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コロナ日記⑬:今日のパンのため、明日のパンのため


※このシリーズは『ペスト』(カミュ著)の内容が出てきますので、ネタバレが嫌な方は見ないでください。

5/6。水曜日。GW最終日。
明日から平日が返ってくるため、Twitter等では普段通り起きれるか心配だという声がいつも通りちらほら挙がっていた。

外出自粛で家にいれば尚更体力も落ちているだろうし、元の生活に戻すのは大変であることは想像に難くない。ここでは元の生活という言葉は不適切かも知れないが。

東京都の感染者数は連日2桁となり、外出自粛の効果が出ていると考える人も少数ながら見るようになった。

そんな中、先日正式に緊急事態宣言の延長が発表され、国の方針では5/31までとするとのこと。
しかし、事態が落ち着き始めていることもあり5月中旬時点で再度期間を検討し、場合によっては早めに緊急事態宣言を解除する方針だ。

また、都道府県別で見ると、大阪府は休業要請について独自の基準を設けて段階的に要請を緩めていく方針で、感染者数が少ない香川県では、5/7以降の休業要請はしないと方針を打ち出してる。

経済について詳しくはないが、経済活動の回復が急がれていることはニュースやSNS等から見て取れる。ニュースでは、自粛についてやstay homeばかりが報道されている訳ではない。

むしろ、緊急事態宣言が延長となったその翌日、働くことができずお金が入ってこない状態にいる人々の現状を映したそのニュースを、自分はなぜかじっと見てしまった。

シビアになってきたのは、感染するかどうかという話より、お金を稼げるかどうか、明日生きているかどうかという話なのではないかという印象がある。何も今になって言われてきた問題ではないが、感染者数が落ち着いてきた中、緊急事態宣言の延長によってこの問題がより注目されてきたと思う。

そこには、働ける人と働けない人という格差が確実にある。


商店街の老舗と開店した飲食店
テレビを見て自分がよく知っている場所が映ったらなんとなく見てしまう。それは散歩番組でよくあることだが、今回はそんな穏やかではなかった。

映されていたのは近所の商店街。
「人がほとんどいませんねぇ。」というお決まり文句の後に、明治時代からやっている老舗店のインタビューが流れた。

緊急事態宣言による休業要請によって営業を中止しているため、売り上げが立たない状況であるとのこと。休業に協力した店舗には補助金を出すという商店街からの連絡があったが、その補助金がいつもらえるかはまだ不透明なまま。

印象的だったのは、このまま休業が続けばお店を閉めることになるとお店の方が言ったその後。
「来月じゃ遅いんです。今お金が必要なんです。」

別のお店も紹介されていた。その店はインド料理屋。
店のオーナーは従業員への給料と店の家賃の支払いでもう貯金が底を着くと言っていた。今は店舗にある雑貨や家具などを売り出し何とか繋いでいるとのこと。オーナーは涙ながらに「どうすればいいかわからない。」と語っていた。

次に紹介されていたのはオフィス街に開店した個人経営の飲食店。
内装や部材搬入などでお金が莫大にかかり、すぐにでも営業をして売り上げを出したいところで、緊急事態宣言となってしまったとのこと。
今後のお店の営業云々より、今働けないことによってお金が入ってこない状態が深刻。オーナーの表情は常に曇っていた。


乖離
少し前に飲食店を営む方のブログを見た。
休業によってお金がなくなってしまうのは、計画性がないだとか経理面が杜撰だとか厳しい批判が飛んでくる中で、中小飲食店の経営にどのくらい費用がかかるのか、自分の店を例にして大まかな指標を出していた。

詳しい内訳などは書くことを控えるが、人件費や家賃などでざっと数千万毎月かかるとのこと。売り上げが0となると、そのままざっと数千万円の赤字。自営業者向けの支援について詳しくは知らないが、国民に支給される十万円とかの話とは比較にならない。

