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「バルサが鳥影橋を渡っていたとき、皇族の行列が、ちょうど一本上流の、山影橋にさしかかっていたことが、バルサの運命を変えた。」

ついにこの時が来てしまったなぁ……

わたしはずっと、この本について書くことを避けてきました。
わたしの読書体験のなかでもあまりにも深いところにあるので、言葉にするのがむずかしかったのです。
(もっともっと深く、そして身体の一部のようになってしまった本については、まだしも書きやすかったのですが。)

上橋菜穂子著 『精霊の守り人』(偕成社、2006)

わたしが持っているのはソフトカバーのものですが、はじめて読んだときは単行本でした。
中学のころ学校図書館にあって、本読み仲間のうちでは大絶賛の本でした。

精霊の守り人
空色勾玉

このふたつは、突如として世界に現れた「ハリー・ポッター」を前に、堂々と立つ日本のファンタジーでした。

守り人シリーズも勾玉シリーズも、当時は「三部作」で出ていたので、繰り返し繰り返し読んだものです。
守り人シリーズは、その後さらに大きな流れとなって、合計12冊の長編シリーズになっていきます。

わたしには、この「守り人」と「勾玉」が、日本におけるトールキンとルイスの子ども世代のように感じられました。
ちょうど、「ナルニア国」や「指輪物語」を読んで育った世代が、日本のファンタジーとして生み出したように感じられたのでした。
(孫世代になると、阿部智里さんの「八咫烏」シリーズが来ます。)

さて、精霊の守り人。
どこともつかぬ、でもアジア風の香りをした異世界もののファンタジーです。
主人公のバルサが三十歳の用心棒、というのが、すでに衝撃でした。
児童文学でありながら、主人公が大人の女性。
しかも、この世界観で考えれば決して若くはない女性なのです。

中学生だったわたしは、そのことに驚きつつも、バルサに守られて旅をすることになった皇太子チャグムのほうを身近に感じつつ、物語を読んでいました。
チャグムといっしょに、バルサと旅をしてみたいと思いました。
バルサやタンダといっしょに、山でとれたきのこや野草を煮込んだ鍋を囲みたいと思いました。

そして、バルサと別れて、皇太子としての責務に戻っていくチャグムに置いて行かれた気がしました。

大人になって読み返してみて、今度はバルサの視点で物語を読んでいました。
幼いチャグム、精霊の世界に飲み込まれつつあるチャグムを見ながら、この子はなんて健気なんだろうと思いました。
バルサの愛情と、決して超えることのない壁を感じました。

なんて力強く、生きることに必死な物語だろうと思いました。

ほんっと好きなんですよ、守り人シリーズ。
もう長いこと読み返せていません。
一度読み出すと、この世界から帰ってくるのが大変になるからです。

それだけの力を持った本に出会えることは、本当に稀なことです。
あのとき、中学のときに、このシリーズに出会えてよかったと本当に思います。
そしていまでも、この世界に帰れることを嬉しく思います。


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