第一回「パクりをめぐる経緯と論点」③その他

「③その他」では、私が現時点で言っておきたいことをとりとめもなく書き綴っていく。

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★目次
3.その他現時点で言っておきたいこと
3.1 詫び文について
3.2 マイナビ出版の後手後手の対応
3.3 ことの進め方
3.4 著者のコスト
3.5 お願い(ですます調)
3.6 一般人のほうが面倒くさい
3.7 本件と私
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関連
第一回「パクりをめぐる経緯と論点」①経緯
第一回「パクりをめぐる経緯と論点」②論点

3.その他現時点で言っておきたいこと

3.1 詫び文について

 マイナビ出版が8月21日にHPに挙げた詫び文は現在もなお掲載され続けている。

①詫び文掲載の手続きにおいて重大な瑕疵があった。(後の回で詳述)
②著者が詫び文の撤回を求めている。
③詫び文の法律的、道義的根拠がなくなっている。

 上記の条件が揃っている現時点において詫び文を掲載し続けることは、suimon氏の名誉や尊厳を著しく軽んじているとみなすことができるだろう。放置すればするほどにマイナビ出版の過失は大きなものになっていく。
 詫び文を掲載する時は著者に有無を言わせず行った。撤回する時に千田氏の了解を取る必要などあるのだろうか?

3.2 マイナビ出版の後手後手の対応

 マイナビ出版は千田氏側の旗色が悪くなると沈黙に転じた。suimon氏のメールにも返信を行わなかった。しかし、私がツイッターで意見表明を行うとその翌日にsuimon氏にメールが届いた。そうしたことが2回あった。
 マイナビ出版はSNSの外圧でしか動くことができない会社なのか? 正義・公平や企業理念に基づいての行動をうながしたい。将棋世界で連載を持つ有力棋士の千田氏に忖度し、今度はSNSの声に怯え、うちうちの解決を望み……となると本当にどうしようもないではないか。
 SNSで声を上げることが、背景のない著者にとって大企業や有力棋士に対抗するほぼ唯一の戦い方であることは、あなた方の対応から明らかになってしまっている。沈黙を交渉のバーターにできるはずがないじゃないか。

◆特記事項(結構重要!)
 suimon氏とマイナビ出版等の話し合いにおいて、第三者へ情報を出さないという条件が付けられたらしい。(詳しくは私もわからない。その条件自体が秘密だからだ)
 よって、私がsuimon氏から入手できる情報は9月7日以前のものとなる。これまではsuimon氏の代理人・代弁者的な立ち位置である部分が多かったが、完全に取材者・記者・批評家的立ち位置になるということを意味する。いずれにせよ、次の3.3で書いているように、淡々と本件に関する連載を続けていく。

3.3 ことの進め方

 suimon氏と私は急激にことを進めることはしなかった。もっと早い段階で膨大な量の文章と、論証を公開し、強く反論することも可能だった。私たちはどこかでマイナビ出版社が良心を取り戻し、適切な対応をしてくれるものだと思っていた。自浄作用を働かせてくれるものだと信じていた。
 私たちは急に炎上状態にならないように、少しずつ警告を出して進めてきた。マイナビ出版も千田氏も、自分たちに理がないとわかった時点で引くべきであった。
 本記事の連載に関しては淡々と続けていく。これはあなた方が話し合い、どのように和解しようが関係がない。既に私が得ている情報から、公に知られるべきことを書いていくだけだ。suimon氏にさえ止める力はない。

 本件を業界の裏面史にすることなく、公に記録を残すことが重要だと感じている。棋書の未来のためであり、将棋界の公共のための記録だ。
 大手出版社・新聞社などであれば自社に関する事件については、自社でまとめ、反省し、時には本を出す。本件は将棋界において自浄作用が働きにくい部分であると感じているので、私が代わりに書いているだけである。

3.4 著者のコスト

 本件の対応で著者であるsuimon氏が支払ったコストは膨大である。フルタイムで働くかたわらで、抗議に対する資料を作成し、メール対応を行い、様々な人に相談し、反論を書き、不安におびえた。詫び文は不可解な経緯で出されたが、それは氏の名誉を著しく傷付けるものだった。
 将棋定跡書の出版は市場が限られているので、そもそも割に合う仕事ではない。その上、今回のようなことがあっては苦労とリスクしかない――ということになる。
 有名棋士がクレームを付けるたびに、著者側が我慢して謝り、多大なコストを支払わなければならないならば、アマチュアによる棋書出版文化は廃れてしまうではないか。将棋界内の権力関係や、有力棋士が気に入るか気に入らないかで、大きなリスクにさらされる場所で誰が好き好んでものを書くというのか。
 これもまた別項で書く。

3.5 お願い(ですます調)

