よき大人の条件

40代も近づき、このところ思考を過ぎるのは、よき大人でありたいという思いだ。

子供と話す時、自分の見たくない部分だとしてもちゃんと向き合いたいと思っているし、タブーな話題だとしても息子にとって、それを語れる相手は私しかいないのであればそれに立ち向かいたい。
自分の子供以外にも、大人として出来る限り彼らを尊重して話を聞きたい。
私だけの意見を押し付けてしまう悪い癖をどうにか乗り越えなければならないと、ずっと私は考えている。

よき大人を私は目指している。
私にはなかなか、難しい目標ではあるが。


水曜日に担任から電話がかかって来た時、いよいよこんな時が来たのだと思った。

「朝の時間に遊んでいる際、振り下ろした腕が当たってしまったようで、友達のメガネが折れてしまいまして、私もそこにいたのですが、わざとではありませんし、遊んでいる中で起こった事ですから、相手の親御さんへの謝罪などは必要ないと考えてくださって大丈夫です。」

というような事を担任は言っていたと思う。

弁償についての対応はいらないのかと確認して、今のところ必要ないと言われ、電話を切る。

いよいよこう言う事が我が家にも起こった。
肝が冷えていく。

すでに帰宅しているメガネを壊したとされる本人に、声をかける。

「〇〇のメガネ壊れたみたいだけど」

「だれの?」

「〇〇くんの。君の腕がぶつかって折れたみたいだよ。」

「ああ。壊れたって言ってたね」

「彼は君がやったって言ってるみたいよ」

「そう言うなら、俺なのかな。」

「えええええええ、明日、壊してしまってたならごめんなさいって言いなさいよ」

「俺は俺が壊したのかわからないんだけど。」

「だから、壊してしまってたなら、ごめんなさいって言えって言ってるの」

子供から謝らせて何になるのか正直わからないが、そうせざるを得ない。よき大人とかそんなんは後だ。申し訳なさと不安な気持ちで、何かしておかないと!!で頭がいっぱいになる。

翌日、子供が相手に「メガネごめん」(端折りすぎ)と言うと、

「次やったら弁償な」と彼から言われ、いつも通りに過ごしたらしい。

息子からすればやったかどうかもわからない出来事が、あちらからすれば1回目にカウントされていると言う事がどう言う事なのかを、話す。

人は伝えないと、すれ違う。
相手も同じ事が見えてると思うのは、おごりだ。

周りが見えていないことによって妙なことになってしまう事は、行動を変えていけば、繰り返さないようにできるんだから、意識的に行動を変えないとなんだと、唾を飛ばしながら伝える。

「周りを見て、行動を変えるんだね。」

伝わったんだろうか。

「俺はわかんないよ、じゃ、ダメなのよ?あなたにしか見えないあなたのことはわからないんだから、意識的に行動するのよ?」

「忘れちゃうんだよ、その時は俺が考えてやってるよ。けど、その時のことはもう忘れちゃうよ」


伝わっているんだろうか…


相手の親御さんの事を考える。
昨年末にあった保護者会のちょうどその日にすり傷をつけて帰ってきた息子が、〇〇と喧嘩してお互い傷だらけだと、言うのでギョッとして保護者会の場で思わず声をかけたのが、その方だった。

「喧嘩をしたみたいで、ご迷惑かけてしまいすみません」

「そうなんですか?」

「はい、帰って(傷を)見ればわかるかと思うんですが、はい」

のような内容だった。

この時からおそらく、私たちはすれ違っている。

この時、わたしの息子も傷を作って帰ってきている事を、彼女は読み取らなかったし、喧嘩をした彼女の息子本人もそれを言わなかった。
つまりは、彼女は自分の息子を傷つけたのに、正式な謝罪もせずヘラヘラしていた女として、私をジャッジしたのだろうと思う。


メガネが壊れた翌週の月曜日、再び担任から電話がくる。

「メガネの件なのですが、こちらのミスで大変申し訳ないのですが、もう一度聞き取り等をしまして、メガネは3時間目に体当たりされて倒れ込んだ際に机の角に当たって壊れた、とのことで、息子さんに聞いてももう先週のことで思い出せないようで、どちらにしろわざとではないようですが、あちらの親御さんが電話で謝罪をしてほしいとのことで、これから言う番号に今から電話をお願いできますでしょうか?二度ほどその旨で学校にご連絡いただいており、お手数をおかけしてしまうのですが、お願いします。直接お話しして、気持ちをわかってほしいとおっしゃっておりまして、〇〇くんの顔のキズが二度目とのことで、気にされているようです。」


