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#32 イスラエルの人工甘味料研究。人工甘味料が与える腸内細菌、ヒト代謝への影響。

現役の腸内細菌研究者がお届けする腸内細菌相談室。
室長の鈴木大輔がお届けします。

本日は、イスラエル発、人工甘味料の最新研究についてお届けします。以前、腸内細菌相談室では、人工甘味料をテーマに腸内細菌との関連性をお届けしてきました。#15では人工甘味料が生まれた背景と機能について扱いました。#16では大腸菌が、人工甘味料の一種である糖アルコールのソルビトールを分解することで、人工甘味料への耐性に関連していることをお話しました。

今回紹介する論文では、合成甘味料のサッカリン、スクラロース、アスパルテーム、植物由来の甘味料であるステビアと、グルコース、糖摂取無し群を用意して、人体に与える影響を比較していきます。

ナショナル・ジオグラフィックが紹介することで、2022年9月現在で話題になっています。人工甘味料と腸内細菌の話題について、キャッチアップしていきましょう!

この内容はPodcastでもお楽しみ頂けます。

https://open.spotify.com/episode/4HVBWx8JKOIKUFjIwW7YFD

ブドウ糖負荷試験による耐糖能の測定

耐糖能とは、血糖値を正常に保つための機能で、インスリンや糖新生が関係しています。耐糖能が損なわれると、慢性的に血糖値が高くなるなどして、疾患に繋がります。

耐糖能の調査のために行われるのがブドウ糖負荷試験です。絶食後に血糖値を測定、続いてグルコース溶液を飲んだ後に血糖値を測定することで、耐糖能を測定する試験です。

結果としては、サッカリンとスクラロースは、グルコース添加剤および糖摂取無し群と比較して、暴露中の血糖反応を有意に上昇させることが分かりました。一方、ステビアとアスパルテームに関しては、耐糖能への有意な影響を与えませんでした。重要な点としては、グルコース群または糖摂取無し群では、耐糖能に影響は確認されなかったことです。

重要なのは、日常的な許容摂取量を下回るサッカリンとスクラロースの短期間の摂取でも、健常者の血糖反応に影響を与える可能性があることが示された点です。合成甘味料それ自体の毒性については懸念が払拭されていますが、体質へ与える慢性的な影響があることを示した点において重要な示唆を与えています。

人工甘味料の摂取による細菌叢の変化について

人工甘味料摂取前のいずれの群においても、糞便中微生物組成と機能は同等であることが事前に確認されました。ここでは、スクラロースおよびサッカリン群において、腸内細菌の組成に大きな影響を与えたことが観察されました。また、4つの糖はいずれも腸内細菌叢の機能に有意な影響を与えることが分かりました。

結果をまとめると、人工甘味料の摂取によって腸内細菌叢の機能に影響を与え、特にスクラロースでは影響が最も顕著に生じることが示唆されました。

ここまでは腸内細菌叢に関する考察ですが、著者らは口腔内細菌叢についても検討しています。スクラロースを摂取することで、6種のStreptococcus属菌の相対存在量が変化し、サッカリンを摂取することでFusobacteriumの相対存在量が減少、アスパルテームを摂取することでPorphyromonas属および Prevotella nanceiensisの存在量が減少するなどの影響が確認されました。

人工甘味料の摂取と耐糖能、細菌叢の関係

ここでは、人工甘味料のレスポンダー・ノンレスポンダーに分けた解析を行います。レスポンダー、ノンレスポンダーとは、人工甘味料を摂取したときに代謝に対して影響がでるか出ないかを示した概念で、レスポンダーは効果があるヒトを指します。ここでは、人工甘味料を摂取することで腸内細菌組成に影響のあったヒトをレスポンダーとしています。

レスポンダーについては、人工甘味料を摂取していない状態と比較して、人工甘味料を摂取している際の解糖系およびTCAサイクルに関する代謝経路の変化が大きいことが分かりました。代謝経路については多くの変化がレスポンダーとノンレスポンダーの間で見られましたが、例えばサッカリンのレスポンダーでは環状アミドのカプロラクタム分解に関する代謝経路が確認され、サッカリンの分解をする可能性が示唆されています。

ここで、腸内細菌叢のさらなる調査のために、スクラロースのレスポンダーとノンレスポンダーにおける糞便を無菌マウスに移植すると、同様の耐糖能が得られたという点は興味深いです。

人工甘味料は無視できない添加物である

この研究は、人工甘味料が代謝には影響を与えないという考え方へのアンチテーゼとなっています。つまり、ヒトの腸内細菌が起点となって人工甘味料が代謝され、宿主の代謝に影響を及ぼすことを示唆しています。

例えば、サッカリンまたはスクラロース摂取群において、血糖値の上昇に対してインスリン分泌が遅れることで、血糖値が上昇し、結果として耐糖能が低下することが示唆されています。

先行研究から、サッカリンやスクラロース、ステビアを摂取したヒトにおいて、その代謝物が便中に含まれることが示されおり、これは腸内細菌が人工甘味料を基質とすることを示しています。

また、別の研究では人工甘味料の存在が一部の細菌種を著しく増加させる可能性があることを指摘しています。これは、人工甘味料が腸内細菌組成を変化させる要因になりうることを示しています。

ここまで人工甘味料の細菌叢と代謝機能への影響を述べてきましたが、かといって、砂糖を積極的に摂取すればよいわけでは無いことは、注意しなければなりません。

今後、食品添加物と腸内細菌叢、そして体質との関連が徐々に明らかになってくるでしょう。人工甘味料と腸内細菌研究の続報をお待ち下さい!

わからないこと、難しいこと、紹介してほしいことがあれば、TwitterやInstagram、Noteコメント欄にてメッセージお待ちしております。

それでは、本日も一日、お疲れさまでした。

参考文献

Jotham Suez, Yotam Cohen, Rafael Valdés-Mas, Uria Mor, Mally Dori-Bachash, Sara Federici, Niv Zmora, Avner Leshem, Melina Heinemann, Raquel Linevsky, Maya Zur, Rotem Ben-Zeev Brik, Aurelie Bukimer, Shimrit Eliyahu-Miller, Alona Metz, Ruthy Fischbein, Olga Sharov, Sergey Malitsky, Maxim Itkin, Noa Stettner, Alon Harmelin, Hagit Shapiro, Christoph K. Stein-Thoeringer, Eran Segal, Eran Elinav, Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance, Cell, 185(18), 2022, 3307-3328.e19.


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