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抗菌薬選択チェックメイトへの道(7)

抗菌薬選択チェックメイトへの道(7)
[第7回]ヒッカムの格言デジャヴュ
山田和範 やまだ かずのり
中村記念南病院薬剤部係長


医師 「5日前に脳梗塞で入院になった患者さん,昨日から39℃台の発熱と咳嗽が見られ呼吸器感染症を疑っています.インフルエンザ迅速検査は陰性でした.おすすめの抗菌薬はありますか?」
薬剤師 「肺炎ですか?」
医師 「うーん.酸素飽和度の低下もないし,呼吸数も16回/分と増加もありません.胸部単純X線写真でも明らかな浸潤影は認めないんですよね.ただ,咳をしているのが気になります.尿培養と痰培養検査はオーダーしました」
薬剤師 「そうですか.患者さんの様子を見た上で抗菌薬の提案を含め報告したいと思います」
医師 「わかりました.連絡お待ちしています」

 ベッドサイドに行く前に,診療録および,検査結果を確認しました.

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入院時現症
65歳,男性,身長167cm,体重80kg
主訴 失語
現病歴 もともとADLは自立していた.受診当日の14時ごろから会話が成り立たなくなり,また,異常行動が見られたため家族に付き添われ当院受診.頭部MRI 画像上,左中大脳動脈領域に散在性の急性期脳梗塞を認めたため入院となった.来院時の意識レベルはJCSⅠ—2,右上肢MMT5—/5程度,従命可,復唱可,物品呼称不可.
既往歴 高血圧症(6~7年前),喘息(6~7年前),躁うつ(10年前),胆石(30年前),右耳難聴(発症時期不明)
アレルギー歴・副作用歴 なし
飲酒歴 機会飲酒程度
喫煙歴 あり(20~39 本/日)

入院4日目(コンサルト時)検査結果
血液検査
WBC 3,000/μL,Hb 11.8 g/dL,Hct 34.8%,Plt 16.9×104/μL,Na 139 mEq/L,K 3.5 mEq/L,Cl 105 mEq/L,BUN 18.5 mg/dL,Cr 1.47 mg/dL,T—bil 1.2 mg/dL,AST 40 U/L,ALT 22 U/L,γ—GTP 21 U/L,CRP 12.78 mg/dL
尿一般検査
pH 5.0,WBC<1/HPF,タンパク(1+),尿糖(-)
胸部単純X 線 明らかな浸潤影なし[図1]
インフルエンザ迅速検査 A(-),B(-)

[図1]胸部単純 X線写真(立位)

内服薬服用歴
当院処方(入院翌日より服用開始)
・クロピドグレル錠(75 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
・アスピリン腸溶錠(100 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
・ファモチジン錠(20 mg)
 1回1錠 1日2回朝夕食後
A内科クリニック
・エカード<span class="○R・中ゴ CharOverride-1">®配合錠HD
 1回1錠 1日1回朝食後
・アゼルニジピン錠(16 mg)
 1回1錠 1日1回朝食後
・モンテルカストナトリウム錠(10 mg)
 1回1錠 1日1回就寝前
Bメンタルクリニック
・炭酸リチウム錠(200 mg)
 1回2錠 1日2回朝夕食後
※入院後はA内科の内服薬はモンテルカスト以外中止.炭酸リチウムは持参薬継続.

注射薬使用歴(入院時より実施中)
・アルガトロバン注
 1回10mg 1日2回点滴静注
 ( 初日と2日目は 60 mg/日,24時間点滴静注)
・低分子デキストラン糖注® 500 mL
 1回500 mL 1日1回点滴静注(日中消化)
・ラクテック注® 500 mL
 1回500 mL 1日1回24時間点滴静注
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 診療録および温度板からは,入院から昨日まで血圧は135/80 mmHg前後で推移し,脈拍は70 bpm前後で落ち着いていましたが,昨日の夜から39.5℃の発熱を認め,ロキソプロフェンを1錠頓服で服用していたことがわかりました.今朝には一時,36.5℃まで解熱したものの,日中また39℃まで体温は上昇し,血圧は110/60 mmHgと下がり,脈拍は100 bpmと上昇していました.

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