 私自身かつてプロ棋士を目指していたこともありますし、現在も将棋ファンなのでマイナビ出版の書籍は数多く買い愛読しています。応援している著者の先生も多く、もっと売れて欲しいと思っています。

 だからこそのお願いですなんです。マイナビ出版はしっかりしてください。校正など大手出版社と比べて手をかけられない部分もたくさんありますが、面白い企画はたくさん出してきていると思うんですよ。有能な編集者もいます。有力棋士に対してそんなに卑屈にならなくてよいじゃありませんか。マイナビ出版が棋士を大切にしなければならないことは理解します。でも、相手が無理筋を言ってきたときに抑え、たしなめるのがその棋士のためにもなるのではないでしょうか。本件では棋士を抑えられなかったがゆえに、結局その棋士の責任を言及される事態になってしまっています。その場しのぎの行動を続けるのではなくて、企業理念とかもう少し大きな原則の下で行動してください。

3.6 一般人のほうが面倒くさい

 棋士のほうが権力があって、面倒くさいというのが本件でのマイナビ出版の対応の行動動機であったと思われる。千田氏は将棋世界で連載を持っているし、やめると言われると面倒だろう。顔を合わせることも多いだろうし、圧力のかけかたも一通りではない。
 だが、本格的に対立する事態となった時に面倒くさいのは実は一般人のほうなのだ。棋士は将棋連盟上層部からの圧力が効く。一般人には将棋界におけるどのような権力も通用しない。将棋界内では権力序列にしたがってなぁなぁで済ませられることでも、一般人はそれで済ませない。一般人をないがしろにして裁判にまで発展した事例を忘れたのだろうか。
 一般人の名誉・尊厳・人権と、一棋士のひとりよがりのプライドのようなもの秤にかけた時、どっちが重たいのだ? 企業として、もっと常識的な判断をしよう!


3.7 本件と私

 私はsuimon氏から相談を受け、本件がどのように進んでいったかを見聞きする中で、「このことは絶対に記録して残さなければならないな」と感じた。
 私は今からほんの2ヶ月前の6月末にマイナビ出版から「奨励会~将棋プロ棋士への細い道~」という新書を出していた。マイナビ出版からの新書第2弾の企画も通り進行中であった。
 本来、そのような関係にある出版社に弓を引くようなことはしたくはない。だが、一人の誠実なアマチュア将棋研究者が踏みつけにされるさまを黙って見過ごすわけにはいかなかった。青春期に自分に力があればなんとかしてやれた友人を助けられなかったことがある。そういう後悔はしたくないのだ。

 私は8月28日にマイナビ出版に対し、新書第2弾の執筆停止の申し入れを行った。suimon氏側に立って言論を行うためであり、本稿を執筆するためのけじめだ。

 本当はマイナビ出版や棋士を向こうにまわしての言論などやりたくはない。今後、将棋小説を出した時に将棋界が応援をしてくれなくなるだろう。これは広告・宣伝戦略において地味に痛い。
 問題のある棋士でもプレイヤーとしては素晴らしく、多くのファンがいる場合もある。一定数のファンからは確実にそっぽを向かれることとなる。
 マイナビという巨大グループと対立するのもプレッシャーがかかる。小心者なので結構メンタルを削られる。権力や大企業に立ち向かう記者やジャーナリストに憧れたこともあったが、あの人たちは本当に凄い。彼らの著作は面白いが、決して自分がなるもんじゃあないと思う。

 本連載は全部書けばおそらく新書一冊分程度の分量になる。原稿料は出ないし、どこかの出版社が拾って出してくれるほどの一般性がある内容でもない。(最終的に電子書籍にして公に残るようにはしようと思うが、採算なんて取れようはずがない)

 だが、仕事の重要性としては私が今年に入って将棋関連で手掛けてきたコラムや新書よりも重いと思っている。業界のどぶさらいのような仕事ではあるが、誰かがやらなければならないのだ。
 上流では素晴らしい棋士達が棋界を盛り上げてくれている。どぶさらいも誰かがやらないと清い川が澱んでしまう。

 コラムや新書を通してリアルのプロ棋界と接近した一年であったが、本件によってそのアプローチは断たれることとなる。詰将棋やネット将棋、アマ将棋界、空想上の将棋界を通してのコミットは今まで通り続けていくつもりだ。

 結局のところ私の人生の問題のほうは小説で打開するしかないということになる。

「小説から逃げるな!」

 なのだ。

(続く)

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橋本長道

現代将棋新定跡をめぐる問題に関して

「コンピュータ発!現代将棋新定跡」(suimon マイナビ出版)に対してプロ棋士・千田翔太六段が抗議を行い、マイナビ出版が詫び文を出した事件の経緯と論点を綴っていきます。
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