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似てない映画看板のはなし

京都の新京極にかつて「弥生座」という映画館があった。

すでに映画看板はポスターが主流の時代にあって、この映画館はかたくなに手描きにこだわり、90年代後半まで、手書き描板を掲げていた。

と書けば、ちょっといい職人こだわりの話ように聞こえるけど、一点問題があって、こんなにこだわるのに、看板の絵が実物と似ても似つかないという、致命的かつ、衝撃的な個性を持っていた。

90年代、京都に住んでいて、その頃から「ヘンな映画館だなぁ」と写真を撮っていた。その後、ホームページに載せたりしていた画像が、パソコンから出てきたのでご紹介。

画像が小さいが、グラサンの左右の人間はなんとなくお分かりいただけるだろう。問題はセンターの二人。左が中村トオル、左は浅野温子である。

中村トオルはかなり好青年風、浅野温子に至っては髪型も顔も違う。

さらにアニメも。

右はヒロインのエスメラルダ。のはず。本物はコレ。

もはやイヤリングしか同一ポイントが無い。かなりのおてもやんである.

だんだん難易度もあがりますよ。これは誰だ?!

作品名は「That's カンニング! 史上最大の作戦?」ということは、左が安室奈美恵、右が山口達也!

これだけ似て無いのに、看板画として採用されていたのは、
「独特の味を出していて、そこがまた人気がある」
と、いう判断によるもの(劇場支配人弁)。
実際、当時“新京極のヘタクソ看板”といえば、友人知人の間でも有名だった。

看板を手がけた主は、一刈五良兵衛氏という当時82歳、60年のキャリアを持つ看板画家だった。

一刈氏は16歳で日本画家に入門。独学で洋画のテクニックを身につけ、看板画家に。
1作品1日で描き、1日を乾燥にあてて、合計2日で仕上げるという早業で映画最盛期にはかなりの数を量産したようだ。

好きなジャンルは西部劇で、好きな作品だったら徹夜してでも早く仕上げるが、気が乗らない映画はあまり描きたくないと、インタビューで答えている。

実際に、過去の作品をみてみると、スタローンやポール・ニューマン主演の男臭い作品や、東映ヤクザ映画などは、実に筆致は力強く、手描きならではの、むせかえるような熱量が伝わってくる。


私が看板写真を撮った96年ごろは、すでに西部劇の上演はほとんどなく、それどころか、アイドル主演作、ドラマの移し替え、アニメ映画が劇場を席巻していた。

きっと、彼にとっては筆の乗らない時代だったのだろう。
一刈氏は97年に病をえて現役を引退された。


新京極弥生座は、その後新京極シネラリーベと名を変えた後、2013年2月に閉館。最後の上演作品は「北のカナリアたち」と「のぼうの城」だった。

一刈さん、もし今現役だとしたら、筆の乗る作品はありますか?


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