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リストカットは痛そうだから、ピアスの穴をあけてみた。

現在ちょっと走ると、すぐに息が上がる私は
1年前まではサッカー選手をしていた。無名ながら、なでしこリーガーをさせてもらっていたし、いっちょ前に引退リリースをされて現役を退いている。
現役中もnoteを書いていて、最後1年まあまあ変わったことをしていた。お時間があったらぜひ。大量ですが。↓
https://note.com/chiume23/m/m40eef35661e7


ここでは際どいくらいの本音をサポーターの皆様に届けてきたと思うし、チームが負けていても、自分が試合に出ていなくても発信をしてきた私がどーーーーうしても書けなかったのが引退の時のお話。
1年経って、しっかりあの時から変化を遂げたからこそ、自責でかけるのではないかと思って重い腰を上げてみた。

なけなしのユーモアをかき集めて、できるだけ重苦しくならないように綴ってみるので、私の人生で3本指に入る痛くてイタい出来事、笑い飛ばしてもらえないだろうか。

これがかけたら、私はもう少しサッカーが好きになると思う。
それでは聞いてください。「リストカットは痛そうだから、ピアスの穴をあけてみた。」

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・・・

2020シーズンのリーグ戦が終了し、皇后杯真っ只中の12月1日。チーム状況はカオスだった。後にも先にも、あんなにバラバラなサッカーチームは見たことがない。そして見ることもないだろう。

理由は明確。来年からWEリーグが始まる関係で、自分らのチームは事実上消滅。オフの日にチームとの個人面談が行われ、新しく出来るチームには数人しか残れなかったから。20人近い選手たちは来年のチームがない状況。大量リストラみたいなものだ。

「練習どころじゃないよね」という声はどうしたって耳に入る。指導者陣も揃って先行き不安。皇后杯の2回戦前なのに、サッカーに関係のないミーティングで練習は短くなるし、クラブハウスの空気は不穏だった。

振り返ると、本当に仕方がないのだ。
経営側も、指導者側も、居残り側も、解散側も、みんながいっぱいいっぱい。言ってしまえば、女子サッカー界全体がいっぱいいっぱい。出来たてほやほやの未熟な組織なのだから、ピラミッドの底辺端っこに存在していた私たち選手に、しわ寄せが来るのは受け入れるしかない。

今でこそ。女子サッカー界の歴史が変わるど真ん中にいて、その歪みに立ち会えて幸せだなと思うけれど、当時は勘弁してくれと思っていた。

私は残れなかったら引退と決めていたから、皇后杯で負けた瞬間に引退が決まる。数少ない引退選手。目の前の試合が一番大切だった。

なのに、どこにいても愚痴ばかり聞こえる。でもどれだけ愚痴っていてもあんたら試合に出るんだろと、私はひがんだ。気持ちも投げやりになった。

そんな気持ちと裏腹に、今シーズン1番キレのある自分に、あきらめきれない想いが顔を覗かせる。やる気がないなら全員練習来るな。目の前の試合を見れないなら、私が試合に出るから引っ込んでろと、今度は苛立った。
周りの状況を変えられないことにも、それを言い訳にまた違った愚痴を吐く自分もうんざりだった。


それでも、いったん立ち止まった私は偉かったと思う。

私は、どうしたい?
「私は、試合に出たい」
「最後に真っ直ぐサッカーと向き合いたい」「楽しくサッカーがしたい」
「気持ちはレッズ戦に」「ちゃんと頑張る」

いまするべきことは?
「今の自分では、このチームの状況は変えられない。」
「この状況を直視して、胸に刻むこと」
「こんな状況をこれから先起こさないために、何をするか考えていく」

日記の中の私。やりよる。置かれた立場から、自分を見つめ直した私はよく頑張った。と、ここから先あまり褒めてあげられないから、ここで沢山褒めておこう。

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次の日ゆかサル社長に電話の時間をもらい、そこまで考えたことを伝えると相手の言葉の背景を想像してみなと言われた。
「相手の言葉の裏には何がある?」と。
今は練習どころじゃないと発する言葉の裏には、悔しいとか、焦りとか、自分では抑えきれない苦しみがあるからじゃない?と。相手の根本を見つめなさいと。

