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『アマテラスの暗号』感想

本日は、最近読んだ小説
伊勢谷 武さん著『アマテラスの暗号』についてご紹介します。

神道とはなにか?
天皇家の正統性とは?
日本人はどこからきたのか?
われわれにとってタブーでありつづけた、古代史究極の謎。
──その鍵は最高神“アマテラス”
そして宮中最大の秘祭 “大嘗祭”に封印されていた……
元ゴールドマン・サックス(NY)の
デリバティブ・トレーダー、ケンシ(賢司)は
日本人父との四十数年ぶりの再会の日
父がホテルで殺害されたとの連絡を受ける。
父は日本で最も長い歴史を誇る神社のひとつ
丹後・籠神社の宗家出身、第八十二代目宮司であった。
籠神社は伊勢神宮の内宮と外宮の
両主祭神(アマテラスと豊受)が
もともと鎮座していた日本唯一の神社で
境内からは1975年、日本最長の家系図『海部氏系図』が発見され
驚きとともに国宝に指定されていた。
父の死の謎を探るため
賢司は元ゴールドマンの天才チームの友人たちと日本へ乗り込むが……

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ここからは少し話の内容に触れていきます。
ネタバレはしませんが
これから読む予定で、何の前情報もなく読みたいという方は
ここで止めて、読み終わった時に
また戻ってきていただけると嬉しいです。

ストーリーの主軸になってくるのは
「日ユ同祖論」というものです。
これは日本とユダヤが共通の祖先を持つのではないかという説です。

最初は距離的に離れているのでまさかと思ったのですが
日本語と古代ヘブライ語には3000語を超える
同じ発音だったり、同じ意味の言葉があるそうです。

これは知っている人は知っているという話だったようで
(私はこの小説で初めて知ったのですが)
YouTubeで「日本 ユダヤ 言葉」という検索してみると
ものすごくたくさん出てきます。

その中でも分かりやすいなと感じたのが
カイ・コーヘンさんという
イスラエルと日本のハーフのYouTuberさんの番組でした。

特にカタカナがよく似ているという解説をされていました。
興味のある方はご覧になってみてください。
カタカナで「アメリカ」と書いたら
イスラエルでは違う意味になってしまうという話が面白くて
ちょっと笑ってしまいました。

本書にもたくさんの例が出てきます。
特にご神事に関する共通点が多いという風に書かれていました。

何かを担いで運ぶ、特にお神輿などを担ぐ時は
「ワッショイ」とか「エッサ」と言うと思いますが
「ワッショイ」というのは古代ヘブライ語では
「神が来た」という言葉になったり
「エッサ」というと「運べ」という意味になったりするそうです。

京都の祇園祭りの開始の合図に
「エンヤラヤー」という言葉があるそうなのですが
古代ヘブライ語を勉強した方には
「エァニ・アーレル・ヤー」という風に聞こえるそうで
この言葉は「私はヤハゥエを賛美します」という意味になるそうです。

神社の前には鳥居が建っていますが
ソロモン宮殿の入り口のことも「トリイ」というそうです。
その入り口の横には2本の柱「ヤキン」と「ボアズ」が建っています。

日本の古い神社では
鳥居というのは二本の柱だけだったり
あるいは二本の柱の間にしめ縄を渡してあるだけというものだそうで
ここにも共通点が見られます。

また伊勢神宮の警備の仕方、交代の仕方、交代の儀式や人数なども
古代イスラエルの第2神殿で行われていたものと
全く同じということを突き止めた研究者がいらっしゃるそうです。

日本の主な神社の創設者にあたる一族に
秦一族(秦氏)という人たちがいたらしいというのも言及されていました。
これも知っている人は知っている話で
(やはり私はこの小説で初めて知ったのですが)
YouTubeで調べてみるとものすごくたくさん出てきます。

秦一族(秦氏)というのは
第14代から15代天皇の頃に日本に移住した人たちのことを指すそうです。
およそ2万人くらいの人たちが移住したとのことで
養蚕、織物、灌漑、建築、土木、冶金、農業、芸術など
さまざまな文化や技術を日本にもたらしたと言われています。

現在日本国内には神社はおよそ12万社あるそうですが
その約半数以上が秦氏が創設者となっています。
稲荷神社、八幡神社、八坂神社、白山神社
比叡神社、山王神社、日吉神社、松尾神社などなど…
全国各地で見られる神社の大元になっています。

