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微生物検査 危機一髪!(27)

[第27回]新型コロナPCR 危機一髪

山本 剛 やまもと ごう
神戸市立西神戸医療センター臨床検査技術部

(初出:J-IDEO Vol.5 No.5 2021年9月 刊行)

 新型コロナウイルス感染症が流行してもうすぐ2年が経過しようとしています.感染症診療や感染管理に関わりの強い皆さまも息切れすることなく長い距離を走り続けているところと思います.
 新型コロナウイルス感染症の診断・治療,そして感染管理に必要とされるのがPCR検査です.PCR検査は最近では自動化した機械も多種類が販売されていて,開業医でもPCRができる時代になっています.保健所などの公的機関は今でもリアルタイムrt-PCR(rt-PCR)法が主流です.大量検体を一度に処理することができますが,検査結果の解釈が難しいことやコンタミネーションのリスクも高いことから,その注意点について理解する必要があります.今回は新型コロナウイルスrt-PCR検査についてその特徴を紹介します.

1.新型コロナウイルスPCR検査の特徴について

 PCRとはpolymerase chain reactionの頭文字で,2本鎖DNAをポリメラーゼという酵素の働きを利用して核酸増幅を行うことで検査をします.新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はRNAウイルスなので一度逆転写でRNAをDNAに合成したものを用いてPCR反応を行っていきます.
 DNAを合成していく過程で蛍光色素が発色すると,合成されるDNA量に比例して蛍光強度(RFU)が上がっていきます.あらかじめ検量線を引いた陽性閾値を超えると陽性と判定されますが,この陽性閾値を超える増幅サイクル数をCt値として表示しています[図1].つまりSARS-CoV-2の量が多ければ,RFUも早めに多くなり,Ct値が低い段階で陽性判定されるようになっているので,Ct値を参考にウイルス量の多さを推測することができます[図2].第5波の主体となっているデルタ株はウイルス排泄量が従来株に比べて多く,Ct値が低い症例が多いという報告もあります【1,2】.

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