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言葉のニュアンス


「現役」という言葉に抵抗がある。


大学病院を辞めて3年目。
私は2020年春に
野生の看護師になった。


野生になった当初、
病院で働いていないことに
何となく引け目のようなものを
感じていた。


時は、
コロナによる
最初の自粛期間になった
あの不穏な時期。

いつもやっているような
感染管理の業務が急に注目され出し、
私たちの仕事も

「大変なのに最前線で戦う人々」

のような印象で
メディアで取り上げられる
機会が増えたように思う。



そんな
「最前線で戦う看護師たち」に
敬意と感謝の念を持ちつつも、
私は病院を離れ
ポツンと野生に飛び出した。



それゆえの
「大変な時に辞めてさーせん!」
みたいな引け目も
少しあったのかもしれない。

(実際に辞める事を決めて
病院に伝えたのは
コロナの気配もない更に
1年も前だけども。)


ちなみに言うと
辞める前も、私はいわゆる
「最前線」にいたというわけではない。

けれど、めちゃくちゃ忙しい
野戦病院のような病棟にいた。


ていうか、
…最前線ってどこ?


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病棟も楽しくて大好きだった


「元看護師」と言われた違和感


そんな中、フリーランスとなり
様々なところで
自己紹介をする機会を得た。


私は
「看護師をしています。
今は病院では働いていません。」
というような内容を
話すことが多かった。

そこで「元看護師」や
「今は病院で働いていない
看護師さん」と
言われることがあり、
何となく違和感を感じていた。


病院を辞めて
外の世界に出たら、
多様なスタイルで働く看護師に
出会った。



単に私が世間知らずなのだと思うが
こんなにも自由に様々なスタイルで
働いている同業がいるなんて…!と
驚いた。


私はボーっとしたタイプゆえ
病院内での学習や
経験値の積み上げに必死で、
なかなか外に目を向けることが
できていなかった。


まさに 
井上(井の中の蛙)ハンナである。
(ミドルネームっぽくなに言ってるの)



…というワケで、
野生に出た当時は

「もう私、
普通の看護師じゃないんだ…」と
思ってしまっていた。


今思うと、
病院以外で働く看護師たちに
大変失礼な話である。


「普通」ってなんだ?


正職員・派遣バイトなどの
雇用形態の違い、

病院の中でも
外来もあれば病棟もある。

産休・育休で
一旦現場を離れているけれど
復帰予定の人もいる。


これらの人々の
どこをどう切り取っても
全員「看護師」である。

(ついでに言うと
コロナでマンパワーが必要と
なった時に言われた
『潜在看護師』ってワードも
なんとなく隠れて潜んで
出てこないみたいな
ニュアンスを感じて
余計に身を潜めたくなった。)

時代は病院から地域社会へ


これまで
病院が中心だった医療は
もう何年も前から
在宅へと移行している。


まだまだ
患者や家族の反応などを拝見すると
浸透している感が少ないけれど、

確実に看護師は
入院の時から、患者が
退院する時のことを見据えて
仕事をするようになった。

(これは、時に
『追い出そうとしてる』という
ニュアンスに取られて
悲しかったが、
決してそうではない。)


そして地域社会でも
医療を受けながら
家で過ごせるようなシステムも
構築されている。

これらがまだ
充分に浸透していないのか
せっかくある場所や人が
活用されていないと
もったいなくて仕方がない
やるせない気持ちになる。

情報が広まり、
それを利用する方々の
抵抗感がなくなり、
マンパワーや
設備・システムも充実して
当たり前に活用される
社会となればいいのにと思う。


そのひとつのルートとして
微力ながら橋渡し役として
お役に立ちたいという
思いもあって
私は病院を辞めた。

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よーく見るとこの中にハンナが…いない


言葉のニュアンス

今こうして活動をしていると
自己紹介をする機会が多いのだが、


当初感じた違和感から、
私は自分で
「元」とか「現役ではない」と
いう表現をするのをやめている。


「病棟にいない」だけで
看護師ではあるからである。

何となく、ほんとに何となく
肌で感じるだけなのだが、

病棟にいないとなぜだか
「ふーん。」と
若干下に見られる感覚がある。


実際にはただ悪気はなく
「区別」や「確認」を
しているだけで、

そんな上下に見るような事は
ないのだと思いたいのだが。


同業者も、そうでない方も

「あ、今は病院にいないんだね。」
「現役ではないんだ。何してるの?」
「コロナ大変だしね。」
「最前線って大変そうだしね。」
「現場じゃないんだね。」
「いつまで病院にはいたの?」

