創作技術を理解しない人の「友達価格」要請に応えてやる義務はない
相方の白峰かなが、こんなことつぶやいていました。
その後、こんな記事を書いてました。
「趣味は言わない。生みの苦しみがわからない人が面倒だから。」
ほんとに、新社会人の皆様、新生活で新しくたくさんの人に出会う方、もしくは今まで特に気にも留めてなかった方、マジで気を付けてくださいね!
かなは写真と絵であんなことに巻き込まれてましたが、何らかの創作技術のある皆様は、みんな心に留めておいた方が良いですよ。
私の場合は、文章技術です。
オリジナル小説もずっと書いてるし、二次創作もするので、一連の流れや構成を精査した文章は、それなりに書けるつもりです。
また、美容ブログでやってるみたいに、誰かに物事をかみ砕いて説明するのが大好きなので、わかりやすく理解しやすいまとめ方も、それなりにできるつもりです。
私の今の部署での立ち位置は、上司に次いで二番手です。
10人ほどいる部下に、化粧品の知識や肌の仕組みについて、また、他の事務作業などの業務の説明をするのは、私の仕事です。
そのため、特別職場で「実は小説を書いてて~」なんて言った覚えは無いんですが、「黒河さんは文章書くのが得意」「黒河さんの説明はわかりやすい」と言われます。
普通にそう言われるくらいなら、お褒めの言葉と受け取って、私もほくほくしながら良い日だったなあスヤァで一日を終える話です。
こっからが本題です。
ネット上でも、クリエイターの人に「友達価格」を要求してくる「友人」の話がよく取り沙汰されますよね。
この「友達価格」、ご近所さんや友人にそういう風にされるのも大変困りますが、職場でされるのも大変困るんです。
最初に「あれ?」と思ったのは、上司からの一言です。
「黒河さん文章上手いやん? 俺の代わりに反省文書いてや!」
ぶっちゃけ、学生時代も、友人たちからの票で内申点のためだけに生徒会長になった男の、集会での挨拶文のゴーストライターをしたりしていましたし、人の文書を考えることに苦はありません。
心にも思ってないようなことを書くのも得意なので、引き受けて書き上げました。
何だかちょっと引っかかるものを感じながら、私がしたわけでもないミスの原因と反省と対策について5000字ほど。
やっぱりこれはおかしいなと確信したのは、部下のおばさまからのお願いです。
「息子がスポーツで選手宣誓するから、黒河さん考えて! 文章得意やろ?」
何で私がやったこともないスポーツの、会ったこともない部下の息子の、宣誓文考えるんだ?
っていうか、その息子さん、他人が考えた宣誓文で「スポーツマンシップを発揮し、正々堂々と戦う」ことを誓うの?
言い方悪いかもしれないけど、他人のふんどしで土俵上がるのって、スポーツマンシップか?
いや、わかるよ、開会式の選手宣誓なんて、形だけのものだよね。私だって、運動会の選手宣誓なんて真面目に聞いてなかったもん。それっぽいことが言えて、人前で綺麗に一礼したりできたら、それでいいんだよね。
だからって、内輪で用意してるテンプレとかじゃなくて、全然関係ない他人に作ってって頼むか?
あなたの息子さんが、ファインプレーする選手になれるまで、何年かかったんですか?
私たちクリエイターが、「それっぽい」文章を作れるようになるまで、何年かかってると思ってる?
めっちゃ腑に落ちないながらも、断ったら「こんなのも作れないのか」と思われるのが悔しくて、結局作りましたけど!
スポーツしないし見ないから、もう10年は選手宣誓なんてまともに聞いてないけど、あちこち調べ回ってな!!!
とどめを刺してくれやがったのは、同期たちとの社内研修。
お偉いさんたちが好きなので、我が社ではグループワークをして、意見をまとめて、グループごとで発表することがよくあります。
何度目かの発表の後の、同期の言葉。
「意見まとめるのも、発表原稿も、黒ちゃんがいると楽だよね~!」
……愛想笑いしかできなかった。
請われるままにおまえらの面倒見てやってた私が悪いのか?
どうしたらいいかなって意見も言わずに黙り込んで5分も10分も議論もしないおまえらを見かねて、片っ端からまとめだした私が悪いのか?!
おまえらが5分の発表楽するために! 私が! 何年!! 何文字!! 文章書いてきたと思ってやがんだ!!!
