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サイアノ和紙作家日記 vol.16 『アートツーリズム in 西会津町』

11/28から30日迄の三日間、
福島県西会津町を舞台にした
アートツーリズムを開催した。
東京からは電車やクルマでも不便だし
ランドマーク的な観光地など何もない。
そんな土地を一般的な観光よりも
一歩二歩踏み込んで旅する企画。
僕がコーディネーター役となって
町の文化や自然を体感しながら、
和紙づくりやサイアノ写真の
ワークショップを開催する。
行き当たりばったり感満点だけど、
普段よりちょっとだけ好奇心をオープン❗️
新しい発見や価値観が芽生えてくれたら、
いいなと思っている。

今回のゲストは友人の写真家。
精力的に活動されている方で、
今年は賞も獲得した気鋭の作家さん
(12/23から一緒に作品展に参加する)。
今回は残念ながら紙漉き体験が
できないんだけど、
何か持ち帰ってもらえたら嬉しい限りだ。

早朝、東京を出発して東北道を北上。
高速は途中で降りて
奥会津からいざ西会津へ。
天空の郷と呼ばれる集落を目指して
狭い山道を上っていく。
途中で停めて写真を撮ってまた走ってを
何度か繰り返して山を降りると、
僕がお世話になっている
出ヶ原和紙工房の方々が
田んぼで楮刈り中。

切り出した楮をまとめ中。身体を動かすって刺激になる


今回はタイミングが合わず
顔を合わせられないと思っていたので、
とてもラッキー。 
せっかくなので楮刈りと楮を
まとめる作業をゲストも体験。
作業しながら収穫した楮の生い立ちや、
和紙になる各工程を教えてもらう。

知識に体験が結び付くと
より解像度は増すと思うから、
偶然出会えてホントよかった。
そのあと工房も見学させてもらい、
いろいろな紙や作品を見て
ゲストも興奮気味、
いや、本当によかった。

西会津の定宿は建築家とコピーライターの
カップルが運営するシェア&ゲストハウス。
建築家ならではのアイデアを活かして
築100年以上経つ古民家をリノベーション。
居心地の良い素敵な空間には
西会津で活動する人たちが集る。
今回もまずダンサーがやってきて撮影会。
そのあとも音楽家やアーティストなど、
いろんな人たちが集まって
食卓を囲みながらの団欒タイム×2日。
美味しかったし、楽しかった。

お米がめちゃくちゃ美味しい! 会津名物馬刺しで一杯


こういった場所から新しいことが
生まれたり芽生えたりする。
普段、出会わない人たちとの交流って、
旅の醍醐味だと思う。
一期一会かもしれないけれど、
こういった出会いの積み重ねが、
ヒトを豊かにするんじゃないのかな。

西会津には、野沢と野尻という
旧越後街道の宿場町がある。
中山道の妻籠宿などのように、
江戸時代にタイムスリップ⁉️
といった程ではないが、
間口が狭くて奥に長い家々が立ち並び、
蔵なんかもいたるところにある。
宿場町の風情を残しつつ
そこで生活するリアルさが良い。
そんな町をカメラ片手にスナップ散歩。
表通りばかりじゃなく、
裏路地なんかも攻めると
よそ者には不思議がたくさんあった。
ゲストも出会った人たちに声をかけて、
撮らせてもらっている。
その人らしいスタイルで、
楽しんでもらえて良かったと思う。

裏通りはプチ迷路のように入り組んでてなかなかおもしろい

西会津町にはたくさんの集落が点在する。
数人しか住んでいないところや、
冬は誰もいなくなるところもある。
生活インフラなど考えると
不効率にも思うが、
集落、里山が点在することで
ヒトと自然の境界線が保たれている。
僕が住んでいた夕張は集落を棄てて
集約化しているのとは正反対だ。
目先のことではなく何世代にも渡る
もっと長いスパンて考えたら、
大切なことなんじゃないかと
ここへ来るようになって僕は感じている。

西会津の中でも最奥の集落が弥平四郎。
野沢から山道を約1時間、
30キロ以上も離れている。
僕も初めて行ったが、
意外と大きな集落で驚いた。
旅館も一軒、飯豊山の登山口なので
シーズン中はたくさん人も来るのだろう。
ただ今回はシーズンオフだけに
活気などあるワケもなく、
出会ったのもおばあさんふたり。
だけど、最奥の集落らしい風情は
存分に味わえたし、
時間の進み方が都市とは違うから、
昔と変わらない景観が封印されている。
そういう場所って貴重だと思う。
失われたら再生することは無いだろうし、
ここならではの生活という
無形の文化も存在する。
進むばかりが進化じゃないかもしれない。
そんなことをカメラ片手にふと思う。
写真を撮る行為って、
被写体をただ写すのではなく、
その空間に堆積した何かを感じるから
シャッターを切りたくなる。
そんな澱のようなものが内包しているのが
写真の魅力なんじゃないかな?
弥平四郎ではそんな写欲がより
旺盛になったのだろう、
ゲストはとても忙しいそうだった。

この景観はたぶん、何十年も変わらないだと思う

この町には作家やものづくりをする
移住者や来訪者が多い。
僕もそのひとりなんだけど、
西会津国際芸術村の存在が大きいと思う。
戦後まもなく、
地域の人たちの手で造られた中学校。
もう廃校になってしまったが、
その木造校舎の教室を
展示空間に使っている。

