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泣く子も黙る感染対策(22)

[第22回]新型コロナウイルス感染症の感染経路

坂本史衣 さかもと ふみえ
聖路加国際病院感染管理室マネジャー

(初出:J-IDEO Vol.4 No.5 2020年9月 刊行)

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染経路に関する考え方が変化している.報道された通り,2020年7月9日に各国の研究者らが連名で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が空気感染するとの書簡を専門誌上に発表し,WHOに感染対策を見直すよう要求した【1】.これを受けてWHOは同年7月10日に空気感染の可能性を否定しないとする公式見解を発表した【2】.また,接触感染について米国疾病対策センター(CDC)は,恐らく主要な感染経路ではないとの見解を表明している【3】.今回はCOVID-19の感染経路に関する最近の知見を紹介する【4】.

❶ 飛沫感染

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の主要な感染経路は飛沫感染と考えられている.
 飛沫感染とは,咳,くしゃみ,発声などの際に,飛沫dropletが鼻や口から飛び出し,短い距離を飛んで正面にいる人の顔に直接かかり,飛沫に含まれる病原体が眼,鼻,口の粘膜から感染する経路をいう【5】.飛沫は水分を含んで重たいため,排出後は速やかに重力によって落下する.飛散する距離は約1~2メートルと考えられているが,激しいくしゃみをした場合などはより長い距離を飛ぶことがある.
 咽頭からのSARS-CoV-2排泄量は,発症2~3日前から直前にかけて上昇する【6】.また,COVID-19二次感染例の約48~62%は,この発症前の無症状(pre-symptomatic)期にある患者から感染していると推定されている【7】.
 感染者との距離が近く,また,感染者との接触時間が長いほど飛沫感染のリスクは高いと考えられる7).無症状者の鼻や口から出る飛沫を抑えるために,1メートル以内に近づいて会話をする場合はマスクを着用するユニバーサル・マスキングが推奨されている【8】.

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