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没落貴族千代子ちゃんの初恋(1)

初めてかわいくんを見たのは、9月頃だったと思う。まだセーターもブレザーも着ていなくて、長袖のシャツを腕捲りしていたから。その日私は午前中部活で、ママに車で迎えに来てもらったついでに、来月引っ越すアパートの隣のコンビニに昼ごはんを買いに来ていた。特に食べたいものないなーと思いながらおにぎりの棚を見ていると、横から店員さんが来て、新しくきたおにぎりを並べ始めた。私と同じくらいの身長で、二重がくっきりしていてかわいい人だな、と思った。適当にパンを2個選んでレジに持って行くと、さっきの人がお会計をしてくれた。「ありがとうございます。」声を聞いた瞬間、え??と思った。声が、男。びっくりして思わず顔を見ると、言われてみれば男にも見える。動揺して小銭を落としてしまった。終始挙動不審になりながらお会計を終えて、恐る恐るありがとうございます、と言ってみた。すると、彼はにこっと笑って「ありがとうございましたあ、」と言った。急いで車に戻ると、大興奮でママにまくしたてた。「なんか店員にとんでもないイケメンいたんだけど!!最初見た時女だと思ったのに声が男!やば!!」ママは見に行く、と言って車を降りた。興奮冷めやらぬままパンをむしゃむしゃ食べていると、ママがアイスを買って戻ってきた。「いたいた。ほんとに女みたいだったねー。」これが、私とかわいくんの出会いでした。

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