アクト・オブ・キリング

予告編はこちら。
https://www.youtube.com/watch?v=Mu68nD5QqP0

これはかなりおもしろいです。
1965年インドネシア政府が軍に乗っ取られ、軍にさからう人々は「共産主義者」とされてプレマンと呼ばれる殺し屋たちに殺されました。これは、そんな殺人者たちのドキュメンタリーです。
彼らは殺すことに誇りを持っており、取材陣の前で嬉々として殺しを再現してみせます。たくさんの「共産主義者」を殺したことについて、彼らは正しいことをしたと語ります。
本作ではプレマンたちが殺人を再現する映画を撮る様子を追っていきます。素人の熱演なのでそれほどうまくはないのですが、これがなかなか面白い。飽きずに観ていられます。
しかし、大量殺人の再現シーンを撮影したあとあたりから、プレマンのひとりの感情の変化があらわれます。今まで殺人を肯定していたプレマンが、残虐な演技を求められてできなかったと語るのです。殺人を再現することによって、価値観に変化があったということですね。
その後も映画の撮影が進みます。プレマンの心の変化を追うという意味でも、本作は非常におもしろいです。

それにしても殺人を公言して逮捕されないというのがすごいですね。日本ではありえない。自分の祖父や父親が「昔はよく殺したもんだ」なんて言い出したらひっくり返ってしまいますよ。そういう意味ではこの作品はドキュメンタリーでありながら、映画的な別世界にいざなってくれるとも言えます。正直、インドネシアでは本当に殺人をおかした人が普通に生活しているのか、観終わった今でもわかりません。この作品がドキュメンタリーのテイをとったフィクションなんじゃないかっていう気がしています。そうだとしたら、すごくよくできています。もちろん、ドキュメンタリー映画としてもよくできているんですが。

作中に出てくる教育映画で、殺された父親の血を少女が顔面に塗りたくるシーンがありました。このシーンがリンチの「ワイルド・アット・ハート」で母親が顔に口紅を塗りたくるシーンにそっくりなのが興味深かったです。デヴィッド・リンチもこの教育映画を観たんでしょうかね。もしくは他にもこういったショットはあるのかもしれないですが。

そんな小ネタをさしはさみましたが、ドキュメンタリーというのがかならずしも現実をそのまま切り取るモノではなく、ドキュメンタリーの体裁をとったフィクションである可能性もあるなあと、考えさせられた作品でした。

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