見出し画像

抗菌薬選択チェックメイトへの道(23)

[第23回]Controversialな揺らぎのなかで

山田和範 やまだ かずのり
中村記念病院薬剤部係長

(初出:J-IDEO Vol.5 No.1 2021年1月 刊行)

医師「5日前に腰痛を訴えて入院になった患者さん.入院翌日に血培2セット採取していたのですが,採取5日目の今日,1セットからEnterococcus faecalisが同定され,もう1セットからグラム陽性球菌(GPC)陽性の仮報告がきました.薬剤感受性結果は未着です.推奨抗菌薬はありますか?」
薬剤師「現在の患者さんの状態とfocusはどちらとお考えですか?」
医師「入院後も発熱はなく循環動態も安定しています.疼痛に対しNSAIDsの内服薬,坐薬に加え,ペンタゾシンを筋注して対応していますが,鎮痛剤の効果はあるようです.意識レベルも問題ありません.L3/4の椎間板炎があり,腸腰筋膿瘍も疑っています.」
薬剤師「骨ですか,長期戦になりそうですね.E. faecalisの骨感染であればempiricには,バンコマイシン(VCM)とアンピシリン(ABPC)の併用になりますが,診療録を確認してからの返事でもよろしいでしょうか?」
医師「はい,構いません.今日は午後から椎間板を生検するので,そのグラム染色の情報も合わせてよろしくです」
薬剤師「承知しました.入院時から抗菌薬は投与しなかったのですね」
医師「もし感染症なら,長期戦になるので起因菌を同定できればと考えていました」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
Point!
待てる状態なら抗菌薬投与前に各種培養検査で可能な限り起因菌を捕まえるアプローチを!
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
薬剤師「さすがです!」

 当該患者が入院している病棟で診療録および,検査結果を確認しました.
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
コンサルト時現症
79歳,男性.身長169 cm,体重70 kg.
【主訴】腰痛
【入院時からの現病歴】 1週間前に自宅でTVを持ち上げた際に腰痛出現.T病院を受診し,点滴施行され帰宅.その後も腰痛は継続し,腰痛による体動困難のため救急車を要請し当院に搬送され急性腰痛の診断で入院となった.画像所見からL3/4椎間板炎と腸腰筋膿瘍も疑われた.入院後は発熱なく,体動時の痛み(左下肢の可動域制限)がみられ,ロキソプロフェンの内服で痛みがコントロールできず,トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェン配合錠も追加となる.ジクロフェナク坐剤の頓用で痛みがおさまらない場合はペンタゾシンも使用していた.
【既往歴】左脳梗塞(21年前:入院加療),右慢性硬膜下血腫(16年前:緊急外ドレナージ施行),虫垂炎(詳細不明),前立腺肥大症(8年前:未治療)
【アレルギー歴・副作用歴】なし
【飲酒歴】ほとんど飲まない
【喫煙歴】なし
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
検査結果(入院時)
【血液検査】
WBC 8,880/μL, Hb 12.1 g/dL, Hct 36.0%, Plt 23.3×10⁴L, Cre 1.35 mg/dL, Na 136 mEq/L, K 4.2 mEq/L, Cl 103 mEq/L, Ca 8.4 mg/dL, CRP 22.08 mg/dL
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
検査結果(コンサルト3日前)
【血液検査】
WBC 10,100/μL, Hb 11.5 g/dL, Hct 24.7⁴%, Plt 27.1×10⁴/μL, AST 24 U/L, ALT 24 U/L, LDH 173 U/L, γ-GTP 18 U/L, T-bil 0.6 mg/dL, BUN 16.8 mg/dL, Cre 1.18 mg/dL, Na 136 mEq/L, K 4.5 mEq/L, Cl 103 mEq/L, Ca 8.5 mg/dL, CRP 16.62 mg/dL
【腰部MRI】
腰椎MRIでL3/4椎間板炎を認める[図1],左腸腰筋の一部にT2で高信号域あり[図2].
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

ここから先は

7,303字 / 6画像

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?