冷たい水で、靴を洗う事

小学2年生の頃、昼休みにクラスメイトの男子に「持っていろ」と渡された石を、5時間目のチャイムがなった後の校庭で一人持ったまま立っていた。自分の名前もろくに書けない。授業についていけない。担任はわたしのことを、「本当に教えるのも嫌になります」と、母親に報告したという。

わたしはもうそのときどんな気持ちだったかも、本当にそんな事があったかも思い出せない。

でも、その保護者面談で使われている教室の戸の隙間から担任と話す母親の背中がどんどん丸まっていくのを、その母親の表情がどんなかは逆光で見えないなあと、おもったことだけ覚えている。

今、考えれば彼女は絶対に泣いていたと思うし、保護者面談で保護者泣かす担任マジで終わってるとわかるのに。その時、わたしは何にもわからなかった。その後の学校生活で、いい子にしなさいなどと親から言われたことも記憶もないので、うちの親はそれなりにプライドを持ってわたしを育てていたのかもしれない。

どっかで、線引きをしなければいけばい。
事を進めるためには、どこかで判断して、次の選択をしていかないといけない。

小学校から帰ってきた息子が、
「今日さ、上履き忘れたじゃん。5時間目、上履き洗ってて受けてないんだよね。」と言う。

何を言っているかわからず嫌な顔になりながら、思わず、彼の顔を覗き込んでしまう。

「どう言うこと。昼休みで外遊びしたなら、汚れた靴を拭いて、入るしかないんじゃないの。」

「そうなんだけど、結構汚れちゃって、先生休みだったから代理の先生に、結構汚いですけどって言ったら、綺麗にするしかないわねみたいなこと言われたから、朝の状態くらい綺麗しなきゃだなって、昇降口戻って綺麗にしてたんだけど、戻らなくて、ちょっと諦めて、靴下で教室戻ったら、授業終わってたんだよね。」

「1時間ずっと洗ってたってこと?!」

「うん、まあね。授業終わりましたよって言われた」


ここで、わたしの頭には血が上っていく。
息子に対してと言うより、その1時間息子が靴を洗っていても、気にされなかったことが、どうしても解せない。
高校2年生なら分かる。彼はまだ小学校2年生だ。

「洗ってる時、他の先生が大丈夫かって聞いてきたんだけど、泣きそうだったから大丈夫って答えちゃって、うまくできなかった。」


わたしは完全に怒りに支配される。
わたしの可愛い息子に、何してくれとんじゃ、我が。
小学校で、授業受けないのを放置されるとか、授業を受けていない子が校内で何してるか誰も把握してないとかマジで、どういうことなんだよ。
事を前に進めるためにも、綺麗にならなかったならそこまででいいと、もしくは靴下のままでも教室にいるように、指導できないもんかい。子供が何百人もいるのは、百も承知だよ、目が届かない子もそりゃあいるんだろうよ、分かるよ。

でも、そういう子に対して

「授業は終わりましたよ」

じゃあないでしょ。


療育に週一通ってて、そもそも授業を他の普通とされている子より受けてないんだよ、こっちは。
彼にとって貴重な学ぶという権利であり、義務を軽く弄ぶなよ。

わたしが凝り固まったこうでなければという思考のせいで、何か見えてないなら教えてほしいよ。

担任への連絡事項としてことの経緯と、
「貴重な学びの場が減らないように、本人にも言い聞かせましたが、学校からもご指導くださいますか」と、残す。


翌日、担任からうけた電話では、代理の先生は深くも考えずに、息子の存在を放置していたらしく、わたし的にはその代理の人、大嫌いという決着をした。

子供の権利を軽んじておきながら、自分が代理であることは主張しそうな様子を感じて、ふと思う。


保護者面談で、自分の面を堂々と下げて、わたしの母に「教えるのも嫌になります」と言い切った担任のことを思い出す。


その後、わたしは通っていた大学まであるエスカレーター式の一貫校の小学校から、中学受験をして他の志望校に無事合格するのだけど、その合格を聞いて、わたしに握手を求めて来たのはその2年の時の担任だけだった。

面の皮が厚いなあとは思うが、わたしの担任は担任で、それなりの落とし前をつけてくれたと思う。


自分のしたことには、自分で落とし前をどんな人間でもつけられるし、それが社会的な動物である私たちホモサピエンスの証明だと、わたしは思う。


とりあえず、上履きを忘れない!!!!
そこから!!!!!

あと、わたしは息子が大好き!!!!!



おしまい


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?