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「なんで公園って英語でparkっていうか知ってる?」

 いや知らん。よりも、なにを突然。よりも先に、───はあ?と思ったし、実際に「はあ?」と言った。想像以上に低い声が出てしまった。「後ろに並んでるカップルの彼女のほう、さっきまで小鳥のさえずりのようなトーンで『パンケーキ楽しみ!待ち時間さえもインスタ映えなう』とかってはしゃいでたのに急に地割れみたいな声出してワロタ」くらいのことを前に並んでいるカップルの彼氏のほうにツイートされやしないかと危惧するほどには低い声が出た。ちろりと横目で確認してみたが、前に並んでいるカップルはすっかり自分たちの世界に入り込んでおり、「りんご」「ごりら」「らっぱ」「ぱせり」「ぱせりか〜、俺ぱの初手はパイナップル派だわ」ぐらいひたすらにどうでもいい会話で盛り上がっている様子だった。

 初めてのデートで口の悪さを早々に露呈するという失態を犯してしまったけれど、彼は気にも留めていないようだった。ほっと安堵の息を吐いたところで、今度はちゃんと「いや、知らんけど」と言って正解を促した。

 「これは18世紀の後半まで遡るねんけど───、」

 こほん、とわざとらしく咳払いをひとつして、彼は語り始めた。その真剣な横顔を見つめながら、やっぱり四つも年上となると知識量ぜんぜんちゃうねんなあなどとぼんやり考える。確か第一印象はあまり良くなかったなあなどとぼうっと思い起こす。首のところにほくろあるんだなあなどと新たな発見をする。きっと新たな発見は、首のところのほくろだけじゃないんだろうなあなどと思った途端、今日が、初めての、ふたりきりの、デート、であることを一気に意識し始めた。

 おおかた五分くらいかけてうんちくを傾れた彼に、純粋に感心したわたしは素直に「へえ、parkの語源ってそんな感じやねんな、ぜんぜん知らんかった。さすが、よお知ってんな」と目を輝かせると彼も鼻高々に「せやろ。まあぜんぶ嘘やけどな」


!??!?!?!


 「っはあ?!?!」前に並んでいるカップルの彼氏のほうの肩がびくっと跳ねるのが見えた。

 ◇

 このはなしを聞いた友人のうち何人かは「なにそのひと、めちゃくちゃ面倒くさいね」と失笑。失笑させてしまったのはひとえにわたしのトーク力のなさが問題であると猛省している。
 面倒くさいといえば面倒くさいひとだったのかもしれない。焼肉を食べに行こうとお店を予約してくれたときのはなしも似たようなもので、「じゃあ▲▲駅の三番出口で待ち合わせて一緒に行こう」っていざ▲▲駅の三番出口に着いてみると、目と鼻の先に焼肉屋さんがある。ま、まさかココ?いくらなんでも近すぎる?ココだとしたら現地集合でよくね?とそわそわしていると「お待たせ〜」と背後からやってきた彼に「もしかして予約してくれたのココ?」と眼前の建物を指差すと「その考察は浅はかすぎる(笑)」と苦笑され、ダヨネと思いながら彼の後ろを着いてったらふつうにその店入って行ったからさすがにコケた。
 面倒くさいといえば面倒くさいひとだったのかもしれない。こちらがつっこむ隙をたくさん与えてくれるすてきなひとだった。

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