場所だった。すごく落ち着いた雰囲気があった。お客でにぎわっているのだが、騒がしい雰囲気が全然ない。

庭にも座席が用意されていて開放感もある。曜日によっては生演奏もされる。音楽も古民家の雰囲気にあう音楽だった。

中世の落ち着いた雰囲気の大衆酒場といったらいいのだろうか。私はすっかりその雰囲気を気に入っていた。

イギリスで初めてのビール:ギネスビール

初めてのイギリスのパブ。どうすればいいのか、当然迷う。日本の居酒屋のように席には案内されないし、声をかけてくる店員さんもいない。

まずはカウンターに行き適当にビールを頼む。別に列になって並んでいるわけではないので、カウンターまでいって定員さんをつかまえて注文する。

「Excuse me!」とこっちから声をかけるだけで良いのだが、待ちに徹する日本人にとっては、最初戸惑う場面かもしれない。

仮に「忙しいからちょっと待ってね」と言われても、「満席だから入れないのか」と思ってはダメだ。言葉通りに、そこで素直に待っていればOKだ。

定員さんに注文すると、しばらくカウンターの前で待っているだけ。後は店員さんが順番に、カウンタ―に備えてあるサーバーからビールを入れてくれた。後はお金を支払うだけだ。

ビールを受け取って後は、適当に空いている席にいけばいい。別に席に着かなくても立ちながら飲んでいてもいい。要するにビールさえ注文すればいいのだ。

1パインド3~4ポンドほどだ。一パインドは568ml。日本の中瓶のビールが(500ml)だから、結構な量があった。

「あれ? 正直コーヒー一杯とそんな変わらない値段だな」というのが正直な感想だった。

当時私はビールがあまり好きではなかった。炭酸のシュワシュワが苦手なのだ。カウンターで友人に相談していると、あるお客さんがオーダーした「GUINNESS(ギネス)」が目に入った。

「ああ、ギネスはどう?」と勧められた。「ちょっと癖はあるとおもうけど……」でもシュワシュワはしないらしい。アイルランドの黒ビールだ。

他のビールと注ぎ方が明らかに違っていた。

グラスを傾けてゆっくりと注がれる真っ黒な液体。それも最初は半分までしか注がれない。泡がとてもきめ細かく多い。しばらく時間を置いて、泡が少なくなってきてから、またゆっくりと注いでいく。

「ギネスはあれが違うんだよ」と友人は言う。そんな特別感もあってか、私はギネスを注文した。

庭にある席について、私達は乾杯した。初めて口にするギネスビール。クリームのような泡を通り抜けて、口の中に入ってくる黒。苦いと思いきやそんなに苦くはなかった。

いや確かに苦いかもしれないが、それ以上においしいのだ。口の中に広がる深い味わいと香ばしい香り。その味はコーヒーとは全く別物だが、まるでコーヒーみたいだった。

そして不思議とお酒が入ると会話が弾む。もちろん会話は英語だ。一生懸命しゃべろうとするとしゃべれなくなるのに、適当に話せば、案外英語でも会話は弾むものだった。

正しい文法とか、正しい英語とか関係ない。話し相手は皆、英語が母国ではないから英語もきっと正しくはないのだろう。だけど皆と自然にコミュケーションはとれる。そうやって会話できていることが自信になってくる。

ああ、こういう勉強の仕方もあるのか……。

何を話したのかは覚えていないが、この時の情景は今でも思い出として私の中に残っている。

苦々しい経験の中にも深い味わいがある、まるでイギリス留学を凝縮したようなコクのあるビールを飲みながら、楽しいおしゃべりの時間を友人と過ごしたあの時の情景は今も思い出に残っている。

通りに誰もいないのが珍しいので帰り道にとった写真

思い出には残っているのに、店の名前も場所も忘れてしまいました。写真を探しても、結構通っていたせいか、一枚も写真に残していませんでした。

私の中でその時の様子や情景は残っているのに、一切会話の内容や情報は残っていません。

人が思い出として大切にするものは、そういう所なのかもしれませんね。

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