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客を引き寄せ、私を寄せ付けない店~カウンターでの闘い~

ここ数週間のスランプから一転、昨日に引き続き今日もすこぶる調子がいい。
頭は冴え渡り、仕事へ向かう気力にも溢れ、体を引きずらずに済んでいる。ここ数ヶ月分停滞していた分の流れが今再び動き始めている感覚、この、思考が前に開き、流れを感じている感覚。久しぶりだ。おかえり、待ってたよ。そんな感じ。

さて、そんなこんなで家事代行の方も課題に対して取り組むとともに、来年度以降のことを視野に入れた経営計画を意識している中で。今の自分の力量や、自分たちに出来ることの範囲と、その半径の小ささにもどかしい気持ちを抱えながら、そして今の私には手が届かない場所に、手が届いている他の活動団体の代表のことを考えながら、今までの自分の生活態度を見直し、ああ、もっと頑張ろう、とそんなことを考えては、思考がぐるぐる、ぐるぐるといい感じに前に進んでいるのを感じていた。

感じていながら、今日はどうしてもガツンとした昼食が食べたくて、駅前の中華屋さんへお弁当を買いに出かけたものの今日はお休みのようで、(仕方がない、天ぷらそばにするか)と奥のそば屋さんを見たところ、こちらもシャッターが閉まっており。思わず「嘘だろ」と独り言が口から溢れた。絶望と共に、とりあえず駅前のコンビニへ入る。
しかしながら、偏見かもしれないが、今日の私にはコンビニで食べる食事では食物としての活力が足りなかった。なぜなら、今の私は気力に満ち満ちていたから。工場で調理されてから数時間たった食材たちに 電磁波で強制的な熱を与えるのではなく、今この場で、ガス火によって熱を加えられたオーガニック℃な食べ物が食べたかったのだ。

仕方がない、家に帰って豆腐と天かすでビーガン風ゴーヤチャンプルでも作るか、と自宅へ戻る道すがら、いつもは素通りしている和定食屋さんの「営業中」の看板がふと視界に入った。
店まえに立つ看板の「エビフライ定食 600円」の文字に「安!」と驚いたのと同時に、とにかく昼食を済ませるまでの時間を短縮したかった私は 咄嗟に引き戸に手をかけ、入店・着席。店にはカウンター10席ほど、角の席には現場仕事の昼休憩中と思しきおじさんと店主の2人が会話を楽しんでいた。店全体がまとう油の入り混ざった空気に、早くも入店を後悔しながら、「営業中」の看板を見てからのその一連の流れにかかった時間、体感約2秒。

カウンター形式のお店に入る時、その店の空気感はカウンター奥にいる店主の人柄によって、全てが左右されても過言ではないと私は思っている。
店主がコミュニケーションをどれ位のスピードで、どれ程の大きさの会話のボールを何個を客に投げてくるかによって、カウンターの店の居心地の良さは随分と変わってくる。そしてこの店は、2秒に1回のペースでピンポン玉くらいの会話のボールを四方八方へ向けて投げてくるスタイルの店主のようだった。だから私は入店後2秒で後悔したのだ。


エビフライが揚がるまでの時間は、先に食事をしていたおじさんと店主の会話が引き続き続いていた。しかし気さくでホスピタリティに前向きな店主の視線を横目でチラチラと感じる。


困った。
サクッと(エビフライだけに🍤)昼食を取るために店に入ったのに、コミュニケーション重視型の店に入ってしまった。今は仕事のことを考えたいから、他のノイズは入れたくないのに。

そんなこちらの事情はお構いなく、気さくな店主から「こいつは会話に入って来るタイプの奴だろうか」という品定めの視線が止まらない。

そしてお待ちかね、揚げたてエビフライ定食の到着と同時に、店主によるピンポン玉コミュニケーションが始まった。

「近くにお勤めなんですか?」
「へえ、この近くにお住まいで。あ、ご結婚がきっかけとかですか?」
「お住まいはどこか地方の方ですか?」
「この辺はいいですよね、子育てするにももってこいで。すぐそこには幼稚園もあって保育園もあって、随分子育てするにはいい場所だと思いますよ」
「でもね、最近若い人が増えてきてはいますけど、どうも最近、入れ替わりが激しいみたいで。やっぱりね、家賃のことを考えると、みんなもっと安い土地に引っ越してのびのび子育てしたいと考えちゃうみたいですね、勿体無い。」
「ここら辺には、最近引っ越されてきたんですか?」
「先週の祭りとか、行かれました?え、行ってないんですか?また来月末にも今度はあっちの方でお祭りがありますから、是非行ってみてくださいよ。きっと地元の人とも繋がり作れますよ」
「僕はこっちで店を始めてから、家族と越してきましたけどね。元々は地元で店作ろうと 思っていたんですが、何故かここで店を開いてましてね。」
「まだまだ15年くらいしか経っていませんが、随分とここら辺も変わりましたね。家賃も高くなってきたし、若い人は子どもができたと思ったら引っ越しちゃうし。」
「以前は中国人のような海外の人の方が多く住んでいてね。家賃滞納したあとに逃げられた!って話も聞いたことがありますよ」

云々…



熱々のエビフライ定食を爆速でかき込むまでの間、何十個ものポンポン玉トークに当てられた気がする。600円ピッタリ持っていてよかった、お釣りをもらうまでの会話をショートカットできる。とそう思ってしまう程、切にもうピンポン玉を喰らうのが辛かった。それくらい、もうこれ以上のピンポン玉を投げて欲しくなかった。

きっと、彼のように気さくで誰にも分け隔てなく話しかけてくれるコミュニケーション術を持つ人は、カウンター式の店に向いているし、彼との会話を求め楽しんでいる常連のお客さんもたくさんいるんだろう。店と客との垣根を超えて、人が地域に根付き生活していく上でのコミュニケーションの基盤を立派に作っているんだろう。彼に救われている人も、たくさんいるんだろう。

だけど、今日の私は彼の立つカウンターに行ってはいけない客だった。
頼む、頼むから放っておいてくれ。向こうのおじさんと話しておいてくれ。でもそれを初対面で地元ネットワークの強そうな彼に物申すほどの度胸がなかった私の負けだ。

ただ早く昼食を済ませたくてエビフライ定食を食べに来ただけなのに、勝手に敗北者の気分を味わって店を後にした。
今日はもう敗北者な私、家を出る前に考えていた閃きや思考がどこかへ飛んでいってしまった虚無に駆られながら、自宅近辺のロードマップを更新したと自分を励まし、さて、午後の仕事を仕切り直していくとしようかな。

おしまい。

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