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短期記憶の下支えになる長期記憶の高め方

保護者の悩みを解消し、子供の自己肯定感を高める

「うちの子、伝えたことをすぐ忘れるし、忘れ物も多いし、本当に記憶力がなくて…どうしたらいいですかね?」と保護者の方から「子供の記憶」に関しての悩み相談を受けることが少なくありません。そんな矢先、ちょうど「記憶」をテーマにした教員研修がありました。今回は、そこで学んだことを私なりに更に深堀りして「記憶」をテーマでお伝えさせていただきます。情報量が多くなり恐縮ですが、少しでも保護者の方々の悩みや不安の解消、子供たちの自己肯定感の高まりにつながる手掛かりになればと思います。どうぞお付き合い下さい。
 

記憶の種類「短期記憶」

「1年前に会った人の名前」は憶えているけれど、「1時間前に会った人の名前」は忘れていることってありませんか?このように、人間の記憶は記憶方法が異なり、その中に「短期記憶」と「長期記憶」があると言われています。
短期記憶は、ワーキングメモリとも呼ばれます。短期的に使うメモのようなもので、記憶し、かつそれを同時に使うときの能力のことを指します。この文章を読む際も、「前文を記憶しながら読む」という短期記憶の力を使っているからこそ理解できるわけです。他にも会話や暗算、同時通訳などでもこの「短期記憶」は活躍します。
短期記憶として記憶されたものは、すぐ使える情報として最高でも約7つ(±2)(※記憶力が成長段階にある子供は4個程度)ほどしか暗記できず、記憶できる時間は一般的に、10秒から15秒、長くても1分程度しかもたないと言われています。幼児期に子供が大泣きしていると思ったら急にケロッとしたり、原因を忘れて、感情だけが残ってただひたすら泣く姿を目の当たりにした経験があると思いますが、それはこの短期記憶の記憶時間の短さを物語っています。
この短期記憶は、メモやICTなどを用いて補うことができるのと同時に、イメージと関連付けで増やしたり、短記記憶を高めるようなトレーニングをすることで、高めたりすることは出来ますが、その子のもって生まれたものの割合が大きいので、得意不得意や成長段階の時期が大きく関係してきます。また、短期記憶の力を高めたとしても、教科の学習や日常生活の困り感の解消に直接的につながるわけではありません。例えば、将棋が強いからと言って、算数が必ずしもできるわけではないというように。では、子供のそのような困り感をどのように改善していけばいいしょうか?そこで活躍するのが「長期記憶」です。
 

短期記憶の下支えが長期記憶

どうしたら、短期記憶が弱い子を補えるか。そこで活躍するのが、「長期記憶」です。長期記憶はその名の通り長期間情報を保存するための能力です。小学校の時に先生が言っていたことや自宅の固定電話からよくかけていた友達の電話番号は未だに覚えていたりしませんか?それを実現させているのが、長期記憶です。長期記憶は短期記憶と比べ、「情報量に制限がない」と言われています。短期記憶が弱い子には、記憶の容量や時間に制限のある短期記憶よりも、容量や時間に制限のない長期記憶に頼り、短期記憶の下支えになるような、長期記憶を伸ばしてあげることが好ましいわけです。

短期記憶から長期記憶に移行する方法

では、どうしたら「短期記憶」から「長期記憶」へと移行することができるのか?ここでは、より実用的なものを3点紹介します。
①    何度も何度も繰り返すこと
下の図の「エビングハウスの忘却曲線」をご覧ください。新しく覚えたことは、

・20分後には、42パーセント
・1時間後には、56パーセント
・1日後には、74パーセント
・1週間後には、77パーセント
・1ヶ月後には、79パーセント
忘れていると言われています。しかし、適切なタイミングで「繰り返し学習」をすることで、忘却の曲線を緩やかにし、長期記憶へと移行することができます。「百人一首」や原子記号を覚えるときの「水兵リーベ僕の船…」なんてまさにこの「繰り返し学習」の成果で今でも覚えていませんか?
 
