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Sarcina―モノに宿る記憶―

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サルキナ、と読みます。旅先から持ち帰ったり見聞きした『モノ』から回想する旅物語。
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Sarcina §1 はじめに ー喫茶店のレモン水ー

 どこか遠いところに行きたい。  知り合いや親戚、そのまた知り合いすら居ないような場所で、暮らしてみたい。  見たことのない景色を、この目に焼き付けたい。  いつだって、そう思い続けてきた。  山がちでコンビニも無いような村落に育った僕にとって、"外の世界"は常に憧れだった。代わり映えのしない人間や出来事に擦り減らされる生活で、それは更に心の内へとどんどん染め込まれていった。  ここ以外に、もっと素晴らしい場所があるはずだ、と。 ― 数年後10:38  とんでもないこ

Sarcina コーラの空き缶とホットワインのカップ

『ねぇ、それ、ちょっとちょうだい?』  目の前にいる男の子が、僕の手元のコカ・コーラを指差してそう言った。 ・・・・・ 『まぁ、とにかくアイツらにだけは気をつけてください』 『アイツら、ホントにやばいよ!俺なんかリュック切られて...』 ・・・・・ 『もしもーし。コーラ、ちょっとちょうだい?』  まさしく彼こそが、"アイツら"の一人だった。 -/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- こちらの企画に参加しています。

Sarcina 3. "飲みニケーション"は万国共通

――まったく、世界中どこに行っても、ビールだけは絶対手に入るんだな...。  眼前で唸りを上げる、古びた冷蔵ケース。そこへ並べられた、目新しいラベルを纏うビール瓶たちを前に、そう心のなかで呟いた。  ここはアフリカ。黄昏時の空は鮮やかに染まり、行き交う車のヘッドライトがちらほらと灯りだしている。  到着した日の晩、長い夜の伴を探しに、小さな商店に足を運んでいた。 -/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- こちらの企画に参加しています。

Sarcina 2. ある男との数日間

『お前、ひょっとして日本人か?』と訊いてきた彼に、思わず『どうして解ったの?』と尋ね返した。 すると彼は、僕の手元を示しながらこう言った。 『馴染みの文字が見えたからね』 -/-/-/-/-/-/-/-/-/-/- こちらの企画に参加しています。