その時は。その瞬間は、私は仏だった。暖かいまなざしでチーム全体を見守る仏。サッカーが好きで好きで、キラキラでまっすぐな気持ちを胸に練習に向かった仏は、残念ながらすぐにボロが出た。人間そんなすぐに仏にはなれない。

”メンバー外は栃木に現地集合”
その事実を聞いた瞬間、仏の皮が剝がれた私は、人間を通り越して醜いきつねさんがこんにちは。「え。メンバー外になったら、絶対行きたくないんだけど笑」

あーーあ。言ってしまったきつねさん。昼間の仏顔はどこに置いてきたのよ。わかるよ。不安だったのよねあなたも。どうしても試合に出たかったし、今のコンディションだったらいけるって思ってたからこそこぼれた言葉たち。最終判断が人である以上、理不尽が起こるのは当たり前。でもその理不尽が、最後にはどうしても起こってほしくなくて。

変えられないものを受け入れる覚悟が出来なくて、自分だけがコントロール出来る自分の力を、信じ抜くことができなかった。でもね、きつねさん。その言葉に、あなたはこれ以上ないほど後悔するんだ。

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そんなこんなで訪れたメンバー発表日。
見事にきつねさんの名前は見当たらなかった。

そこで、きつねさんは予想外の行動に出るのである。組を背負うやくざのごとく、相手組長に殴り込みの直談判。実際は喧嘩なんぞほとんどしたことのないひ弱なパシリレベルなのに。

結局、私が発した言葉はしっかりと一言一句漏れなく最終決定者の耳に届き、それが理由でメンバーには入れなかったことを知る。調子が良かったことは知っていると言われてしまったので、もう間違いなく唯一無二のメンバー外の理由。

なぜ練習どころじゃないの言葉は許されて、試合行きたくないは許されないのか。そもそもここは実力社会ではないのか。調子のいいメンバーを入れずに勝つ気はあるのか。全員で試合に行くのは、負ける気だからなのか。

殺気立つパシリ。でも所詮はパシリの一人相撲。至って滑稽である。
色々とぶっ刺されて、すごすごと帰宅。もう試合に行く気はなかった。チームのことなど考えられず、自分のことで頭がいっぱいだった。

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帰り道、ゆかサル社長と前職の社長に連絡をした。
返事をもらって、ようやく泣いた。試合には行くことにした。日本一のチームと対戦するとはいえ、まだ終わったわけではなかったから。

次の日の前日練習の記憶は、全くない。本当に何も思い出せない。

とにかく覚えているのは、初めて死にたいと思ったこと。というより、こういう時に死にたいと人は思うのかと、思った。急に客観的。
これしきの事で命を絶ちたいとは何事かと思う人もいるかもしれない。16年間自分の時間の9割を捧げてきたものが、どうしようもない自分の一言でその土俵にもいれなくなるかもしれない状況は、私にはかなりダメージだった。

帰り道のことは覚えている。いつも乗る電車には乗らず、ぼーっとしながら歩いた。モノレールが上から落ちてきたら死ぬのかなとか、だいぶ現実味のない妄想をしていたから、正直死にたくはなかったのだと思う。

それでも、自分の身体を痛めつけたいなとは思った。あ、リストカットって、こういう時のためにあるのかと思った。でも、傷残るのは嫌だなと思った。まじで死ぬ気はない。あ、リストカットの代わりに、ピアスの穴をあけよう。と思った。思いついたのは、ただのおしゃれだった。

そのままドンキに寄って、ピアッサーを買った。家に着くと、鏡の前で耳に穴をあけた。自分がどんな顔をしていたかは、覚えていない。左耳に2つ目のピアスがついて、私は満足だった。私の中の、現実的すぎる小さな自殺。なにこれ、とは思うけれど。
死にたくはないけど、死にたいと思っている自分を認めてあげたかった。

