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他人のそら似

今でなく、少し前の話である。

預けていた車を取りに行くと、つなぎを着た整備の人が対応してくれた。営業の人じゃなくてホッとする。営業の人は営業が仕事だから、仕方ないんだけど、今買いかえる気がないのにセールストークをしていただくのも申し訳ないし面倒。買いたいと思った時に買いたいものを買うよ…ではダメなんですかね、ダメなんでしょうね。

ラッキー、今日は整備さんだーと思ったのも束の間、一つ一つ、実に細かに説明してくれる。キャブレターがどうの、エンジンの点火プラグがどうのって、わかんないし、わかんない顔をしていたら、用語の説明までしてくれて、さらに延びる。ちゃんと整備してくれたんならいいから~「大将、お任せ」で済ませたくなる。けど、お約束事って大事なんだろうね。

とにかく、全てが懇切丁寧で長くて、まだ項目20はありそうなんだけど、全部その調子でやるのかい?と思ったら睡魔が襲ってきた。

意識朦朧とする中で、あれ、この人は…と過去に引き戻される。

前回、私が担当の営業さんと話していた時に、ぜつみょーに、びみょーなタイミングで話にカットインする人だった。

それが1回や2回じゃなかったから、営業さんに「あれ?この方もしや、天然?」と小声で。「あ、わかります?」苦手な営業さんなのに、珍しく気が合った。

「ちょっと(うちの子と)シンパシーを…」「あ、奥さんも天然ですよね~」っておいおい、私かよ!まぁそうなんだけど、君に言われたかないや…

の時のあの人だ!

ほうほう~あの時の~と気付いてからは面白さが勝ってしまって、目が覚めた。趣味、人間観察だから。

⁂⁂⁂

「ドア付近に無数の傷がついておりましたので…」「むすうってー(爆笑)」「あ、いえいえ、これは私の表現がすぎまして、失礼をば…」いやいやーその形容詞?連体詞?「傷」に掛かる言葉選びが、うちの子っぽい〜!

「女性の方はお爪を伸ばされたりするんでどうしても…」と取り繕うも、「あ、私の爪これですー(笑)」短い。「あ、あぁ…」ともごもご。た、たのしい~

「傷なんて気にしてないいんで、どーでもいいんです~(笑)」「あ、でもこれはとても良心的価格でして…」と今度は"どーでもいい傷"を修理してしまったことのフォローを試みた整備さん。あーもう、傷も良心的価格の修理代も、どっちもどーでもいいから気にしないでー

がんばってくれたのに悪いけど、お互いちょっとずつ、かみ合わないのなんでだ。それは、間違いなく天然同士だからだよ、って営業さんがいたら思ったことだろう。

⁂⁂⁂

長かった説明が終わり、いざお支払いの運びに。

「カードで、一括で、サインします!」と一気に言うのが手間が省けて気に入っている。今日も決まったぜ、と思っていると、

カードを読み取る機械を、慣れない手つきで操る整備さん。ところが機械がうんともすんとも。

「・・・フリーズしたかもしれません。」うそーん、そんなの見たことないよー液晶画面をタッチしてもまったく反応なし。

「ATMとかで指が冷えたり乾燥してると、なるときありますよね~」と言うと、

「え、そうなのかな…(としばし指をじっと見る)再起動してみていいですか?」指を見るそのリアクション、嫌いじゃない、むしろ好物だ。

「あ、立ち上がりました!私の指がおかしくなくて良かったです~」そこかいーその、物事のフォーカスの仕方もまた、うちの子っぽい!

入力していく整備の人。「金額入れ間違えたりしたら責任重大ですね~」じゃー話しかけんなって。

「そうなんですよ~それやっちゃうと大変なことになるんですよ~」あれ、もしや、やっちゃったことある??もうしゃべらないで黙っておこう、お口チャック。

紙が出てくる、が、紙の両端がピンクでクルンクルン。あぁ、これは…気になって仕方ないんだが、お願い、自分で気付いてくれ―でも気付かない、うん、うちの子もきっと気付けない。

「紙ヤバイですよ~(笑)」「あれ、大丈夫かな?」

2枚出たところで用紙切れ!!すごいぞ。さては持ってるな?あと1枚だったのにねー

途中で終わってるけど大丈夫なのか?突如不安が襲う。脳内シリアスモードに。

私のカードのお支払い情報は、電波の海で遭難していないかしら~?2回引き落とされちゃったりしない?

すると、向かいで整備さんもなにやら動揺。もしや不安がうっつたのか?天然同士、波動が近いから、共鳴して伝播?と思ったら、

「用紙の交換ってどうすれば…」整備さん、心の声が漏れてる~だが、ごめん、用紙云々は知らない、中の人に聞いてくれー

「あ、その間にこちらにサインを、あれ?ボールペンが…」

キターーーー!来ると思ってた!わかってた!

「その書類の下ですよ~(笑)」「あ、ありました~」

ボールペンあったんだよ、あなたがその上に書類を置いたときから、見失うんじゃないかと気になって、ずっと見守ってた!

なぜなら~そんな子の親だから~ベテランの顔。

「紙出てきました~」満面の笑み。いやーそりゃよかった、が、たぶん普通のことなんだよ…

⁂⁂⁂

ディーラーで車を受け取る数分間。通常なんの変哲もなく終わる数分間。

こんな起伏に富んだひとときにもなるのだな。

本当にとても楽しかったよ。新しいおもてなしの型をありがとう、天然の整備の方。

お金はたくさん払ったけれど、たくさん笑って「お値段以上~♪」の清々しい気持ちで帰宅の途につく。

が、まだ終わってなかった。

ハンドルを切る度に、後部座席からカランカランと何かが転がる音がする。家に帰って見てみると、見慣れぬスプレー缶の使い終わったやつ。

んん?「光触媒の〜〜(忘れた)を吹き付けておきましたので…」の空き缶だ!!捨て忘れてるじゃん〜いいのか?そんなのありか?いや、なしだろーそういうこともチェック項目に入ってるんじゃないのかい?そもそも、車は本当に大丈夫なのかい~?

でも、置き土産、うちの子も大いにあるある。車から降りた後のシートの上の置いていったもの、スマホ、弁当箱、傘、カイロ、チョコのかけらは融けると悲惨…などなど。

うちの子、これまでもたくさんやらかしている。この先も変わらずやらかしていくに違いない。

空き缶、まぁいいか。

優しい世界でありますように、祈りを込めて、缶を捨てる。



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