弥平四郎の帰りに覗いてみたら、
発光体の光る間隔や色を
プログラミングし、
さらに和紙や羽根を重ねて表現する
作品を展示していた。
ワークショップに参加した
子どもがつくったんだけど、
なかなか興味深いものばかり。
そもそもテーマ自体、
考えさせられるものもあった。
率直にこんな体験をできるなんて、
うらやましいなぁーと。
こんな環境がとても豊かで素晴らしい❣️

美しさに惹かれて制作意図を読むと深いな~と感心

暗くなった頃、ゲストハウスに戻り
サイアノ写真のプリント体験。
サイアノタイプは19世紀半ばに
発明された古典写真技法。
青のモノトーンが魅力で、
使用する薬品がシンプルなのもいい。
今回は紙漉きができないので、
以前、西会津にある出ケ原和紙工房で
僕が漉いた紙を使用した。
すでにサイジング加工をしてあったので
サイアノ液を刷毛で塗布して乾燥。
さらにもう一度塗って乾燥させて
印画紙の出来上がり。
ネガは事前にゲストがつくってきた
デジタルネガを使用した。
紫外線露光器を当てると
だんだん深い紺色に変化する。
頃合いを見て露光を終了して水洗をし、
オキシドールでコンストラストを高めて完成。
僕としてはもう少し濃度を高めたかったが、
「手づくりの不安定要素があるからこそ
楽しみ。同じものをつくれないのも魅力」。
ゲストがそう言ってくれて、
確かにそうだなと再確認。
写真らしい写真にしたければ、
サイアノでも違うやり方がある。
そもそも紙からつくろうと思ったのは、
感材などがメーカーの意向で
左右されることへのアンチテーゼと、
写真黎明期への原点回帰。
紙漉きはもちろんだけど、
サイジング加工と薬品の塗り方、回数。
まだまだ経験を積まなければだけど、
そもそもの目的を見失わないようにしよう。
キレイに出そうとなっていた
じぶんを軌道修正できてよかった。

二枚のネガをテストプリント。同じネガでも違った表情をみせている



それにしてもゲストがつくったプリント、
妖しくてカッコいい❗️
僕にとっても刺激になる。
今度は紙づくりはもちろん、
撮影やネガづくりも全て、
滞在中にやってもらおう。
そうしたらもっと楽しいだろう。

午後には東京へ戻る最終日、
朝から県境を越えて隣の新潟県阿賀町へ。
地元の活性化のため活躍する
コーディネーターによる
銅鉱山跡地での音楽家の動画撮影企画。
それに同行させてもらうことになったのだ。
ただ、雨こそ降ってはないなが微妙な天候。
徒歩での山道や川渡りなどもあり、
楽器や撮影機材のことも考えて
今回はロケハンのみということになった。

国道から脇道に入り途中からは林道を走る。
しばらくしてクルマを停めて、
川沿いの道を徒歩で約20分。
川沿いの樹々の中から黒い廃墟が現れた。
屋根はすでになくなっているけれど、
それがギリシャ神殿のようで神秘的。
精錬後の銅のカスでつくった
黒くて硬くて重たい
レンガのようなもので建てられおり、
コンクリートとはまた違う
独特な雰囲気を醸し出していた。
その黒いレンガの一つひとつに
年輪のような表情があり、
シャッターを切りまくる。
ロケハンだったため、
荷物運びも何もせず恐縮だけど、
こんなに撮れて感謝感激。
本当にありがとうございます。

ギリシャ神殿のようでもあり、ジャングルの中のアンコールワットのようでもあった。どちらにしても魅力的な場所だった



初日に和紙工房の方々に
偶然出会ったのもそうだけど、
西会津へ来ると予想外、
想定外がよく起こる。
おかげで新しい出会いや発見があり、
それを吸収するからまた来たくなる。
そんな体験を誰かにもしてもらいたくなる。

なんでそんなことが起こるのか?
この町の人たち、特に僕が出会う人たちは
一人ひとりの色が濃くて
アクティブだってことだと思う。
やりたいことやいきたい方向が明確たから、
つねに動いて人と接している。
そんなグルーヴが波及して渦巻いている。
じゃあ、東京の人たちが
アクティブじゃないのかって言ったら、
そんなことは決してない。
だけど、西会津という町のスケールと環境が、
動けばちゃんと響くから
受け止められるんだと思う。

この町へ訪れて蓄えた感性を、
じぶんの創作や仕事、生活に還元する。
そして、その人それぞれのスタンスで
定期的に通うことで、東京と西会津、
都市と地方が互いに刺激、影響しあえる。
そんな好循環が生まれるハズ。

わかりやすさがないからこそ
一歩二歩踏み込めばどんどん拓けて、
新鮮な空気をたくさん吸い込める。
型にはまっていないからこそ、
その人に合った吸収の仕方ができるのもいい。
いまはまだ、作家、アーティスト仲間を
連れて行く段階だけど、
今後はもっと幅広い人たちを
西会津へ連れて行きたい。
じぶんでつくる世界で一つの
和紙写真を通して、
新しい価値観を発見する。
その橋渡し役をやろうと思っている。

今月の展示

職人さんが楮とトロロアオイから手掛けた和紙にサイアノタイプで鋭意制作中!


因州和紙2022『伝統を未来へ』
12月12日-12月17日 10時-18時
(初日は13時開場、最終日は15時迄)
小津和紙 小津ギャラリー
東京都中央区日本橋本町3-6-2

対バン形式による緊張感のある作品展
4つの部屋の住人たちが新宿をテーマに新作を発表する


『アパートメント眞世界』
12月23日-12月29日 12時-19時
ギャラリー・ニエプス
東京都新宿区四谷4-10-1メイプル花上2F



















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