”明日、試合をみて、自分をみる。
私は、去年の私よりも、今の私のほうが好き。
頑張れ私。頑張ろうね私。一人じゃないよ。大丈夫。明日という日も、沢山成長できますように。”

明日の試合では絶対に泣かないと決めた私のノートにはそう書いてあった。必死に強がる自分が、可愛くて恥ずかしくて苦しい。

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試合当日。感情のスイッチを切った。何も考えず、淡々とベンチ外としての仕事をする。

試合中はスタンドから。前半中、吐き気を催してトイレに行くも、こんな時でも身体は健康で、朝ご飯はバッチリ消化されていて何も出てこなかった。元気かよ。こういう時は出てきなよ。

戻ると顔真っ青だよ大丈夫?と聞かれたものの、何も出てきてないので大丈夫と答えた。

気がついたら試合終了。0-5。やっぱり日本一のチームは強かった。私の16年間の現役生活終了のホイッスル。感情爆発させて泣き崩れたかったな。なんで真顔でボトル拾ってんの私。
一人一人に声をかけていくと、チームメイトが泣いていて、少しだけ泣きたくなった。同じ熱量で泣けない自分と、こんな冷めた感じで終わる自分に、申し訳程度に涙が出てきたそうに様子を伺ってくる。って感じ。逆にここまできたら引っ込んでておくれ。

その後は終始無表情で、時折ひきつった怪しい笑顔を浮かべていたんだろうな。あんまり覚えてない。

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後日、引退選手は練習に参加しなくていいとのことだったので、私服で練習会場にいった。その日はミーティングがあったので、そこで挨拶して終わるのかなと思っていたら、すんっとMTGは終わり、ぞろぞろとみんながグラウンドに向かう。

…あれ。私これで終わり…?
チームから、もうチームメイトとして認識されていないことにそこそこショックを受けた。その場で軟骨ピアス開けたろうかと思った。

でも私はこの日のために再度悟りを開きなおしてきた女である。
言葉は自分を創る。今の私は、どんな自分でいたいのか。絶対にここで、今までの感謝を伝えなかったら後悔すると、ガッチガチに涙で周りを塗り固めた仏だった。笑顔をそのままに挨拶をさせてほしいと申し出ると、まさかの練習後にしてほしいとのお言葉を頂いた。仏の顔が一瞬にして鬼になるかと思ったが、修行のように耐える。

1時間強。クラブハウスの掃除をしながら待っていたら、けが人が一緒に掃除をしてくれた。仏、嬉しい。

練習後、たどたどしく2年間の感謝を伝える仏。あの日と同じような失敗はしたくなくて、口から何度もありがとうございますを吐き出した。でも、心の中にあった反発心は隠しきれてなかったのかもしれない。
私の渾身の挨拶は見事にスルーされたまま、締めのあいさつ、解散。え。終わり?そうか。そうだよね。私はみんなからしたら裏切り者だもんね。。そうだよね。。仏、危うくへそピアスを開けるところだった。

帰ろうとすると、数人が話しかけてくれる。
短くはない現役生活を終える選手にも関わらず、最後に声をかけてくれるチームメイトは数人。仏は悲しかった。でも全部全部、これまでの自分が招いた結果で、あの一言がもたらした結果だった。

そんな自分に、寂しいといってくれる人がいた。LINEをくれた人もいた。「自分は、どういう結果であれ、ちうが頑張ってきたことしか知らないよ」っていってくれた人がいて、その時ばかりは仏、普通に泣いた。

そのおかげで仏は、なんとか穴を増やさずに生きていくことができた。

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そのあとが大変だった。毎日泣いた。文字通りに、毎日毎晩。

なんでつらいのかを、文字に書き起こしてみると、私が1番つらかったのは、引退試合に出られなかった事でも、サッカー人生が終わったことでもなく、ただただみんなが使う「チーム」という言葉に、自分が含まれていないことが悲しかった。私はチームが、チームメイトが大好きだったらしい。