わかってるんですよ。
クリエイターじゃない人たちには、その人たちなりの身につけてきた技術があって、私たちだって逆にその恩恵に預かってるんですよ。
私の上司は飲みに行くのが大好きです。週5日は誰かと、もしくは一人で、夜飲みに行きます。
飲みに行った先で、全然面識のない隣の席の人と仲良くなって、その人をうちの店にお客様として連れてくるようなコミュ力の持ち主なんです。
こないだなんか、飲み屋で仲良くなったおじさんとゴルフ行くんだって、初挑戦のゴルフ行ってたわ。
それは、上司が飲みニケーションを通して培ってきた技術で、ノウハウで、彼が誇れる力のひとつなんです。
私が「へぇ、そーなん!」って笑顔の塩対応するせいで話弾まないけど、私を気遣って話振ったりしてくれるから、私が上司を嫌いになりきれないのは、彼の努力と技術の賜物なんですよ。
でもな?!
クリエイターじゃない人間は、その自分の技術も、それとは種類が違うクリエイターの技術も、ありがたいものだと思ってないところが困りものなんですよ!!
自分のコミュ力は、日本語を操る大半の日本人が「当たり前」にできることだと思ってて、それ以外のクリエイター系の技術は全て「才能」だと思ってる!!
知らない人に話しかける勇気も、そこで仲良くなって後日一緒に出掛けちゃう行動力も、場を盛り上げる話術も、心震えるような一枚を撮る写真術も、誰かをワクワクさせられる絵を描くイラスト術も、じんわり染み込むような一文を作る文章力も、全部全部今までの積み重ねと努力の結晶なんだよ!!
スポーツになれば、クリエイターじゃない人たちでも、今までどれほど走り込んできたのかとか、どれほど素振りをしてきたのかとか、どれほど筋トレしてきたのかとか、積み重ねを意識するのに、クリエイターの技術に対しては全くその想像が働かない人が多いんですよ!!
そりゃもちろん、わかってくれる人もいますよ。
「どんな練習をしたら、そんな素敵な文章が書けるの? うちの子は作文が苦手だから、練習方法を教えて。もちろん、企業秘密だったら、無理には訊かないけど」
と訊いてくれた部下のおばさまの言葉を、私は一生大事にします。
でも、現実はわかってくれない人が本当に多いです。
しかも、悪意は無いし、無意識だから、手に負えないんですよ。
酸素の概念を知らない人に、呼吸の仕組みを教えるのは骨が折れるでしょう。
人間が身につける技術の全てに、努力や試行錯誤があるなんて、思ってもみない人に、その技術の価値を説明するのは大変なんですよ。
私は、普段滅多なことでは怒らない方です。色んなことに鈍感です。
今までの人生、誰かにゴーストライターを頼まれても、みんなのための原稿を考えても、自分の力が誰かの役に立てるなら! と、好きでやっていた時期もありました。
でも、社会人になって、業務時間外に、休憩中に呼びつけられて、休みの日に家に持ち帰ってまで、自分に関係も興味も無く、ましてや私がしなければならない業務の延長線上でもない事柄の、文章作成を押しつけられることに、疑問を感じてきました。
これを読んでるあなたが、「自分の力が誰かの役に立つなら嬉しい」とか、「その人の笑顔が最大の報酬」だと思えるなら、それでいいんですよ。それを否定はしません。
でも、今まで周りには、生みの苦しみや技術の習得過程を理解してくれている人ばかりだった人は、心に留めておいてもらいたい。
あなたの労力も、時間的拘束も、創意工夫や試行錯誤も、全て「知らぬ存ぜぬ考えたことも無し」という人が、世の中にはたくさんいます。
それが、職場で毎日のように顔を合わせる人、指示には基本従う義務のある相手(上司、先生、先輩)だった場合、とてもしんどい思いをさせられる可能性もあります。
趣味・特技を誰かに話すのは、少し慎重に。
自分の心と、自分の技術の価値を守るのは、自分自身です。
自分の中の多くのものを守るために、依頼や要請を断ることだって、手段のひとつです。
適度な距離感と、付き合う人の価値観を見極めて、うまくやってください。
この記事はこれで終わりです。
「……まあ、一杯やろうや」と思ってくださった方は、コーヒー一杯おごってください。
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