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「サバフェス」子ども×企業×地域×クラファン

「青森県、10年間で、300校が閉校。一万人の児童・生徒減少」
「青森県、ほとんどの自治体が消滅可能性危惧都市」

にわかには信じがたいニュースばかり飛び込んできます。
さらに、不登校も深刻化。
未来の宝である青森県の子どもたちに、これからの世の中を生きていく力を身につけさせたいと、常日頃思っていました。

そんな折、私は魚市場を見下ろす位置に立つ小学校に赴任しました。
水産業の町で、水産業を盛り上げるための授業をしたいと私はひそかに燃えていました。
そこで、八戸のブランドさばである「八戸前沖サバ」を取り上げることにしました。
海水温が低いため、「日本一脂の多いサバ」と言われており、大変美味なのです。

脂のサシが見える八戸で水揚げされたサバ

1.教材世界での心の距離と物理的な距離

目の前に魚市場があり、シーズンともなると毎朝、イワシやサバが水揚げされる魚市場を学区にもつ小学校。
地元にほこるべき前沖サバについて、缶詰を食べる授業から始めました。
そこから感じたことを単元計画にして、とり方、水揚げ、加工、出荷と授業を進めていきました。
そして、最後にこんな資料を提示しました。

激減するサバの水揚げ量

この資料を見せたとき、子どもたちは、
「えっ?」
「やばいじゃん!!」
と反応。これまで学んできた故郷に誇るべき「八戸前沖サバ」がピンチだと感じた子どもたちがいたのです。
しかし、このサバを何とかしたい!と話し合っているときのことです。
とある子が、こんなことを言いました。
「サバなんて食べないんで関係ありません」
衝撃的な一言。
これまでやってきたことは、なんだったのか??
つまり、教材に対して物理的な距離は近いのですが、心の距離が離れている子がいたことに衝撃を受けたのです。
ここから、「サバフェス」へ向けて走り出すことになりました。

2.子どもの「強み」を生かし企画

「前沖サバのために何ができるか?」
ここで考えるべきことは、
「本当に子どもたちがしたいことになっているか…」
つまり子どもたちの強みを生かして考えることでした。
本当に子どもが、自分らしくサバのためにできることは?
「サバ料理のレシピを考えて、みんなに広げたい」
「プログラミングで、海の環境を大切にするゲームを作る」
など、子どもらしい意見が出るようになりました。
「広げるためには、イベントをしたい!」
その意見が出たときに、これは面白い!と感じました。地域の人や保護者を呼んで、イベントを開催できれば、子どもたちも本気になってサバのために活動するのではないか?とある子どものアイディアで「サバフェス」という名前に決まりました。

子どもたちのオリジナル料理「彩(いろどり)サバずし」

3.企業連携

私は知り合いのつてを使って、T水産に話を持ち掛けてみました。
そして、学校に来て、総務部の部長さんが子どもたちの話を聞いてくれることになりました。
子どもたちは「サバフェス」へ向けてプレゼン資料を作成し、必死にアピール!そして、T水産の部長さんはサバフェスへの協力をしてくださることになりました!
まず、T水産の商品開発部の方の講話や、試食をしてのアドバイスをしていただけることになりました。
料理が得意な子どもたちも緊張の一瞬です。
商品開発部の方が、一口料理を食べて、驚いたように…
「びっくりした。こんな発想があるなんて!!」
とおっしゃいました。子どもたちが試作を重ねた料理は、プロの方もびっくりのアイディアだったのです。それは、サババーグというサバ缶を生かしたハンバーグのような食べ物を出した時でした。
付け合わせのソースは、思考錯誤した結果、サバの味を引き立たせるあっさり目にしようと、ミカンと大根おろしの組み合わせでした。

ミカンと大根おろしでいただく「サババーグ」

4.メディアの影響力と保護者の力で集客!

みんなで強みを生かし、準備を進めていきましたが、サバフェス当日には、まあ100人ほどきてくれれば…と思ってした。
しかし、新聞社に取材を依頼すると、反響が大きくなっていきました。
まず、ヤフーニュースに取り上げられました。すると、とある旅サイトでは注目度一位になり、テレビ局からも取材が来ることになりました。
保護者もたくさんの人を巻き込んでくれて、親戚が集まる、という話も聞こえてきました。小学校の子どもたちも、「行くからね!」と笑顔で言ってくれます。
大ごとになってきた!
ということで、当日はなんと300人前の料理を作ることにしました。

5.クラウドファンディングは3時間で目標金額達成!!

