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フランス好き女子はイタいか?


「アラフォー女子でフランスに一人旅って、ちょっとイタいよね、、、」

つい最近、ある人にそう言われた時、

「あ、それ、わたしのことです、、何も言えません 笑」と苦笑いで返した。

その発言を聞いた時、少しドキッとした。というのは、その指摘にむしろ賛同する自分がいたからだ。


私は長い間、「〇〇(私の名前)といえばフランスだよね」と友人に言われるほど、いわゆるフランス好き女子だった。長いお休みには必ずフランスに行き、フランス語も少し話せて、フランス映画を好んで鑑賞、ファッションもボーダーにレペットのバレリーナ、なんなら勤め先もフランスに関係していた。フランス人と付き合ったこともある。

さらには長年勤めた会社を辞め、アラフォーで夢だった語学留学を実現し、しかもその後縁がありフランスで就職することになったため、今もパリに住んでいる。振り返ってみると、大学の第二外国語でフランス語に出会った時が、人生の転換点だったのかもしれない。

要はフランスオタクだったのだけれど、それでも日本にいる間はどちらかというと、フランス好きな自分=素敵な自分、と酔っていた部分も少なからずあったように思う。夏休みは毎年パリに行くの、と言うと必ず「へー、おしゃれだね!」「フランス語話せるの?」というような反応が返ってくるし、そこで、「いや、パリっておしゃれなイメージあるけど、実際は道とかメトロとか汚いよ!フランス語も発音悪すぎて通じない!」と「普段のパリ」も知っているアピール?もしていた。あくまで私の場合だが、フランス好き女子がイタいとすれば、わりとこういう側面にその一因があるのではないかと思う。

もちろん、本当にフランス文化やフランスの暮らしにマニアックな関心を持っていたし、いつまでも中級止まりのフランス語をなんとかしたいという執着にも似た願望は本物だったので、留学をした判断は間違っていなかったと思う。大人になって学生に戻り、若く未来ある多国籍の学生たちと机を並べた経験はとても充実していた。

そして現在、サービス業をしている関係で、まさに過去の自分と相対するような形で一人旅をするアラフォーの「フランス好き女子」と接する機会は少なくない。同年代なだけに話も盛り上がるし、過去の自分を思い出して嬉しくもあるのだが、同時にそこにはもう戻れないであろう、変わってしまった自分を認識してしまう。

あの頃の自分は、現実から離れた自分だけの居場所をフランスに求めていたんだなあと思う。どこの会社で何をやっていて、家族構成はどうで、どこ出身で、という表向きの社会的プロフィールとは別の自分を認識できる世界。その世界は多かれ少なかれきっと誰もが持っていて、私の場合はそれがフランスだった。スポーツの人もいれば、SNSに夢中になる人もいるし、アイドルや芸能人に夢を見たり、漫画や本の中の二次元の世界に浸る人もいる。誰に理解されなくてもいい、好きという気持ちだけでその世界に没頭し、その時はいつもより少しだけ自分を好きになれる気がする。現実生活はそれなりに充実していても、何か足りないピースをいつも探しているような、もの足りない感のようなものを慢性的に抱えている人は、私だけではないはずだ。

そして今、その別世界が現実世界になった私は、もうフランスを自分の中の大事な別世界にすることはできなくなってしまったことに、ふと気づくのである。

では私の今の別世界は?

なんのことはない、逆転の現象である。私の今の別世界は、おそらく日本、さらにいうと日本の漫画、音楽。漫画は小さい頃から大好きで、イラストも描いていたしなんなら漫画家になりたかった。社会人になり一時遠のいていたのだが、思えばフランス行きが具体化し始めたころから漫画熱が再燃した。音楽は、学生時代までは好きなアーティストのライブに行ったりしていたが、最近はすっかり遠のいて昔好きだったスピッツやラルクを思い出したように聴く程度だった。それが渡仏以降、無性に日本語の曲が聴きたくなり、今ではYouTubeで知った最近人気のアーティストの曲を暇さえあればひたすら聴いている。

じゃあ、フランス好きの私はどこに行ったのか?

どこにも行っていない、今の私も現在進行形で「フランス好き女子」だ。パリに住んで3年が経とうとしているけれど、フランス文化やフランス語に対する興味は尽きないし、何気ない街並みの美しさに未だに毎日感動している。服だって相変わらずボーダーにバレリーナだ。変わったとすれば、フランス生活への過度な期待や幻想は一旦消化し、環境が変わっても自分は自分でいるしかない、という当たり前の事実を受け止めようとしていることくらいかな。その意味で、フランスに夢だけを抱いていたあの頃にはもう戻れないけれど、今はまだ違う角度でフランスという国と向き合おうとしているように感じる。

他人から見て多少イタかろうが、自分だけの別世界を大事にするのはとても大切なことだと思う。現実世界とのバランスをとることは必要だけれど、いいことばかりというわけにはいかない日々に、日常から離れた刺激や癒しは絶対に必要だ。私は今、「家では日本文化オタクのフランス好き女子」という、さらにイタいアラフォーになっているのかもしれないが、それもまた人生。楽しいならいいのです。

というわけで、フランス好き女子万歳。




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