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【コラム】マーメイドはひとりで躍る⑦

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 こうやってコラムなんかを書いている僕だが、受験生の時の苦手分野は「現代文」だった。小さい頃から野球中継ばかり見て、読書をしてこなかったせいか、こと文章を読むことに関しては全くダメ。「この表現いいな~」、「ここ大事そうなこと言ってんな~」とかはわかるんだけど、いまいち「論理的」に読み進めることが苦手。だから、問題を解くときはあまり根拠なく、「なんとなく」で解答していた覚えがある。

 そもそも、読書慣れしていない僕にとっては、問題文を読むことはまるで長旅のよう。現代文を案内するガイドが言うには、道中でいかに筆者の言いたいことをつかめるかがキーだというが、当時はその感覚がつかめなかった。「対比」や「『抽象』と『具体』」などのランドマークに気づくには、高校生の頃からコンタクトデビューが必要だったのかも。

 そんな僕が「具体化」を身に染みて感じられるようになってきたのは最近のこと。何の気なく乃木坂46の切り抜き動画をYouTubeで見ていた時のことである。あ、そう、ここにいるみんなにだけはバレバレだと思うが、マーメイドはアイドルが好きなんです。

 流れていたのは、『今、話したい誰かがいる』という、いまから5年以上も前につくられた楽曲。冒頭、こんなフレーズではじまる。

 一人でいるのが 一番楽だった
 誰かと一緒にいると 僕は僕じゃない

 どうやら、この「僕」は一人でいることを好むらしい。他人と接しているときの「僕」は、僕じゃないとまで言う。え、じゃあ「具体的」にどういうことなのよ?  曲は続く。

 小さい頃から ブランコが好きで
 シーソーに乗っている時は ただ相手に合わせた

 この「具体化」に僕は痺れた。まず一人で遊ぶことの具体例に、ヤスシは「ブランコ」を持ってきた。「僕」は一人でいるのが好きだから、公園で遊ぶとしてもブランコに揺れているのが落ち着くらしい。

 一方、誰かと一緒にいることの具体例に持ってきたのは「シーソー」。同じく公園にある遊具で、乗り物という共通点がある。ただ、シーソーはひとりで遊ぶものじゃない。「誰か」といっしょに乗ることではじめて作動するものだからだ。

 そんな誰かと一緒じゃなきゃいけない状況では、「僕」はただ相手に合わせたというのだ。まさに、さきほど「抽象化」した「僕」についての説明を、嚙み砕いて、想像しやすいように「具体化」しているといえよう。入りの2パートだけで「僕」の心情や性格、人によっては容姿までもがイメージできてしまうような、抽象と具体のマジックだと思う。さらに、ヤスシのショーは止まらない。2番の入りはこう始まる。

 林檎を剥く時 母親の指先が
 滑って切ってしまいそうで 嫌いと嘘ついた

 問1の授業を理解できた人ならわかると思うが、これは濃すぎるくらいの「具体化」だ。「僕」は、本当は好きな林檎を嫌いというらしい。なぜかというと、母親が林檎を剥く時、包丁で指を切ってしまいそうでこわいからだという。言ってることはわかるが、例えが深すぎてなにを伝えたいかはわからない。曲は続く。

 何も欲しいと言わなければ 永遠に傷つかずに済む
 僕は何回か その瘡蓋(かさぶた)を見て学んだ 望まない

 なるほど。さっき林檎で嘘ついたのは、なにも望まなければ、傷つくことはないってマインドを持ってるからなんだ。「僕」は過去、なにかを望んでしまって傷ついてことがある。だから、もし万が一、母親が指先を切ってしまうかもしれないくらいならば、好きな林檎なんか食べなくていい。そう、シーソーに乗っているときも、相手が楽しんでくれるように合わせていれば、自分は傷つかなくて済む。2番の入りでヤスシは、「僕」の、「誰かが傷つくくらいなら自分の欲は捨てる」性格を伝えたかったのだろう。

 さて、生徒のみなさんはお分かりだろうか。ヤスシは、1番と2番で「具体」と「抽象」の順番を逆転しているのだ。1番では、先に「抽象的」でメッセージ性の強いことばで引き付けたのちに、多くの人が共感できるであろう幼少期の「具体例」を用い、私たちの頭の中にイメージを植え付けさせる。一転、2番では先に「具体化」、それもなかなか突飛で深いものを提示したと思えば、本質を突いた「抽象化」で私たちを頷かせる。ある意味1番と2番は表現法的には「対比」になっているといえるだろう。いやはや、このことばのテクニックは、さすが作詞家・秋元康と言わざるを得ない。

 もしかしたら、現代文の先生が伝えたかったことは、こんなところに隠れていたのかもしれない。あの時、必死に現代文の問題を解き続けていた僕に告げたい。乃木坂の曲に答えがあるかもしれないよ、と。

 そして、いま何かに悩んでたり、苦しんでたり、不安だったりする人にも僭越ながらお伝えしたい。案外、ヒントは目の前にあったりするらしいよ、と。

執筆・マーメイド侍


【参考まで】

今、話したい誰かがいる 乃木坂46 歌詞

「今、話したい誰かがいる」【シーソーに乗っている時は~】 12連発!
(マーメイドが痺れたシーソーの部分だけをリピートしてくれます)

https://youtu.be/szBMH5oa4k4


【お知らせ】

コラムとは全然関係ない告知失礼します。

マーメイド侍が大学の友人とやってるラジオが、YouTubeでも楽しめるようになりました。本編は60分あるのですが、そんな時間ねえよ!という方のために「字幕付き切り抜き版」もアップしていきます。先日、初の字幕付き切り抜き版が上がりましたので、よければご覧になってください。感想やお便りなどもお待ちしています。
(初の動画編集がんばったので褒めてください。)



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