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軌道の変遷 episode8

ユキと私と病院と、何年にもわたる攻防。episode1~4まで書いて、5と6を飛ばして、7を書いて。もうそろそろ着地したいと思っているのですが、着地点はまた次のスタートだしって言ったら終わらない。10までには決着をつけたいと思ってます。医師Cの提言により、病院Aに戻って診断を確定してもらおうと決めたところまでがepisode7。そのつづき。

病院をかわる手続き

前のときも大変だったが、病院Aの敷居はとてつもなく高い。まず電話がつながらない。つながったとしても、通常であれば予約は取れないだろうと思った。どうにかして医師Aと直接話ができたら、なんとかなるのでは?と一縷の望みを託し、とりあえず電話をかけた。何回かトライしてつながった。

次のミッション:医師Aに取り次いでもらう、なんだけど、するっとつないでもらえるわけじゃない。どうにかしてって文字にすると簡単に見えるけど、大変なんだ、もうなりふり構わず必死なんだよね、私がやるしかないんだから。話術と熱意を駆使して、奇跡よ再び、でどうにかこうにか医師Aにつないでもらうことに成功。

しかし私がご無沙汰している間に、病院Aは変革期を迎え、現在のユキくらいの子は診てもらえない規定に変わっていた。ユキも昔ほど緊急性がある状態ではないのでなおさらだ。医師Aから規定に従ってお断りをされたのだが、本人が病院Aに行くつもりになっている今、また、それが一番いいと聞かされて、本人がそう思っている以上、私も引き下がるわけにはいかない。

私から「じゃあいいです」と折れるのを待つための、A先生の沈黙なのだとわかったけれど、あえて空気は読まなかった。とにかく本人の気持ちだからとお願いして、診てもらえることになった。これは親のエゴなのか、親心ってやつなのか、やっぱりエゴなんだな、自分のことならあきらめただろうと思う。無理をわかっていながら強引に割り込む感じがして、そんなことしたくないのに、と自分で自分がイヤになってしまった。自己嫌悪というやつだ。

予約は取れた。取れたけれど、果たしてこれでよかったのか。だって医師Cが言うんだもん、本人に言っちゃうんだもん、私のせいじゃない、と言いたいところだが、仕方ない、実行役が私しかいないんだから。私は、子どものためとはいえ、ゴリっと押しちゃう人に見られるのがいやだった、これに尽きるのだ。

ここは冷静な意見を賜りたい、と思い、なつかしのカウンセラーBにお電話をしてみる。ことの経緯を手短に説明し、「病院Aに歓迎されてないのが気にかかるんですが、このまま進んでいいんでしょうか?」と尋ねた。「入り込めてしまったのなら、このまま行きましょう。診断は確かだし、間違いないです。なによりご本人の希望なんですから」とのこと。カウンセラーBの言葉で腹をくくった。気にせず行こう。

しかし、またひとつ、大きな問題が発生した。病院Aに行くには、今までかかっていた病院Bからの紹介状が必要だと言われた。病院Bをやめて他の病院へ行くことを病院Bに伝えなければならない。本当は病院Bでの診断に疑問を抱いて、病院Aに戻ろうとしているんだけど、そんなこと口がさけても言えない。もとをたどれば、病院Aからの紹介状を持って病院Bに行ったというのに、なんと言って出戻る紹介状を書いてもらうのだ。でもこれもやるしかない。

病院Bは、本人以外からの連絡は受け付けないというスタイルを取っていて、そのためにこれまで困ったことがたびたび発生していた。ちょっとお耳に入れたい本人の様子とかも一切聞いてもらえなかったから。だが、今回はそれを逆手に取る。ユキにも、この大変な業務の一端を担ってもらった方が、いつの間にか簡単に事が運んだと思うより、ずっといいだろう。いや、一人で遂行するのがキツくて、ユキにも片棒担がせて共犯に仕立て、自分が楽になりたかっただけなのかな。

というわけで、ユキ本人が病院Bに電話をかけ、本人の希望、という大義名分を前面に押し出して、紹介状を頂戴することにした。電話の前にユキ本人に説明をする。「もう一度大きな病院で診断を受けたいので病院Aへの紹介状を書いてください」この主張一本で、病院Cのことは絶対に言っちゃだめだ、と念押しする。

ユキが電話をかける。受付の人が対応してくれる。いつも優しい受付の人、急に行けなくなっても、時間に遅れても優しく対応してくれる人だったが、やはり紹介状となると、雲行きが怪しい。なんだかんだと突っ込まれ、問いただされているようだった。やばい、と思ったところで電話を替わった。本人からの連絡しか受け付けないというアレはなんだったのだ、と思ったが、慎重に言葉を選んで、本人の強い希望であると説明した。ご理解いただけたようだった。次の診察の際に、紹介状をいただいて、その数日後に病院Aへ行くことが決定した。大仕事を終えた気持ちであったが、本当の大仕事はここからなのだ。まだ病院Aに行ってないのだから。

これだけ大変な思いをして取った予約と紹介状、今回病院Aに行けなかったら次はない、ということをユキにもきちんとわかってもらわないといけない。今まで何度も、当日になって「行けない」ということを繰り返してきたユキ。行けないのは「行けない」のだろうから仕方ない、でももう一度予約を取ることは不可能だし、私も二度としないことを決意した。

ユキに「行けなくても他にも病院はあるので終わりではないが、病院Aに関しては次の機会はない、これがラストチャンスだ」と伝えた。これはユキの覚悟を問うようでいて、私の覚悟を決めるためでもあったのだなぁと思う。行けても行けなくても、そのままを受け入れる覚悟、喜びも落ち込みもしない覚悟、病院Aの線を捨てる覚悟等々。覚悟は人を強くする。



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