などと仰り、そこには
何となく微かに香る
マウント臭を
感じたり感じなかったり。


1回真顔で
「元じゃなくて今も看護師です。」
ってきっぱり言ったことも
ありましたけども。


なんかちょっと
スンッ…って空気に
なりますわよね。


これって別に
その人たちを責めているとか
嫌な気分になるとかではなく、


「看護師は病院で働く人」

というイメージが当たり前に
社会的に植え付けられてきただけ
なのかなと思っている。


今もうすでに
そう、軽く10年くらいは
こういう時代じゃなくなってて

でも
まだ充分浸透していないゆえの
現象なのかな、と思っている。


だがしかし、
あらゆるところに看護師が
出没するようになった。


その方たちが
現役でないかというと、
完全に現役、
それも最前線、最先端だと思う。


私は

「あら、こんな所に看護師いたわ。
ラッキー!あのね、聞いて~。」

みたいな

【気づいたら隣にハンナースいた現象】

をまことしやかに
起こしたいと狙っている。


気づいたら隣にハンナース現象


ちょっとそこまでおつかいに…と
出かけたら、
ハンナースにぶつかるみたいな。


そういう
日常にスッ…と溶け込む
看護師になりたい私。
(ぶつかる程って、溶け込みすぎて
薄く消えかかってない?大丈夫?)


そのためには地域に自然と溶け込む
忍法が必要だし(えっ)、
勉強や訓練、人間関係づくりも大切。

医療者としての情報収集や
コミュニティでの交流も忘れたくない。


かと言って偏りすぎると
これまで病院で実感してきたような
【一般の方との
認識やテンションのズレ】
みたいなものが生じる。
多々生じる。

医療者側には
もう当たり前なことも、
患者・家族にとっては、
まだまだハードルが高いものも。



そういう感覚のズレが
小さなことに気づけず
寄り添えなくなる要素になると
私は考えているので、

そういうズレやミゾのようなものを
いい塩梅に埋めていきたい。


そんな時にちょうどいい
【隣のハンナースおばさん】に
私はなりたいのだ。

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ちょっとした悩みなんかを聴けるハンナース


実録!ハンナースおばさんのうっかり事件簿


たぶんテレビの見過ぎ。
だけどこんなノリで人々の生活上に
出没できたら、最高だなって思う。


すでに存在する
地域で活躍している看護師と
住民の橋渡し役。


「患者と看護師」として出会う前の
「住民と看護師」


この関係性の時点で必要とあらば、
あーだこーだとちょっかいを出し、
やんわりした軽めの圧力で
ヒントや提案を仕掛けていく。


気づいたら隣にいて
いつの間にか
自分の「生きる」について
めちゃくちゃ考えさせられていた
ハンナースおばさんという存在。


便利~。いたら便利~!

と思うのは私だけだろうか。


「最期の時」から逆算する

あらゆることを私は
「最期の時」から逆算して
考えるようにしている。


今をどう生きると自分らしく
死を迎えられるか。

経験上、そう考えていく訓練が
みなさんにも、社会にも
必要だと感じている。


もちろん最期の時が
いつ来るかは誰にもわからない。

けれど必ず、全員に来る。


だからこそ
日常の中でナチュラルに考えたり、
ディスカッションしたり、
学べたりする場が
できたらいいなと思う。


それを私が創る。
ハンナースおばさんが創る。


同じような共鳴する先人から
学ばせていただきながらも

私が思うような場所や空間、
在り方のような、概念のような
そんな
ホリスティックなものを創る。

きっと共鳴しながら
手を取り合って
広げていけば、
きっと社会は変わると思う。


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時に畑にも出没するハンナース


こんなにも一生懸命
病院や医療者、
患者や家族、地域住民、
社会について考えて
行動しているのだから


充分すぎるほどに
私は
「現役の看護師」以外の
何者でもないと思う。


だぶんこのテンションで行くと
私は一生
「現役の看護師」でいると思う。

だけど、途中でなにか
他のことを全力でやりたくなったら
看護師をやめる時も
来るのかもしれない。


その時は
「元看護師」とか
「現役の看護師ではない」と
言うと思う。


誰も私が
現役であろうとなかろうと、
影響はそんなになく、
正直どっちでもいい。


だけど
私はこんな風に
「言葉のニュアンス」というものを
大切にして生きている。


もちろん完璧じゃないので
うっかり、
びっくりする程の失言を
することもあるし、

悪気無く
人様を傷つけてきた過去もある。



だけど
あらゆる所で私は
「言葉のニュアンス」を
大切にすることを
忘れないようにしている。


相当な勢いで
めんどくさがられる事もしばしば。
だけどそんなことは
どうでもいい。


そのめんどくささは
私の譲れない信念や
プライドなんかが
表れているものだから。


だから私は
違和感を感じた
「野生の看護師は現役ではない」と
いう事は
自分からは絶対に言わないのである。


でも安心してね。
怒ってないから。
全然、怒ってないから。

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