相談業務に携わるにあたって心に刻んでおきたいこと
2021年に配信されたちきりんさんのVoicyを聞いて、これまでぼんやりとなんでだろうと思い続けていたことの答えが見つかった気がした。
ちきりんさんはこのVoisyの中で、以下のように言っている。
「人に意見を聞く前に自分の意見を言うのは礼儀」
新社会人向けのビジネス書なり研修なりで、上司に相談する際に「どうしたらいいですか」と聞くのではなく、「自分の意見を伝えた上でどうするか聞け」というのはよく聞く。これも礼儀的な意味合いがあったのかもしれない。
ちきりんさんの言っていることは感覚的には良くわかった。自分の意見を言わずに「どう思う?」とばかり聞いてくる同僚にイライラし、フェアじゃないと感じていたからだ。
でも、それが何故かを説明しようとすると上手く説明できなかった。
その原因は礼儀という言葉にあった。
日本社会的な「敬意の示し方」つまり「礼儀」とは、対人場面で上下(優劣)という立場の違いを作り、相手を自分より上げることで示すものが多い。でも、私にとっての「礼儀」とは、対人場面で上下(優劣)という差をできるだけなくし、フェアであることをいう。
情報は多く持っている方が有利だ。だから何かに対する自分の意見や考えを伝えることは、情報を相手に抜かれるという意味で、一時的に不利になる。
だから、「どう思う?」と一向に自分の意見を言わない同僚に不誠実さを感じるのだと思う。
先にあげた「上司には自分の意見を伝えた上でどうしたら良いか聞け」というのも、日本的には本来上にいるべき人が、情報を引き出されることで弱い立場になるからかもしれない。
理屈は違うが、失礼なことには変わりはない。
心理相談業務にあたるということは、自分のことはほとんど語らずに相手の情報ばかりを聴くということを、呼吸をするかのように当然にしているということになる。
改めて、面接の場面でたくさん話をしてくれる相談者に感謝の気持ちが湧いてきた。
現実的な人間関係では、片方の情報ばかりが渡されるなんてことはない。人が親密になるとき、互いの情報は同じくらいの質や量でやり取りされているものだ。
心理相談というのはそういう意味でとても特殊な空間だ。
もちろん、よく知らない人だから話せることもあるだろう。でも、相手が子どもであればあるほどそれはなかなか通用しない。子どもにとって人間関係というものはいつだって現実の生活と共にあるものだからだ。
そして、いつだって弱い立場にあり、弱さゆえに傷を負った相談室に来室する子どもたちは一層その関係性に敏感だ。そんな彼らたちが、たくさんたくさん語ってくれたことを、それがどんな内容であっても、本当に有難く思う。
相談室に入室した時から、私ははるかに彼らより優位な立場にあるのだということを忘れずにいたい。
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