様々な調整があり、サバフェス当日、ぎりぎりにクラウドファンディングの公開になりました。
子どもたちの直筆のお願い文章に加え、子どもたちが書いた文章や、子どもたちが撮った写真などを使い、T水産の部長さんがまとめてくれました。
正直、あまりにもぎりぎりだったため、「目標金額に達成するのか?」という不安しかありませんでした。
しかし、公開からなんと3時間で、10万円以上の金額が集まり、すでに目標金額は達成していました。
初日の支援者の大半がこの学校CHLOOSメンバーでした。
子どもたちの活動の価値があってのことだと思います。
しかし、挑戦の価値を知っているメンバーは、応援もやはり一流です。メンバーには、感謝しかありませんでした。
そこから、サバフェスに来た地域の方や保護者、卒業生の事業家の方など、多くの支援をいただき、最終的には2倍以上の金額が集まりました。
話は飛ぶのですが、サバフェス終了後に、子どもたちがひとり一人へと書いた直筆の手紙と、T水産の返礼品を送らせていただきました。
SNSで大きな反響がありました。
「子どもたちの心のこもった直筆の手紙に感動!そして、サバのグリーンカレー、めっちゃおいしい!」
など、子どもたちのサバフェスにかけた思いと、返礼品の美味しさで、全国に八戸のファンをたくさん増やすことができました。
地域の良さを皆さんに伝え、長く続くつながりを作る。
これも、クラウドファンディングの可能性の一つだと気づかされました。

6.当日は大盛況!!

クラウドファンディングのお金は、食材や公民館の借用にあてることができました。
そして、当日の朝から、保護者の方の力も借りて、子どもたちは300人前の料理を準備しました。どれもこれも、ものすごい量です。小学生の子どもたちが、300人前のサバ料理の準備…おそらく、日本でも、この子たちにしかできないことでしょう。それにしても、保護者の方の協力無くしては、できないことでした。本当に感謝しかありません。

300人前のサババーグのタネ
さば缶と野菜を合わせ、春巻きの皮でくるんだ「さばくる巻き」

子どもたちは自分たちのすべきことを着々とこなしていきました。
サバの現状を伝えるプレゼン、プログラミングゲーム、くじ、自作の絵本など、みんなで準備もおわりました。
さあ、これまで5カ月にわたって準備してきたサバのためにできることを詰め込んだ「サバフェス」の時間です。みんなで気合を入れて、お客さんを入れることになりました。

扉を開けると、どどどっと一気にお客さんが来ました。
地域の方、小学校の子、保護者、親戚、T水産の方々、クラウドファンディングの支援者、学校CHLOOSメンバー…本当に様々な方が、子どもたちの準備してきたサバフェスに参加してくださいました。
「感動した」
「ずっとこの地域に住んでいるが、こんな催しは初めてだ」
「お料理、すっごくおいしい」
「このレシピ、家でも作ります」
「うちの会社の若いやつより、プレゼンが上手で驚いた」
お客さんからは、お褒めの言葉を多くいただきました。
中には、地域のために子どもたちが活動している姿に、涙ぐんで、言葉が出なくなった方もいました。(こうした声は映像に残し、後日子どもたちに見せました)
子どもたちは、これまで準備してきたことを全て出し切りました。
片づけを終えて、家に子どもたちはみな、力尽きてヘロヘロ…。
かえって、すぐにぐっすり眠りについていたと、とある保護者から聞きました。

7.子どもたちの成長

子どもたちの振り返りです。
「サバはいつでもとれる」から、「サバは自分たちが守って、みんなに大事だと知ってもらわないといけない」
「やっぱり、人を変える唯一の方法は、人と関わることだと思います。サバフェスをやってよかったと思いました」
「みんなに、少しでもサバに関心を持ってもらえたら嬉しい」
「地域の人、小学校の子どもたち、先生、みんなが来ていたので、サバのことを少しでも知ってもらえて、嬉しく思いました」
など、サバの問題が自分たちのものになり、発信していくことに喜びを感じていることが分かりました。
そして、何よりも「楽しい」という言葉が本当に多かったことは、このサバフェスが大成功した理由の一つだと思いました。
やはり、その子らしい強みを生かして活動することが、活動自体に楽しさを生み、子どもたちもサバフェスを開催できるまでにこぎつけられたのだと思います。
この楽しさが、地域のための活動で、最も大事なのかもしれません。

8.終わりに

このサバフェスを開催するにあたり、数多くの方々にお世話になりました。T水産の方々、八戸前沖サバブランド推進委員会の方々、保護者の方々、公民館の方々、小学校の先生方、クラウドファンディングの支援者の皆さま、学校CHLOOSメンバー、地域の方々など、数え上げれば、きりがないくらいです。
感謝しかありません。
本当にありがとうございました。

                        三浦健太朗

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