高の倉ダム「緊急放流」の詳細

10月の台風19号と10月25日の大雨の際に、福島県南相馬市にある高の倉ダムが「緊急放流」を行ったと報道がなされた。

「緊急放流」という言葉はマスコミが使い出した言葉で何か定義があるわけではないので意味が定かでは無いが、平成30年7月豪雨の際の野村ダム・鹿野川ダムが引き合いに出される事が多く、流入量≧放流量とする異常洪水時防災の事を指しているのであろうと察しがつく。

しかし、高の倉ダムは水を供給するための利水ダムでありダムの仕組みや規則を考えても「異常洪水時防災」は発生しない。利水ダムの緊急放流とは何か?確認した。

端的に言えば「ゲート放流を開始した」事を緊急放流と言ったのだ。

高の倉ダム

画像は南相馬市WEBサイトより。高の倉ダムには放流設備が2つしかない。農業用水を下流へ補給するための約2㎥/sの放流が可能な利水バルブと、写真で水が流れ出している300㎥/s以上放流可能なクレストゲートだ。

台風19号では約190㎥/sの洪水、25日の大雨では約120㎥/sの洪水がダムへ流れ込んだ。約2㎥/sしか放流できない利水バルブでは高の倉ダムの小さな貯水池ではすぐに満水になってしまうため、クレストゲートを開けて貯水を放流する。これは利水ダムにおいては通常の操作だが、このクレストゲートを開ける事を「緊急放流」と言った形だ。

クレストゲートを開ける事を緊急放流というのは正確では無く、これまではダム放流として周知していた。しかし当時の状況を詳しく聞いてみれば緊急放流と周知してしまった気持ちは分からなくない。

これまでの大雨でダムの最大放流量は約60㎥/sであった。台風19号ではその3倍以上の放流が必要になり下流が被害に遭う可能性が高かった。さらに放流開始は19時頃で深夜に向けて放流量が大きくなるため、夜間で暗い中避難する事は必至になるためいち早く避難して欲しかった。

だから、通常はダム放流として周知するところ、緊急性を感じてもらいたいがために「緊急」と付けて周知した。

当エントリーにリンクした河北新報の記事には被害状況がこう書かれていた。

菅野秀一区長によると、緊急放流のために地区の10世帯が被災したほか、道路や橋の損壊、農地被害などがあった。
ダムの近くに住む大工小野栄さん(71)は、台風19号が通過した10月12日夜の緊急放流によって自宅が全壊したと訴える。母屋は床上1メートルの高さで濁流が西から東へ突き抜け、作業場や納屋は倒壊した。
 長女から「緊急放流の可能性がある」と電話連絡を受け、午後8時すぎに車で避難した。

けが人や死者については報道が無い事から、専門用語としては正しくは無いものの避難を促す事を目的とすれば緊急放流として周知して正解だったのかもしれない。

雨の降り方が変わり、高の倉ダムのような緊急放流は、どこのダムでも行われる可能性がある。被災した小野さんに話を聞くと”上流にダムがあるから守られていると思っていた”とおっしゃっていた。

ダムからの放流で被害が出る事はどこのダムでも起こり得る。ダムがあるから大丈夫なんて事は全く無い。これを機に住まいの上流域にあるダムは豪雨の際にどんな事をするのか?確認してみて欲しい。

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