この秦一族はペルシャあたりから
シルクロードを通って日本へ来たと言われており
陸のシルクロードを通って中国から日本へ来たという説と
海のシルクロードを通って沖縄を経由してきた説などがあるそうで
本書ではこちらを採用されていました。

そして今の徳島県、和歌山県あたりに上陸し
三重県に拠点を築いていたとのことです。
現在でも名字に
ハタさん(秦、畑、畠、羽田、など)
ハガさん(羽賀、など)、ハダさん(羽多、など)
ハットリさん(服部、など)、ハンダさん(半田、など)の
氏名を持つ方々は、その秦氏の末裔であると言われています。
非常に大きな影響力を持った一族だったということで
現在の神道の基礎を築いたとも言えます。

その秦氏というのがペルシャの前
そもそもどこから来たのかということですとか
一体どんな人たちだったのかということですとか
一体どうして日本に来たのかというところが謎に包まれており
この物語の中の主軸になっています。

また「神話とは、神道とは」という話が
本書の中では繰り返し取り上げられています。

「神の存在を信じている」というふうに言うと
「いくつになってもサンタさん信じているんだね」
みたいな感じの反応をされる時があるなと
(私だけかもしれませんが)感じることがあります。

ただ本書の中で書かれていたこととして
毎年、神社に参拝する人の人数というのは
メッカに巡礼するイスラム教徒よりも多いと言われています。

神道について、登場人物の言葉を借りてこのように説明されていました。

神道はほかの宗教のように論理の上に成り立っているのではなく
心の上に成り立っているといえると思います。
だから神道には
明示的な真理も、善悪も、正義も、罪も、罰も、業もありません。
高天原という神々がいるところはありますが
どんなに善行を行っても人間が死後行けるところではないので
天国ではありませんし
黄泉や常世や幽界も
罪を犯した人が行くところではないので地獄ではありません。
でも逆に、神道にはもっと感性的な
清いものと穢れたものの区別や
美しいものとそうでないものの区別などはあります。
日本人が日々の生活のなかで、なんとなく心のどこかに感じている
〝清く〟〝正しく〟〝美しく〟といった美学は
神道からきている感性です。

伊勢谷 武 著『アマテラスの暗号』

明確な教義がないというところにおいて
他の宗教との矛盾が起きないので
いろんな宗教を受け入れてきたという面があります。

縛りがないため
ぼんやりと日本人の意識とか価値基準の根底に流れているものの
それを改めて説明しろと言われると
ちょっと難しいなと感じてしまいます。

私自身、神道に関する知識はかなり薄く
持っている感覚というのはアニミズムに近いですが
「あなたは何を信じているのですか?」と聞かれたら
答えに急するのではないかなと思います。

本書を読んで、神道=アニミズムと
言い切ることもできないなと思いました。
さまざまな歴史や民族、文化などが流れ込んできて
混然一体となったものなんだなというのも感じました。

本書の主人公は日本育ちの日本人ではなく
日本にルーツを持ったアメリカ育ちの男性ということになっています。
本書内で神道の説明をする際に、不自然にならないため
あえて日本文化と少し距離のある
キャラクター設定になっているのだと思われます。

ストーリーの中では何度も
神道や日本文化の前提知識があった上で
その前提が覆されるというふうな流れになります。

文章の中に「4人は驚愕のあまり言葉を失った」とか
「ケンシはそれを聞いて自分の耳を疑った」などのように
登場人物たちが非常に驚くシーンがあるのですが
私自身そもそも前提知識がないので
「ここ驚くところなんだ!」となってしまいました。
おそらく著者が読者に求めている知識レベルよりも
下だったんじゃないかなと思います。
わからないことがたくさん出てきたので
ネットで調べながら読み進めました。

著者のあとがきに
歴史学者トインビー氏の言葉が引用されていました。

これまで世界の歴史の中で
12歳までに自民族の神話を教えることをやめた民族は
全て100年以内に消滅した

著者はこの「日ユ同祖論」というのが
様々な賛否両論があるということを承知の上で
今回の物語を書くことにしたそうです。
それは神話というものが
日本人の中から失われつつあることへの
警鐘を鳴らしたいためだったとのことです。

合理主義や物質主義によって解体され
消えていこうとしているということを
非常に危惧しておられて
登場人物の一人である若い神職の方の
悲痛なセリフとして語られていました。

自分たちがどのような神話を持つのか
神道とは何かということを
自分を形作っているものを知る一つとして
紐解いてみたいなと感じました。

カバー写真:UnsplashSzymon Shieldsが撮影した写真

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