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読書メモ 「公益」資本主義(原 丈人さん)

原丈二さん著書の「公益」資本主義 (2017年)を読んだメモです。

原丈二さんのことは存じ上げていなかったので、手に取るまでは新しいカタチの資本主義を頭の固い経済学者が唱えているんだろうな、ぐらいに考えていました(本当にごめんなさい、すいません)。

私自身は単なる一般市民ですが、短期的な利益を追求する投資・投機には疑問を感じていて、長期投資(応援し続ける!)を長く実行している、という点からも原丈二さんがおっしゃる公益資本主義は受け入れやすく、新書本という程よいボリューム、そして読みやすい文章でしたのでおすすめです。

公益資本主義については後述しますが、近江商人の三方良し(売り手よし、買い手よし、世間よし)という言葉があるように、日本人は元来、自己だけではなく周りの人にとっても良いことをすべき、という考え方の素地がある気がします。

また近年、iDeCoつみたてNISAに代表されるように「投資信託は長期投資が大原則」という意見を目にすることが多くなってきたこと、また2020年度の与党税制改正大綱に「オープンイノベーション促進税制」の創設を盛り込む(端的に言えば大企業が設立10年未満の非上場企業に1億円以上を出資したら、出資額の25%相当を所得金額から差し引いて税負担を軽くする優遇措置を設ける)など、現代においてはこの公益資本主義という概念は受け入れられやすくなったのではないかと感じました。

そうそうエンジェル税制というのも出てきていましたね。

スタートアップってこれまでは無かった新しい価値を世の中に提供する、世の中をより豊かにするという側面を持っていると思っていて、公益と言う名のエコシステムになり得る気がするんですよね、スタートアップへの資金、人材の流入・支援がますます活発になってほしいなと思っています。

原 丈二 さん について

・考古学者をめざす
・考古学の資金稼ぎのためにアメリカへ(独 考古学者シュリーマンみたい)
・2000年にフォーティネット (Fortigateの会社)の創業期に出資し取締役に
・ベンチャーキャピタリスト

公益資本主義に賛同する企業たち

このPRESIDENT 2020年2月の記事によると、長期的な経営戦略で知られる東レの日覺昭廣社長は随所で公益資本主義の重要性に言及され、またトヨタ自動車の豊田章男社長も「トヨタ自動車は公益資本主義の会社だ」という発言をされているとのことでした。

またこちらは2015年6月に開催されたイベントを2回に分けて記事にされています。森川亮氏(LINE前社長 現在 C Channel 代表)、青野慶久氏(サイボウズ代表)、 佐野陽光氏(クックパッド創業者)、 柳澤大輔氏(カヤック代表)といった方々が登壇されています。

そういえばカヤックさんは鎌倉資本主義(別名:地域資本主義)の事業をなされていますよね。

「公益」資本主義 とは

本より一部抜粋(自分の理解のため、文章の順番はいじくっています)。

株主資本主義

今の資本主義は「株主資本主義」(会社は株主のみのもので従業員などを軽視)であり、「株主資本主義」と、「市場の自然な成り行きに任せておけばすべてうまく回る」と考える「市場万能主義」。この2つが一体となった「金融資本主義」が世界経済を支配しています。「金融資本主義」は、「株主資本主義」のなれの果てと言えます。

そしてこの株主資本主義の呪縛から企業を解放し、企業の本当の力を引き出すには、短期投資家や投機家向けに作られている現在の制度を、根本的に改革する必要があると説いています。

公益資本主義

公益資本主義とは「企業の事業を通じて、公益に貢献すること」です。より具体的に言えば、「企業の事業を通じて、その企業に関係する経営者、従業員、仕入れ先、顧客、株主、地域社会、環境、そして地球全体に貢献する」ような企業や資本主義のあり方です。

会社は株主だけのものではありません。従業員、顧客、取引先といった直接の関係者はもちろん、地域社会や国や地球全体までを「ステークホルダー(利害関係者)」と捉えるべきです。経営は、これらステークホルダーのすべてを幸せにする、という方針に基づくべきなのです。

「公益」と言うと、利益を追求するのが悪いことのように思われるかもしれませんが、そうではありません。その逆です。企業を支えるすべての関係者に貢献するため、大いに稼ぐ必要があるのです。

公益資本主義の三本の矢

①中長期投資
持続的成長を支えるために、中長期的な投資を行なう。経営陣は、短期の利益を求めつつも、中長期的な課題にバランスよく取り組む。  

②社中分配
会社があげた利益を、株主だけでなく、会社を支える社中各員に公平に分配する。こうすることで社会の格差を是正し、貧困層を減らし、層の厚い中間層をつくる。

③企業家精神による改良改善
リスクをとって果敢に新しい事業に挑戦し、常に改良改善に努める。今後はとくにテクノロジー・ベンチャーと新しい技術を活用したサービス・ベンチャーを興すエコシステムが必要になるので、本業で利益を上げながらも、リスクを取って新しい事業にチャレンジする。 

公益資本主義の12のポイント

①「会社の公器性」と「経営者の責任」の明確化
②中長期株主の優遇
③「にわか株主」の排除
④保有期間で税率を変える
⑤ストックオプションの廃止
⑥新技術・新産業への投資の税金控除
⑦株主優遇と同程度の従業員へのボーナス支給
⑧ROEに代わる新たな企業価値基準「ROC」
⑨四半期決算の廃止
⑩社外取締役制度の改善
⑪時価会計原則と減損会計の見直し
⑫日本発の新しい経済指標

ベンチャーキャピタルについて

リスクが高い事業にこそ関わり、そのリスクを下げる能力のある人を「ベンチャーキャピタリスト」と呼ぶのです。リスクの低さばかり求める人は、単なる「マネーゲーマー」です。

私の経験から言えば、新しい技術が事業化されるまでに背負うほかないリスクが2つ存在します。  ひとつは、その技術の実現可能性と有効性に関わる「テクノロジーリスク」です。もうひとつは、開発技術の市場での受容可能性に関わる「マーケットリスク」です。この2つのリスクをクリアする見込みがないと、金融機関から融資を受けるのは困難となります。  そんなときにリスクを共有し、資金を提供するのが、ベンチャーキャピタルです。

公益資本主義やベンチャーキャピタリズムの概念は、本来の資本主義や株式市場の考え方ですよね。そもそも株式というものは、アイディアはあるけどお金がなくて実現できない人にお金を集める仕組みとして発明されたと思うんです。「芽が出るには5年か 10 年、ひょっとしたら 20 年かかるかもしれない。でもみんなで、こいつのアイディアにお金を出してやろうやないか」と、マネーの再分配を人間の知性でもって行なおうとするのが、本来の株式資本主義の形だったはずです。


ではまた



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