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働くこととモノの奥にある世界◆映画 『駒田蒸留所へようこそ』

現在公開中のアニメーション映画
『駒田蒸留所へようこそ』を観てきました。
この作品はウイスキーの蒸留所が舞台となっており
若くして蒸留所を引き継ぐことになった女性が主人公です。
震災によって原酒が失われてしまい
さらに家族がバラバラになることで製法の一部が失われてしまい
もう作れなくなってしまったウイスキーの復活を目指す
というストーリーになっています。

P.A.WORKSの「お仕事シリーズ」

こちらの作品はP.A.WORKSという
富山県に本社があるアニメーション会社が作られています。
地方のアニメーション会社で有名どころとしては京都アニメーション
(悲しい事件で有名になってしまいましたが)がありますが
ほとんどのアニメーションスタジオが首都圏にある中でも
地方にスタジオがアニメーション会社というのは
珍しいと言われています。

P.A.WORKSさんの作品は
日常の中で主人公たちの感情の揺れ動きや成長を
丁寧に描いているという印象があります。
「お仕事シリーズ」というのが代表的で
旅館を舞台にした『花咲くいろは』
アニメーション制作の現場を舞台とした『SHIROBAKO』
地域振興や街おこしをテーマにした
『サクラクエスト』などが挙げられます。
今回の『駒田蒸留所へようこそ』は
このお仕事シリーズの中の、初の長編映画作品となっています。

ウイスキーについて

私はウイスキーはおろかお酒全般に全く詳しくなくて
ウイスキーというとマフィアのボスが飲んでいるというような
非常に乏しいイメージしかないのですが
映画を見終わったら、思わず
「これってどんな味なのかな、一口飲んでみたいな」と思いました。

ワインもそうですが
長いものでは50年以上も樽の中で熟成させるとのことで
作る人は「この樽を開封するときに自分はいない」という前提で
作っているということだと思います。
これは「次世代が引き継いでくれる」と信じている
そして「次世代に引き継いでいこう」という決意の現れ
というようにも考えられると思いました。

ウイスキーについて知らなかったこととして
基本的に異なる原酒をブレンドすることを前提にしたお酒である
ということがありました。
ウイスキーを醸成する樽のことを「カスク」といい
「シングルカスク」は一つのウイスキー樽の原酒を使用して
ボトリングしたウイスキーのことを指すそうです。
ブレンドをすることで
さらに深みのある香りや風味を出すことができるとのことでした。

主人公が復活させようとしているウイスキーは
「独楽」という名前のブレンドウイスキーとなっています。
職人が居て、設備もあって
それでも同じものを作ることが困難というのが描かれていきます。
まずベースとなる原酒が震災で失われおり、かつ
先代が過労で早く亡くなってしまうという不幸があったことによって
レシピの一部が失われてしまいます。
このことから、非常に様々なピースが重なり合って
ようやく一つのウイスキーができるんだというのを感じました。

主人公にとってウイスキーというのは家族の絆そのものであり
復活させようとしている「独楽」というのは
幸せだった頃の記憶そのものだというように描かれます。
彼女は「バラバラになった家族をつなぎ留めたい、もう一度取り戻したい」
という思いを持って、ウイスキーの復活に取り組んでいきます。

望んでその職に就いたわけではないけれど

この作品は「お仕事シリーズ」の一つということで
働くことというのもテーマになっています。
そして私が感じた主要な登場人物の共通点としては
「実は望んでその職に就いたわけではない」というところであり
取り組んでいくうちにその仕事が好きになっていく
というところだと感じました。

主人公の女性というのは元々美大生だったのですが
美術の道を諦めてウイスキー会社を継ぐということになりました。
そしてもう一人の主人公の男性(ニュースサイトの記者)は
とりあえず今の会社に就職したという感じで
やりたいことがわからないことに悩んでいる
というキャラクター設定になっています。
そしてかなり嫌々、駒田蒸留所に取材に来ることになります。

そして女性主人公とちょっと口論になる場面では
「あなたはやることが決まっていていいですね」という
暴言を吐いてしまいます。
(最終的に平手打ちにされてしまうんですけれどもね)
この主人公はやる気がないということが起因となり
いろんなやらかしをしてしまいます。

その男性主人公の上司は非常に指導が上手で
つかず離れず、助言や手助けをするタイミングが絶妙で
素晴らしいなと思って見ていました。
ただ、この上司も元々は記者ではなく放送作家を目指していた
との話が出てきます。

主人公の男性から見ると
その上司は彼にぴったりな仕事に就いて
生き生きと働いているというように見えているのですが
記者になったのは、ただ人に頼まれることをやっているうちに
いつのまにか今のポジションについたということでした。

このように皆が自分が今いるポジションを
本来望んだわけではないのですが
それがダメなことかというと全然そうではない
ということも描かれていきます。

多くの人が卒業文書に書いた夢の通り生きられるわけではないし
第一志望が叶うわけではないのですが
それは悲しむべきことではないし
何かを諦めてしまったということではないと思います。
どんな中でも仕事の中に喜びを生み出すことができる
というメッセージのように感じました。

モノの奥にある深み、奥行き

また今回の映画を見てモノの奥にある深み…奥行きというのも感じました。
最近、手仕事や伝統工芸に興味を持って
色んな体験教室に行っているのですが
体験する前と後とでは
お店に置いてある商品の見方が全く変わるなと感じています。

体験をする前ですと
単純に「綺麗だなぁ」とか あるいは「高いね」と思ったりするのですが
体験を受けた後は
(1時間、2時間の体験でその仕事のすべてがわかるわけでは
 当然ないのですが)
「この色とかこの形に仕上げるのはどれだけ大変なんだろう」
というのがなんとなく想像つくようになりますし
どんな思いで作られたのかなと
教えてくださった職人さんたちの顔が浮かんだりします。

また、伝統工芸ですと
ただ先代から引き継いだものをずっと続けているわけではなく
現代に合わせて新たにどんどん変化させたり
挑戦しているということがあるため
どんな気持ちでどんな挑戦をしておられるのかなと
イメージすることができます。

このように身の回りにあるものは単純に自分が知らないだけで
驚くほどいろんな人の思いや歴史
アイディアが詰まったものなのだと感じています。

今回この映画を通して擬似工場見学や
擬似ウイスキー作り体験というのができ
ウイスキーの奥にある世界に触れることができたなと感じています。

ストーリーは非常に人の心に感情に触れるので
ストーリーによって魅力を伝えるというのは
一つの良い方法だなと思いました。

今回の映画のモデルになった蒸留所はいくつかあるそうなのですが
その中でもウイスキーに関する設定の監修というのを
三郎丸蒸留所さんが担当しておられます。

そしてこの三郎丸蒸留所は実際にKOMAというウイスキーの
復活を目指しているそうです。
映画公開と同時にクラウドファンディングをオープンされており
すでに目標の390%を達成しておられます。

こんな感じで物語の世界と現実をうまく結びつけていて
すごく訴求効果があって企画力が素晴らしいと感じました。

興味のある方は映画をぜひ観ていただきたいのですが
それを通してクラウドファンディングに興味を持たれたら
ぜひクラウドファンディングのページも見てみてください。


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