【公演レビュー】2023年7月8日/ジェフリー・パターソン指揮、名古屋フィル、カニサレス〔ギター〕

《プログラム》

愛知県芸術劇場 コンサートホール
名古屋フィルハーモニー交響楽団 第514回定期演奏会
ジェフリー・パターソン(指揮)
カニサレス(ギター)

ラヴェル:スペイン狂詩曲
カニサレス:地中海協奏曲〔日本初演〕
〜休憩(20分)〜
ラフマニノフ:交響曲第3番

フラメンコギターの巨匠が魅せた音彩のカレイドスコープ

「主役」のフラメンコギタリストのカニサレスを初めて知ったのは、2011年のベルリンフィルヨーロッパコンサートをテレビ視聴した時。

クラシックを長く聴いていると正直飽きも感じるロドリーゴのアランフェス協奏曲を、カニサレスはクラシック畑の奏者とは全く異なる流麗で、しかもディテールはくっきり立ち上がる起伏の表現で描き、唸らされた。

今回の演奏会と上記リンクのヨーロッパコンサートは若干重なる要素を持つプログラム構成ゆえ、カニサレスは雰囲気に入りやすかったと推測する。
自作の協奏曲からアンコール2曲まできめ細かいメリハリ、光影陰陽の明滅する無限の引き出しで聴衆を魅了した。
協奏曲の作風は「捧げる」と題したロドリーゴはもとより、カステル・ヌーヴォ=テデスコとの近似性がうかがえるもの。また木管楽器に聴かせるメロディがあるあたりや楽章構成はやはり「アランフェス」風だった。

↑ご本人のInstagram投稿↑
指揮者のパターソンと
親日家のようで色々な写真をあげていらっしゃる

↑「洞窟の神話」にアンコール曲のひとつ「感受」を収録↑

オーケストラの各パートの充実も光る

カニサレスの独擅場と化したコンサートだが、名古屋フィルの充実ぶりも特筆もの。チェロや木管楽器に詩情の織り込み、色彩表現の素早い変化が求められる曲目が並ぶなか、明晰で楽想に応じた質感の使い分けの鋭敏なサウンドを奏でた。

筆者が初めて名古屋フィルの実演を聴いたのは1996年7月25日、サントリーホールにおける楽団創立30周年コンサート。

指揮者の牽引力のもと、若干の綻びはあれどテンションの高い鳴りっぷりに胸が熱くなった。この公演は反響を呼び、CD化されていまなおカタログに残る。

四半世紀以上を経てようやく彼らの本拠地で聴いた名古屋フィルは個々の音楽性、アンサンブルの精度の両方が格段に洗練され、テンションに拠らずとも、力強くしかもきめ細かい音楽を響かせる楽団に生まれ変わっていた。

今回のコンサートを聴いた理由の一つに楽団のフルート奏者・満丸彬人の存在がある。
筆者は10年ほど前、当時学生の彼と短期間ながら同じ職場で働いた。
彼はその後フランスに留学。暫く経って我が家の近所の公共施設で行われるコンサートの告知に偶然一時帰国中の彼の名前を見つけたのが懐かしい。
日本に拠点を移して以降、彼とSNSで交流するようになり、こうして素晴らしい公演と縁を結べた。心より感謝申し上げる。

※文中敬称略※

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