見出し画像

バルセロナに行って、サグラダファミリアに行かない旅

バルセロナに着いたのは夜だった。

タクシーの運転手は、旅行者の誰もがサグラダファミリアを見たいと思っているからか、わざわざ前を通ってくれた。

漆黒の闇に浮かび上がる未完成の塔は、あまりにもおどろおどろしく、荘厳だった。

翌日は朝早くからサグラダファミリアに行く予定だったが、急に具合が悪くなり、ホテルから一歩も出られなくなってしまった。

友人は憐れんで申し訳なさそうだったが、気にしないで行ってきて、と送り出した。

奮発して最高級のホテルをとっていたので、窓からサグラダファミリアの上の方が見えた。

ルームサービスでフルーツの盛り合わせを頼み、窓辺に腰かけて、ずっと眺めていた。中はどうなのだろう、と想像しながら。

ずっと見たかったのに、不思議と全然悲しくなかった。

最高に美味しいフルーツをつまみながら、ホテルの部屋から行きかう人を眺める。

今までのどの旅よりも贅沢で心穏やかだった。


#旅する日本語 #心安

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?