見出し画像

違国日記(漫画感想:1)_個人の自由を大切にすること

「違国日記」は祥伝社から発売されている「FEEL YOUNG」にて、2017年7月号から2023年7月号まで連載されていた漫画で、作者はヤマシタトモコ。
キレイ過ぎる見た目の人間の絵がなんとなく苦手で敬遠してきたのだけど、読み始めたら止まらなかった。こだわりを感じる言葉遣いに心を揺さぶられる。
以下、ネタバレを含む感想などを。

こだわりを感じる言葉

物語は少女向け小説の作家、高代槇生(35歳)が交通事故によって両親を亡くした姪の田汲朝(15歳)を引き取ってからの同居生活がメインで、時間軸は朝の中学卒業間近から高校に入学、そして卒業するまでのおよそ3年間となる。

漫画にしてはというと語弊があるかもしれないけど、世間的に当たり前のように流されている差別や違和感を拾い上げ、扱われている言葉に主張やこだわりを感じられるのが特徴的。
親を亡くした中学生が親戚にたらい回しにされかけたのを引き取るのに「天涯孤独の運命を退けた」と言い換えていたりと、言い回しが難解だったりするため、言葉の意味を咀嚼するのに少し時間がかかったりもする。
そのため未だに意味が分からないセリフもあったりして、何度か読み返してやっと言葉の意味に気付くことも。
「ジェンダーギャップ」や「トクシック・マスキュリニティ」など個人の権利についても問題提起されているけど、内容が重くなり過ぎないのと、問題点を把握しやすいのは、視覚的な情報の多い漫画ならでは。

形容しづらい槙生と朝、2人の関係性

槙生は自分で購入したマンションに一人暮らしをしており、性格は人見知りで協調性に欠け、孤独に慣れている。(孤独を好む割には幾人もの友人に恵まれているから本当の意味での孤独ではないけど)

職業が作家だけあって自分の感情や行動の意味を言語化するのが巧く、コミュ障ではあるものの、強気な性格も相まって言いづらいことを面と向かって言える芯の強さがある。
憶測で物事を判断せずに、客観的な事実と主観的な意見の切り分けをロジカルに判断するため頭の回転の速さもあるが、それが朝からは冷たく感じられることも。

『11巻:page.51』で恋愛感情は無いのにおれと寝る、と元カレの笠町から指摘されているため槙生はアロマンティックと思われる。他人からは共感されづらいことのため、孤独に慣れないとやっていけなかった原因のひとつと想像される。
そうしてこれ、話しが重たくならないように餃子を喰いながらという気軽な食事の状況を選んでサラッと言う笠町の心遣いがまたいい。
槙生は周囲の人間に恵まれている。

対して朝は社交性に長けて人見知りをしない。両親を亡くしたことによる混乱はあるものの、入学した高校では新しいクラスメイトたちともすんなり仲良くなっている。

他人との関わり方が異なる2人だから会話が噛み合わないことがしばしばあって、それは他人と感情を共感することに対する価値観の違いも大きい。
『5巻:page.25』で、朝は大事な人が死んだことを共有したいのに対して、槙生は「誰にも分かち合わない」とバッサリ。

槙生が他人と感情を共有しないのは勝手だが、朝からしたら誰かと共有することで悲しみが和らぐこともあるだろうし、他に頼れる人のいない朝に対しての対応としては冷たい印象を受ける。

槙生と朝は叔母と姪の関係にあたるため、当初は性格と年齢も異なる2人が同居することで疑似親子関係を築く展開を想像していた。
しかし最終的な2人の関係性はなんとも形容し難い。
互いの短所を補える関係は親しいパートナーのようであり、距離感が近過ぎるから家族のようでもある。でもどちらとも言い切れないにもみえるのは、槙生の朝への接し方が子どもに対するそれではなく、一人の人間として扱っていることが大きい。

人同士が理解し合えないこと

人との関わり方が正反対で、歳も20歳ほど離れた2人が単身向けと思われる広さのマンションで同居しながら互いの距離感を測っていくことになる。

この互いの距離感を測るというのが重要で、登場人物の誰もが安易に「相手を理解する」という言葉を使わないのがこの漫画の信頼できるところ。
そして理解し合えないことを悲観的にではなくポジティブにも捉えていることが作品に深みを増していると思う。
むしろ人同士は互いに全てを理解し合えることが無いからこそ、他者を尊重し、話し合いを重ねたり時間の経過などによって落とし所を探っているところに好感が持てる。

朝は姉の実里の子どもというだけあって、槙生が苦手としていた実里のような振る舞いをすることがある。
部屋を片せないことへの「そんなことも出来ないの?」などの言動が姉とイメージが重なるため、槙生は『2巻:page.10』では友人へ「この子はあの人の子なのかと思うと体がすくむ…」とも告白している。
一緒に暮らしていた母娘だから似ているのは自然なことで、槙生からすると朝が実里のように思えることもあるのだ。

だけれども同居生活を続けるうちに、やがて槙生は朝を愛おしく思うようになる。
朝が仮想の実里のような存在だったとすると、朝のことを知るうちに姉のことも知るようになる。現に「ふつう」を望んでいた実里は朝の父親とは内縁の関係だったりと、槙生の想像していた実里のイメージと異なることがいくつもあった。
槙生が朝を受け入れられたのは、苦手としていた実里について折り合いをつけられたということでもあって、実里をよく理解していなかったことや時間の経過がポジティブに働いていてからだといえる。

少し感想が長くなってきたので、感想の続きは次で。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?