②    好きな学習をする
「これが好き」、「この作業は楽しい」とワクワクしたポジティブな感情を浴びると、記憶を司る海馬から「シータ波」と呼ばれる周波数を持つ脳波が出ると言われています。このシータ波が出ている時は、学習速度は2~4倍になるだけではなく、短期記憶を司る海馬が活発に働き、入ってきた情報を「これは重要だ」と判断し、長期記憶へとつながるルートを開放してくれるそうです。逆に、嫌々、勉強に取り組んでいるととストレスホルモンが分泌され、海馬が萎縮して記憶力の低下を招き、余計にやる気をなくします。
しかし、「好きな学習だけをすればいい」なんて世の中そんなに甘くはありません。そんなときは、「好きなものとセットで学習する」といいそうです。苦手なものに取り組む時ほど、「好き」を近くに置いてセット化することで、脳が働きやすい環境を作ってあげるのことができます。大好きなカフェラテを飲みながらハッピーな気分で勉強に取り組む。ご褒美を決めておき、思い出しながら勉強に取り組むなんていうのもシータ波を出すには最適です。長期記憶するためには、「勉強そのものを好きになる」よりも「ワクワクした前向きな感じで勉強に向かうこと」の方が重要だということです。
 
③    五感と関連させて記憶させる 
脳は記憶につながるいくつものルートをもっています。その時に、複数の脳の分野が動いているほうが記憶に残りやすく、長期記憶に残りやすいと言われています。例えば、漢字を覚えるとき、「漢字を書く」では、「触覚と視覚」が刺激されています。しかし更に、そこに「読みながら漢字を書く」を加えると、「触覚と視覚」に「聴覚」の刺激も加わり、より記憶されやすくなります。更に、聴覚は視覚よりも記憶に直結し、記憶の一時保管庫である海馬にアクセスしやすいという特性があります。(音楽で聴いた英語を覚えているとか。
ちなみに、人は記憶をするとき、視覚優位タイプと聴覚優位タイプに分かれています。書いて覚えることが苦手な子にためにも、音読の宿題で漢字のテストが出るのはそのためです。
 

長期記憶と言えるか分からないが、一番脳が働くのは?

ここまでは、「短期記憶を下支えにするために長期記憶をいかしていきましょう」というテーマでお伝えさせていただきました。良い機会ですので、ここでは、長期記憶と言えるかどうかは分かりませんが、「一番脳が働くときはどんなときか?」ということもお伝えさせてください。結論からいうと、それは「誰かにアウトプットありきのインプットをしているとき」です。
ワシントン大学での実験では、「後で別の人に教える」、「後でテストをする」、「特にも何も指示をしない」の三つのグループに分け、戦争映画に関する文書を読んでもらいました。その後、記憶のテストを実施したら、「後で別の人に教える」を前提としたグループの成績が最もよかったという結果が出ました。この結果から、「あとでアウトプットをしない」よりも「後でアウトプットをする」。そして、「後でアウトプットをする」よりも「後で『誰かに』アウトプットをする」方が、脳の働きが良くなることが分かります。それが分かると、「違った考えの人と考えを交流することができる」という学校のもつ特質がとても大事なことが見えてきますね。


記憶力が低下する3つの生活習慣は?

では、最後に、「こんな習慣は逆に記憶力の低下をまねいていますよ」という注意喚起をお伝えして閉めさせていただきます。あと少しですので、ご辛抱を。
①    睡眠不足
厚生労働省の調査によると、2歳児で22時以降に眠る子供の割合が増加しているそうです。脳は寝ている間に、その日にあったことや覚えたことを整理しているため、睡眠不足は記憶力に大きく影響します。以前、「外遊びの大切さ」でお伝えしたように、太陽の光を日中に浴びると、セロトニンという物質が体内に分泌されます。そのセロトニンが日中に分泌されると、感情を整え、心を安定にさせる働きがあること注目されていますが、夜自然と眠くなり、生活習慣が整う役割も担っています。
 
②    食事をよく噛まない
よく噛むことで、記憶に関係する脳の部分(前頭前野や海馬)が活性化することで知られています。幼児に知能テストと咀嚼テストを実施したところ、よく噛む子供は、記憶力も高いというデータを得られています。よく噛んで食べる習慣を身に付けさせたいものです(私もですが…)
 
③    スマフォやタブレットの使い過ぎ
 「スマフォ脳」という言葉をご存じでしょうか?スマフォやタブレットの使い過ぎで、脳が一種の依存状態になる状態になることです。記憶には、情報を整理する時間が必要ですが、画面越しに常に新しい情報が入ってくるため、記憶を整理する時間や脳を休める時間が足りず、記憶力などの認知機能が低下してしまいます。特に、子供は「タブレットを手に取りたい」という欲求を我慢する自制心が未発達のため、大人が使い方のコントロールをする必要があります。

さて、今回は「短期記憶の下支えになる長期記憶の存在」、そして「長期記憶への移行のさせ方」などを中心にお伝えさせていただきました。少しでも保護者の方々や子供たちの学習の一助となれば幸いです。長々とお付き合いありがとうございました。

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