でも、みんなのチームに私はいなかった。自分のいないチームの写真をSNSでみることがつらかった。気が付くのが遅すぎる。私はその大好きなチームの試合に「行きたくない」といったのだから。

自分を許すことができないから、周りを許すことも出来なかった。
また、思ってもいない言葉を吐き出すこともあって、その言葉がまた自分に跳ね返る。何度も自分を傷つけて、いつの間にか私は涙製造機と化していた。

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12/20。大好きなお姉さまたちとの忘年会があった。
クリスマスだからと、会ってすぐプレゼント交換が始まった。示し合わせていないのに、なぜか手元に来るプレゼントたち。

その空間が暖かすぎて、一旦、カフェで号泣した。涙製造機、ここで発揮してくれるな。お姉さまたちは何も聞かずに「どうしたーん」と笑ってくれた。自分でも、よくわからなかった。

引退後初めて、現役お疲れ様のサプライズケーキをもらった。嬉しかった。自分の16年間を認めてもらった気分だった。

その後、恐らくお酒の力もあって、これまでのくだりをわーーーっと吐き出した。出るわ出るわ。最初は淡々と状況を説明していたのに、気がついたらまた号泣していた。

抱きしめられて、「あなたはあなたのままでいい」と言われた。全ての過ちを、他人の手で肯定されたことに安心して、心で凝り固まっていた大きなしこりが少しだけ溶けた。

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…そして1年の月日を経て、今こうして私は文章を綴り終えた。これが、伊藤千梅の現役生活の最後で、サッカー選手伊藤千梅の姿。

爽やかな終わりを想像していた方には申し訳ないです。きつね時々仏のお話になってしまった。。

なんで書いたのかと言われたら、はっきり言って自己満かもしれない。1年かけて、私は私を整理してきた。でも、書きながら思い出し泣きをする私がいたから、おそらく全ては整理しきれていない。
でも、なんかもう。はい!完ぺきではない私でもおっけい~~!許した!進め!!と、自分の背中を再度押したくなったのかもしれない。


あとは。どうせなら、こんな引退の仕方をする人が、一人でも少なくなればいいと思う。(他にいるのか知らんけど。)
競技スポーツは勝ちを求めるもので、自分の全てを捧げる気持ちで臨むこともあるのではないだろうか。

だから。もしかしたら、熱くなって、愛のない言葉があふれてしまう事もあるかもしれない。


そんな時は、言葉は自分を形作っていると思い出してみてほしいのです。
言葉はブーメランだから。必ず自分に返ってくる。と、私は今も自分に言い聞かせる毎日です。

また、そんな人がいた時に、相手の背景を想像してみてほしいとも思います。何を言っているかも大切だけれど、相手がなぜその言葉を選んでいるのか。。。難しいけど。私はなかなかできないから、少しでも人に寄り添えるように今も励んでいます。


そして、間違って傷ついた時には、自分を許して、周りの人を許してあげて欲しいと願うのです。
自分を許せないと、周りの人も許せない。

この話をした時に、その傷、一緒に癒すよと言ってくれる人がいました。私がいるよ。大丈夫だよ。と。
だからもし、どうしても許せない自分がいたら、私と一緒に自分を許しましょ。今度は私は私を許して、私があなたを包みます。


私を含めた多くのひとが、周りにも、自分にも、少しだけ優しくなれるように。

あの日の失敗を繰り返さないように。


私がこれから紡ぐ言葉は、愛ある言葉にしていきたいと思っています。


1年前。いつか、あの日メンバー外にされて良かった!と心から言える日が来ると言われました。絶対来ないだろと思ってました。

でも、この文章を、ここまでかけた私なら言えるのだと思います。
あの日メンバー外になって、良かったです。大切なことに気が付けた経験に、心から感謝します。

サッカーが大好きでした。そして、サッカーが大好きだし、サッカーをしている選手のことが大好きです。

こんな私ですが、これから、また新たな形でサッカーにかかわらせてもらえたら嬉しいです。

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