話は続く。
補償金も勿論あるとのこと。しかし圧倒的に足りない。しかも支給までに時間がかかる。加えて、こんな状況で営業すると自粛警察に批判される。とても悲しい現状を訴えていた。

自分の友人に事業をやっている人がいる。そいつは別の友人の事業も手伝っているが、やはり影響は甚大とのこと。

その事業はサービス自体をオンライン化し、何とか軌道に乗せていこうと工夫しているとのこと。

友人がメインでやっている自身の事業の方は、まだ立てたばかりだから最悪白紙させることも考えていると聞き、何だか悲しくなった。

全てを知っている訳ではないが、そいつが悩みながら事業に力を尽くしている姿を少しでも見ていたから。

今は資金調達を再度やり直しているようだから、どちらの事業もまた軌道に乗るように祈ることしかできない。

ペストの話を持ってくる。
物語終盤、ペスト流行下での格差について少し触れていた。
ロックダウンした都市では、外からの供給が必然的に少なくなり物価が作り話のような値になる。裕福な家庭では特に問題なく物資を調達できていたが、貧しい家庭ではその生活を少しずつ蝕まれていった。

生活が困難になってきた人達からは、「自分達に十分な食糧を給することができない以上は、当然退去することを許してくれるべきであろう」という感情が生まれていた。街の外に出ることはできないことを分かりながらも。
(ここでいう退去とは、この街でなくて別の街へ行くということ。十分な生活が保証されないなら、物価が正常な近隣の街へ移っても良いだろうと考えるようになったということ。)

「パンか、しからずんば空気を!」

生活を保証してくれないなら、ペストのない綺麗な空気の中で生活をさせてくれ。そんな叶わない嘆きが言葉になって叫ばれる。

ペストとお金により動けなくなった人達は生死の問題を他者(ペストも含む)に委ねることしかできない状態にあった。


ルール:経済の問題は生死の問題
一方、自分は会社員だ。
幸いなことに仕事もインフラよりのため、仕事がなくなることはなく給料もちゃんと支払われる。自分の収入がなくなる危機感はないに等しい。寧ろ家に入れる人達が羨ましいなんてことも正直言って思ってしまう。

だから、お金の問題が生死の問題になっている状況を、どんな形にしろ意識させられたことは、忘れないように言葉にしようと思って今回は書き始めたんだ。

最初は、経済の問題と生死の問題は別々に考えたいとどこかで望んでいたが、現実はもう表裏一体なのだと認めざる負えない。

大阪府知事が会見で言っていた。
「経済で人を殺してはいけない」と。
お金が入らないから生活ができなくなる、だから自殺するしかないと追い詰められる人を作ってはいけないのだと。

お金と生きることを別々の問題として考えられないのは、もはやこの世界のルールなのだろう。何を今更と思うが、ウイルスはそのことを残酷なほどに見せつけてきた。

保証制度を作ればと思うが、作ればそこからあぶれる人がいる。その人達はなぜ自分達は助けてくれないのかと嘆く。

このルールの中では、全員を救うことはできない。と思ってしまう。
自分も含めてだが、皆んな自分のことで精一杯なのだと思う。

話は飛ぶが、給食関連事業者が学校が休業している影響で売り上げに大打撃を受けているとニュースで見た。毎年当たり前に必要とされる給食だが今は供給先がないのだ。

とある企業では、そんな問題を少しでも解消しようと学校給食に関するキャンペーンを実施している。100%は補填できなくても、このような活動が多くの自業者を救っているのだろう。

ところで、調べてみると給食費は保護者からの集金で賄われているとのこと。その額、一人当たり月約4000〜5000円(小学校も中学校も)

地域によってはこのお金は保護者へ返却される予定とのこと。全ての学校がそうなのかは定かではない。

もしかしたら、このお金はどこかで止まっているのかもしれない。
あくまでもかもしれない。だが。

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