と言う。


「謝罪のお電話するのはもちろんしますし、こちらが壊した可能性がある以上、弁償も対応しますが、二度目のキズと言うのは、一度目の時はこちらの息子も傷を作って帰ってきてることをご存じ無い感じですかね?それならば、それは先生の方から遠回しにでも伝えてもらえますか?それもこれも謝罪するのは違うと思うんですが、お願いできますか?」

と、必死で返事をする。3時間目で、体当たりの意味がいまいちわからない。授業中だったんだろうか。それなら担任が見ていたんじゃないかと聞くと見ていないと言う。

もちろんこちらの傷のことはご存知ないあちらの親御さんにそれは伝えてもらうことになり、指定の時間に謝罪の電話をする。


「先生より連絡を受けまして、ご連絡させていただきました。こちらの息子が周りを見ずに、〇〇くんのメガネを壊してしまったとのことで、大変申し訳ありません。本人に聞いても、詳しいことが分からず、ご迷惑をおかけしてしまいました。弁償についても、対応いたしますので、スマートな方法がわからず申し訳ないんですが、ご遠慮なくご連絡ください。本人ともたくさん話して、今後こういったことの無いように気をつけるようわかってくれたと思うのですが、今後もどうぞよろしくお願いします…」

のようなことを書いておいたメモの内容を繰り返して言った気がする。緊張で声は震えてしまい、手は痛くなるほど冷たかった。

「はい、男の子は、聞いてもわからないことありますよね。今回は授業中の出来事だったようで、男の子同士で休み時間に思い切り遊ぶためにメガネは外して良いのですが、授業中にそうなってしまうのは彼にも気をつけるように言っていただきたくて、よろしくお願いします。」

そんなことを相手の親御さんは言っていた気がする。
私よりもずっと冷静に話してくれて、助かる。彼女は彼女なりに、どうにかこの不安な状況を乗り越えようとしてくれているとわかる。

あちらの親御さんは授業中の出来事であったことを気にされていて、担任は故意の是非を気にしていた事ですれ違ったんだなとあたりがつく。



そのまた翌日、学校から帰ってきた息子が

「〇〇が今から家に遊びに来ないかって言ってるんだけど、行ってきていい?!!」


と言う。

油断していた、その展開は想像してなかった私は、よき大人もクソもなく慌て、

「えええええええ!!!行きたい?!!?ほんと?!!え?!!うそ、なんで、え?!!!とにかくきのこの里持っていきなぁ!!!!」

と、まあまあダサく息子を送り出す。


40分くらいで帰ってきた息子が
「つまんなかったから帰ってきた。」

と言うのだから、おしっこを漏らしそうになる。

聞けば、家には入らずマンションのエントランスでswitchをするのを見るという遊びをしたらしく、早めに区切りをつけて先に一人で帰ってきたらしい。
このタイミングでも、自分の気持ちをしっかり大事にできる息子を誇りに思う。

周りが見えていないことによって、様々な事が彼の知らないところで巻き起こり、当の本人がどこ吹く風なのは、良くも悪くも彼らしい。


その夕方、再び担任からの電話があり、

「〇〇くんは、その日の一時間目、二時間目の休みにもメガネを直してと私のところに持ってきたもんですから、てっきり朝から壊れていたと私が思い込んでしまいまして。」

と言う。

「…彼は、朝の休み時間にメガネはつけてはいけない約束らしいですよ。だから、朝の時間にメガネが「壊れるはずがない」んですよ。この意味はおわかりになりますか?」

と、答える。

「…はい、わかります。お母さんに怒られたくなくてという意味ですね。」

「もし、私たちが予測してる通りならば、また同じようなことが起こった時に、前にも上手くごまかせたから誰かのせいにすればいい!と、彼が思うのは当たり前かなと思いますし、うちの息子の特性でまた同じような事が起こる可能性もあるかと思うのですが、いかがですか?その場合も、今回のように10:0でこちらが謝罪する形でしょうか?」

「顔より上の怪我については故意の是非に限らず謝罪の形を取る形になるかと思います。今回のような破損の場合は、そうならないように、その度にどう壊れた事を確認するようにします。」

と、なんとも煮え切らない事を言う。


行き止まりの壁だけが見える。




君のした事、しようとしている事をわかっていると、ちゃんと伝えてあげるしか、大人ができることはない。逃げ道を消すだけじゃ、ただの行き止まりができるだけだ。どうにかしようとしてる事がわかるから、信じてるんだよと言ってあげるしかない。

子供だったことのある先輩として、大好きな母親に怒られたくないのも、約束を守らなくてがっかりされるのも、誤魔化して上手くいけば安心したのも、全部痛いほどわかる。

でも、これを誰にも指摘されず、それこそ大人になるまでごまかし続けてしまった時、どんな大人になるのか。



よき大人とは、なんなのか、私はずっと、考えている。

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