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人類の闇から生まれた音楽

私は地域のゴスペルサークルに所属しているのですが
今年のゴールデンウィークにはライブに参加する予定でいます。
今、練習中でとても楽しみです。

歌うだけではなく振り付けがあり
映画の『天使にラブソングを』を
ご覧になったことがある方はイメージできるかと思いますが
手拍子をしたりステップを踏んだりスイングしたりなどします。

YouTubeで本場のゴスペル映像を
参考にしながらやっているのですけれども
非常にリズムが難しいなと感じます。

真似をして練習していても、指導する方から
「そこ!盆踊りになっているよ!」と注意されてしまいます。

本場の方たちは軽い感じで
自然に体が動いてそうなったというような感じで踊っておられて
非常にかっこいいです。

ゴスペルはとても楽しく
歌っている人の気持ちや聞く人の気持ちを
高揚させてくれるものだと思います。
ただこのゴスペルというのは
人類の歴史の影から生まれたともいえます。

ゴスペルの元になっているのは「黒人霊歌」と呼ばれているものです。
アメリカに連れてこられた黒人奴隷たちが
教会で歌っていたものが元になっています。

このアフリカから連れてこられたというのは
本当に突然誘拐されるように連れてこられたということで
村を襲ったり、歩いているところを誘拐されるなどして船に乗せられて
突然奴隷の身になったといわれています。

こうして彼らからは様々なものが奪われました。
生命の安全、人としての尊厳、自由、言葉、信仰、文化などです。

彼らの運命というのは非常に過酷なもので
まず船で運ばれていくのですが
その途中で生きてたどり着くことがまずできないといわれていました。
人というよりも荷物として船に積み込まれていたためです。

当時の奴隷船の積み荷マニュアルというのを見たことがあるのですが
いかに多くの人というよりも
多くの物を乗せるかという観点で書かれており
一回見ただけで目に焼き付いてしまうほどに
ぞっととするような絵でした。

アメリカに着いたら着いたで
過酷な労働の日々が待っています。
そして夜眠ったら朝起きてこない…冷たくなっている仲間たちがいる
というようなことも日常だったとのことです。

ゴスペルの歌詞によく
”He woke me up this morning”という歌詞が出てきます。
ゴスペルで”He”といえばイエス・キリストを指し
直訳すると「彼は今朝も私を起こしてくれた」となります。

キリスト兄さんからモーニングコールでもかかってきたのかな
というような感じなんですけれども
朝起きられることが奇跡ということだと思います。
本当ところ私たちみんなそうなのですけれども
特に彼らはそう感じていたのだというのを
この歌詞からも感じ取ることができます。

そのような日々の中で
自分たちの文化、アイデンティティを残そうと模索した中で
生まれたものの一つが黒人霊歌といわれています。
彼らの血の中に流れるリズムや音の感覚などを
歌、音楽に練り込んでいたためです。
キリスト教の神様のことを歌っていると言ったら
奴隷主も無下にはできません。
「何、歌ってんだよ!」と怒られたら
「神様を讃えているんです」と返答すればいいからです。

黒人霊歌の中で私は「Deep River」という曲が特に好きです。

深い川、故郷はヨルダン川の向こう岸
深い川、主よ
川を渡り、集いの地へ行かん

ヨルダン川、つまり中東地域にある川のことですが
おそらくこれはヨルダン川そのものではなく
彼らの故郷を指しているのだと思われます。

黒人霊歌が元になって、ジャズ、ブルース、R&Bなど
現代の音楽のジャンルを代表するようなものが次々と生まれていきます。

若かりし頃のエルビス・ブレスリーが
黒人たちの教会に潜り込んで
その音楽を吸収しようとしたということも聞いたことがあります。
当時は白人の教会と黒人の教会というのは分かれていたため
かなり白い目で見られながら
参加していたんだろうなと思うのですが
それくらいこれまでになく魅力的な音楽だったのだと思います。

もしアメリカの黒人奴隷の歴史がなければ
これらの音楽というのは生まれていないか
あるいはもっと時間がかかったかもしれないと言われています。

人が人を奴隷として扱うという出来事から
これほどまでに美しく
人を幸せな気持ちにさせるものが生まれたというのは
不思議というべきか皮肉というべきか
なんとも言えない気持ちになります。

アメリカのとある刑務所では
公正プログラムの中にみんなでコスペルを歌うという時間があるそうです。
テレビで見たのですが、歌いながら泣いている人もいました。

ゴスペルはエネルギッシュでハッピーな曲が多いですが
バラードなどもあります。
私はクリスチャンではありませんが
歌っていてわけもわからず涙が出そうになることもあります。

自分ではどうしようもないことを
大いなる手に預ける気持ちになれることや
そうすることで「きっと大丈夫」だとか
一人ではないというふうに感じられるからかもしれません。

ゴールデンウィークのライブは
能登の大震災のチャリティーイベントでもあります。
何か一つでも力になることができればと考えています。

カバー写真:UnsplashのFrancesco Albertiが撮影した写真

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